僕が異端児であり続ける理由 芸術家・柿沼康二インタビュー
ARTインタビュー・テキスト:内田伸一 撮影:佐々木鋼平(2013/12/09) 日本では誰もが子ども時代に「書道セット」を手に入れてその扉を叩く一方、以降は関わる人、そうでない人にはっきり分かれる感もある「書」の世界。しかし、実際は人気ドラマの題字や銘酒のラベルなど、日常の中にも書家たちの表現があり、近年は新世代による展覧会や異分野とのコラボなど、書が新たな形で身近になってきている。柿沼康二は伝統的な書道界で功績を残した上で、そうした新たな「書」の動きの草分けともなった、二重の意味での異端児。しかし、その素顔はトリックスターなどではなく、古典と対峙しつつも国やジャンルの境界を越えた前衛表現を志し、『万葉集』からUnderworldまでを自筆で取り込む「書の探求者」だった。金沢21世紀美術館における初の書家個展『柿沼康二 書の道 “ぱーっ”』の会場を訪ね、「紙と筆」での格闘について聞いた。PROFILE柿沼康二(かきぬま こうじ)書家 / アーティスト。1970年栃木県生まれ。東京学芸大学教育学部芸術科書道専攻卒業。プリンストン大学客員書家(2006-2007年)。「書はアートたるか、己はアーティストたるか」の命題に挑戦し続け、伝統的な書の技術と前衛的な精神による独自のスタイルは、書という概念を超越し「書を現代アートまで昇華させた」と国内外で高い評価を得る。NHK大河ドラマ『風林火山』、北野武監督映画『アキレスと亀』等の題字の他、伝統書から特大筆によるダイナミックな超大作、トランスワークと称される新表現まで、その作風の幅は広く、これまでメトロポリタン美術館、ワシントンDCケネディセンター、フィラデルフィア美術館、ロンドン・カウンティーホール、KODO(鼓童)アースセレブレーションなどでパフォーマンスが披露され好評を博している書家/アーティスト 柿沼康二 |書道界では自分より序列が上の人に対して、ものひとつも言えない。それが悔しくて、「じゃあ必要な賞をさっさと穫ろう」と思って。―柿沼さんは「その風貌からは意外にも」というと失礼ですが(汗)、5歳で筆をとり、東京学芸大学で書道を専攻、書道界において重要な賞を20代で受賞されるという大活躍。いわばサラブレッド的な経歴から転じて、現在のような独自表現の道に進まれたそうですね。今は特定の書道団体に属さず活動中とのことですが、そこに至るまでの気持ちの変化を教えてもらえますか?