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こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

こんな国に生まれて…日本狼…純粋バカ一代…山崎友二

「宝石屋」

【1】
「カメリヤ」だったろうか。「スィートテンダイアモンド」と言って、結婚十年で、奥様にダイヤが10個付いた指輪をプレゼントしようというTVCMが、盛んに流れていた。
俺には、ダイヤを送る旦那さんがかっこよくも見えなかったし、なぜ奥様だけプレゼントされるんだよと思っていた。
宝石屋だから、いかにしてダイヤの指輪を売るかの末の、しつこいようなCMだったのだろうが、気に入らないと考えていた。
社内の休憩時間に、その話をしていて、また興奮してきて、カメリヤ本社に電話しようということになった。
こいつは、いろんなところの本社に電話するやつだなと思われていたんだろうが、みんなにも刺激になってよかったようだ。
カメリヤの電話番号を調べて、本社に電話することになった。住所は東京銀座だった。それも、嫌みったらしくて嫌いだ。

【2】
カメリヤ本社に電話して、広報担当者にでてもらった。
「おたくの、スイートテンダイヤモンドのCMが気持ち悪いんだけど、放送中止してくれるかな」
「どういったところが、お気にさわったんでしょうか?差し支えなかったら、お教えください」
「あのね、夫婦でプレゼントするのはいいことだと思うけど、なんで旦那さんが奥様にだけ一方的にプレゼントすんのよ?」
「ご主人は、奥様に10年間支えてもらったという感謝の気持ちでいいと思いますが…」
「旦那がかわいそうだろ。10年間会社で怒られながら頑張ってきたのに、家庭では指輪にお金遣わされて…」
「ご主人が会社で頑張ってこれたのも、奥様が支えてくれたから、ということもありますから…」

【3】
「それはお互い様だろう。『内助の功』なんて言うの?江戸時代じゃあるまいし」
「はあ…」
「指輪を売りたかったから、女性だけに訴えかけたんだろう」
「たしかに、指輪は女性のお客様が多いですから…」
「夫婦ってのは、二人が同じ方向を向いて、共通の敵と戦うものなんだよ。いわば戦友だよ。どちらかが死ぬときになったら、支えてくれたことを感謝して『ありがとう』って言うものなんだよ。それを、結婚して10年も経ってるのに、お互いに向き合ってるみたいで、気持ち悪いんだよ。ダイヤ10個の指輪贈るなんて」
「はぁ…」
「売上上げたくて情報操作するのもいいけど、CMには公共性があるから、やめてくれるかな『スィートテンダイヤモンド』」

【4】
「お話はわかりましたが、私の一存ではどうにもなりません」
「中止しようという気持ちはあるの?」
「私共は、宝石屋で、宝石を売るのを生業にしています。CMを中止するのは酷かと…」
「じゃあ続けてくんだ。ひまな専業主婦に指輪ほしがらせて、だんなに買わせるって作戦」
「その販売方法については、今回ご指摘も受けましたし。もう一度検討したいと思います」
「改善できる発想力はあるの?そうは思えないけど…」
「発想力は…自信がないですけど、改善したいとは思います」
「そう、努力してみる気持ちがあるならもういいや」
「許してくださるんですか?」
「許すよ。将来的には変えていくんだろうから」
「はい、将来的には…」

【5】
「上司にも頼らず対応してくれて、ありがとう」
「いえ、こちらこそ。実は、私も結婚して3年になるんですが、結婚生活というものがどういう形にしていいものかわからなくなっていまして…今回、お客様のお話を聞いて少しわかってきたような気がします」
「そう?参考になったんなら、こちらとしても光栄です」
「実は、あなた様のような方に、指輪を買っていただくのが、一番いい気がしています」
「俺?指輪みたいなじゃまくさいものしないよ」
「いえ、奥様に贈られるのがふさわしい方だと…」
「俺、独身だもん」
「では将来、ぜひお願いします」
「わかった、結婚10年目に『スィートテンダイヤモンド』買いに行くよ」(終)


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