ないものねだり

2011/02/14(月)01:16

どなたもいらっしゃいませんが...

独りの時間(102)

それは、今から8年前のこと。2003年のバレンタインの夜だった... 金曜はカレーの日。 砂天狗の家は、代々、海軍の士官を排出した家だったから、もう90年以上続く砂天狗家の食の伝統が週末のカレー。 昔は土曜だったらしいけどね。週休二日の現代だと金曜日。 金曜は、とにかくカレーじゃないと曜日感覚がおかしくなってリズムが狂ってしまう。(笑) で、いつもなら部屋に戻ってレトルートってのが定番だけど、あいにくこの日は出先だったから、帰りに目についた海辺のレストランに入った訳。 しばらく春めいた日が続いてて、仕事を終えた開放感を味わいたいと思い、オープンテラスで食事したい気分だった。 だけど、クルマを停めたときから小雨がパラつきはじめて、テラスでの食事は諦め、窓際の席でシーフードカレーを平らげ、食後の珈琲を飲んでた。 雨に濡れるテラスに目を向けると、人影が見えた気がして目を凝らした。 浴衣を着た若い女性が、テラス手摺りの外側に背中を預ける格好で、こっちに背を向けて海を眺めてた。 浴衣は、淡い灰色に紫の大ぶりの桔梗の花柄で、帯は落ち着いたピンク、髪はポニーテールの茶髪。 立ち位置のせいか、不自然で窮屈な感じが気になった。 雨だし、だいいいち寒いのに何してんだろうと思いながら、砂天狗はお客がテラスにいるなら照明ぐらい点けろよとも思い、店員さんを呼び止めて伝えた。 店員:「あのぉ、どなたもいらしゃいませんが」 砂:「え、あれ、あそこのテラスの向こう側の ほら女の人...」 店員:「あのぉ、手摺りの外は海になっておりまして...」 砂:「いや、でも、ほらあの人...」 砂:「あれ... えぇ~ぇ!」 そんな不毛なやり取りになった。 そういいながら砂天狗は、もう一度窓の外を確認したけど誰もいない。 戸惑い顔の店員さんによく聞けば、テラスは手前だけで、手摺りの向こうは、真っ直ぐ8メートルほど下が海だそうな。 確かに見た。 ものすごくはっきり見た。 だけど、考えればこの2月に浴衣というのも妙な話しだ。 砂天狗が、ずっと目で追ってた女性って一体何だったのか。 急に、これ以上は詮索したくなくなった。いや、知りたくないと思った。 その後しばらく、店員さんとシェフも加わり、不可思議な出来事についてのやり取りが続いた。 2003年2月14日は、今思い出しても、血も凍りつくようなバレンタインデーとなった...

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