1993年、「佃島ふたり書房」で直木賞を受賞した、出久根達郎のエッセイ集「古本夜話」を読む。
1973年にから古書店「芳雅堂」を営んでいる。(今は文筆活動に専念しているのかもしれない)
長く古書店の店主として、古本に接してきた著者。
店主として出会った個性的な客たちと、尋常ではない体験の数々。
ある時は心が温かくなり、またある時は心が凍りつく。
「饅頭そうだ」というタイトルのエッセイは、特に心に残った。
古本屋用語で「饅頭本」というものがある。
どういうものかというと、葬式の時、葬式饅頭のかわりに配る、追悼文集や故人の遺稿集などである。
著者は悪友5人と「百円文庫」なる古書店をだす。
そこにはさまざまな饅頭本が並んでいた。
その中の1冊の饅頭本に、悪友の一人と同姓同名の故人の饅頭本があった。
著者はその饅頭本をひもとく。
読者は著者と共に、1度も会うことのなかった、それどころか知ることもなかっただろう故人の息遣いを知ることになる。
市井の人間の生き様が、これほどまでに心を動かせるとは。
また、「いちめんのなのはな」も、妖しい美しさが心に染みた。
山村暮鳥の第二詩集「聖三稜玻璃(せいさんりょうはり)」収録の「風景」という詩にまつわる、不思議なエピソード。
書物が持つ、そして文字が持つ、人を惹き付けて止まない、底なし沼のような魅力。
著者と共に、本好きの読者も、その渦に巻き込まれる。
古本に対しての知識と愛情に溢れた、エッセイがぎっしりと詰まっている、至福の一冊。
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