3月10日に、神戸連続児童殺傷事件の加害者男性が、少年院から仮退院をしたとマスコミが報じていた。
この報道の直前から、偶然借りていたこの本は、加害者男性に娘の彩花ちゃん(当時10歳)を殺された母親の手記だ。
母親の山下京子さんが、手記を出すのは2冊目で、最初は「彩花へー『生きる力』をありがとう」という手記を書いた。
最初の本が出版されたのは知っていたが、私も子どもを持つ母親として読むのが怖く、とうとう手にとることはなかった。
時間つぶしに訪れた図書館で、何気なく書棚を眺めていると、1冊の本に目が止まった。
それが「あなたがいてくれるから」だった。
借りるつもりはなく、ちょっと見てみようと何気なく手にとり、最初の頁を開いて見る。
それから時間がくるまで、夢中になって文章を追いつづける自分がいた。
図書館から借りて帰り、じっくりと読む。
平成9年に起こった連続児童殺傷事件は、自分の知っている土地で起こり、また子どもが無残な形で殺されたという事件だったので、大きな衝撃を受けた。
マスコミに宛てた挑戦状を見て、識者たちが犯人像を推理していたが、ほとんどがオタクの成人男性を予想していたと記憶している。
逮捕されたのが14歳の少年だということも、ショックだった。まさか、14歳の少年が・・・・。
「あなたがいてくれるから」には、犯人の少年への恨みつらみは書かれていない。
それにまず驚いた。
最初の手記「生きる力をありがとう」を読まなかったのは、被害者の母親の犯人への許しがたい気持ちが、慟哭となって本の中を満たしているのではないかという危惧があったからだ。
子どもを持つ母親として、その慟哭に引きずられることを恐れた。
しかし「あなたがいてくれるから」は、加害者男性への恨みではなく、自分自身の心の動きの過程を見つめた、山下京子さんの魂の行程が記されている。
我が子が殺害されるという事件を、前向きにとらえ、決して運命だとあきらめることなく、また加害者への憎しみに始終することもなく、苦しみの中から立ち上がろうとしている。
その真摯な姿に、涙が止まらなくなる。
私自身も、子どもが先天性心疾患で生まれて来た時、悩みぬいた。
なぜ自分に?私が何か悪いことをしたのか?運命なのか?
色々と考え、様々な書物を読んだ。
宗教書から心理学、はたまたゲノム関係の本まで。
それで得た答えは、山下京子さんが書物の中でおっしゃっていることと同じである。
この本の構成を担当したジャーナリストの東晋平さんが、第三章で書かれている「絶望から希望をどうつむぎだすか」の答えも、もちろん山下京子さんの結論と同じ。
第一章で山下京子さんが、自らの体験から得たことをわかりやすく書いてあり、第二章で「生きる力をありがとう」を読んだ読者からの手紙を紹介し、第三章で山下さんと対談を続けてきた東晋平さんの、「生きる力」についての考察が書かれている。
子どもを殺された母親の、悲嘆にくれたエッセイでは決してなく、良質の宗教書にもなりうる、珠玉の言葉が詰まった書物である。
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最終更新日
2004/03/14 02:41:04 PM
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