「野村万作・萬斎狂言会」第11回になる大阪・大槻能楽堂での公演は、「連歌盗人」と「賽の目」でした。 まず萬斎さんのトーク。 パンフを見ていたら、音もなく切戸口から萬斎さんが登場していました。 低いお声にハッとして顔を上げたら、真正面に萬斎さんが・・・。 相変わらず気品のある佇まいに、「狂言界のプリンスよね~」などと考えていました。 いつもどおり番組内容の説明をされているのですが、ソツがなく、軽妙な語り口に魅了されてしまいます。襟元からメモを出して話の内容を確認する動作にも余裕が感じられます。 番組の解説が終わり、萬斎さんは再び切戸口から退場。 入れ替わりのように、橋掛りから万作さん登場。「連歌盗人」が始まります。 「連歌盗人」 連歌初心講の当番に当たったものの、貧乏で支度ができない男。同じ境遇の男と相談して金持ちの家に盗みに入ると、床の間の懐紙に「水に見て月の上なる木の葉かな」と、連歌の句がしたためてある。二人はつい夢中になって、添発句に脇句まで付けて楽しんでいるところを、亭主に見つかってしまうが・・・・。 (パンフレットより抜粋) 万作さんの演技は、いつ見ても円やかな深い味わいがあります。 貧乏な男をしても、卑しさを感じず、清貧の精神が伺えるんですね。 萬斎さんのトークにもありましたが、狂言の中の貧乏は、心まで貧しくなってはいないんです。貧しさに屈するというより、貧しさを楽しむというような感覚があるように思えます。 万作さんの演じる男にも、そのような感覚を感じることができました。 この曲も次の「賽の目」も遠い曲(あまり演じられることのない曲)らしいのですが、そういえば亭主に見つかってからのお話が、いつもとは違う珍しい展開のように思われました。(そんなにたくさんの番組を見ていないので、“いつもと違う”なんて偉そうなことは言えないのですが・・・。) 太郎冠者が出てくるお話のように、亭主に見つかったところで、追いかけられながら退場というパターンかな?と思っていたのですが、亭主に見つかってからがけっこう長かったです。 亭主に知人であることがバレて、盗みに入った理由を話すと、亭主は同情して酒を振舞ってくれたり、太刀をくれたりするのです。 言ってみればハッピーエンドなのかな? 休憩を挟んで次は「賽の目」 これもあまり演じられることの少ない番組だそうです。 「賽の目」 裕福な人が、計算に優れた者を娘の聟にしようと高札を出す。応募者が次々にやってくるが、“五百具(五百組=千個)のサイコロの目の合計は?”という難問が解けず、追い返される。ようやく三番目にやってきた若者が、見事に解いて聟の座を射止める。さて、いよいよ娘との対面となるが・・・。 (パンフレットより抜粋) 萬斎さんはトークの時のように、伸び伸びと楽しんで演じているというのが、よくわかりました。 美人だと聞いていた娘のために、難問を解いたのに、いざその娘に会ってみると、彼女が頭から絹物をかぶって顔を見せません。萬斎さん演じる聟がようやく被り物をとり、彼女の顔を覗き込んでみると・・・・。 はい、おわかりの通り、娘は醜女(しこめ)でした。 大げさに驚く聟の動作が可笑しくて、会場は笑いの渦でした。 狂言はほんとうに無駄な動きのない、洗練された動きの芸術なんだと実感しました。 万作さんはもちろんのこと、萬斎さんの所作の美しさに惚れ惚れ・・・。 笑いのあるお話であり、面白おかしい動作を見せているにもかかわらず、気品が漂っているんですよね。 品のある美しさが目に残った舞台でした。 2006年6月30日 大阪・大槻能楽堂 ジャンル別一覧
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