すりいこおど-1970年代周辺の日本のフォーク&ロック

2009/05/15(金)06:48

あがた森魚「僕は天使ぢゃないよ」(1975.12.5 bellwood OFL-34)

1975(13)

あがた森魚はすごい人である。 1969年の冬、URC東京事務所を訪ねていって、早川義夫いわく「あがた君は、突然、音もなく事務所にあらわれてね、それで、歌を聞いてほしいんだけどっていって、すごい厚い近眼のメガネで、ひび割れてんだよ片方、すごい迫力よ。で、ノートをひろげてさ、書いてある字が大きいんだよね、やけに。で、友達が一緒にいて、やるんだけど、あがっちゃってるかなんかで、うまく歌えないんだね、何度もくりかえすんだけど。で、友達が今日はやめた方がいいんじゃないかというんだけど、あがた君が、イヤやりますっていって、最後までやったわけだけど。よかったよ。 結局俺は、そういうどもりながら歌う姿、緊張してる状態でなおかつ歌うっていうね、そういうのも含めて全て、すごいと思ったのね。これはいいものを持ってるなって。」 (黒川進著「日本ポピュラー史研究・初期フォークレーベル編」早川義夫インタビューより) とか、月刊ガロに連載されていた林静一の「赤色エレジー」を題材にした曲を作って、林静一の許可を得ようと連絡をとって、待ち合わせた喫茶店でいきなり自作の「赤色エレジー」を歌ってみせて、しかも林静一が新作絵本を書いてくれることになって「赤色エレジー うた絵本」として自費製作してみたり。 とか、1971年のフォークジャンボリーでこの歌を歌ったのが、のちにbellwoodの三浦光紀の目に止まってメジャーデビューすることになるのだけれど、そのジャンボリーで自費製作のLP「蓄音盤」を泣いて歌いながら売ってみたり。 とか、bellwood盤の「赤色エレジー」が大ヒットして入ったお金を全部注ぎ込んで、「赤色エレジー」の映画版ともいえる「僕は天使ぢゃないよ」を自ら製作・脚本・監督・主演(もちろん音楽も)、2年がかりで74年に完成したものの、いろいろ事情があったと見えて紀伊国屋ホールでの単館公演が1977年5月、一般公開はなんと1991年4月まで待たねばならなかった。 とか、1977年アルバム「君のことすきなんだ」製作についていろいろあって、レコード会社が信じられなくなり自費製作を決意、25000円という金額を予約者に前払いしてもらって製作にかかるが、完成したのはなんと8年後の1985年。しかしその作品「永遠の遠国」はまさに大作であった・・・とか・・ ほんとにすごい人だと思う。まさに情熱のなせる業だと思うのだ。 この映画もこうしてDVDで観られるというのは、このうえない倖せである。 別に何が、というわけでもないのに、まったく目が離せない映画だ。テクニックとかストーリー設定とか演技とか、そういうのではないところの凄みがあるのだろうか。蕩々と漂う空気感に引き付けられるのだろうか。 連休中には子供と観たんだけれど、子供も引き寄せられるように観ていたし。ただ、途中から見せられないシーンもあるので、うやむやにして別の映画に切り替えたけど。 この泣き虫っぽいかわいい青年の(ごめんなさい)、どこにこんな不屈の情熱が潜んでいるのだろう? 音楽がまた素敵だ。 大瀧詠一のファーストアルバム「大瀧詠一」(72.11.25)から「びんぼう」「それはぼくぢゃないよ」「乱れ髪」という名曲がとても印象的に挿入されている。また、このサントラアルバムには入っていないが西岡恭蔵の名曲「街の君」をあがた自身がカバーしているのもとてもいいし、友部正人のサードアルバム「また見つけたよ」(73.10.21)の最後を飾るこれまた名曲「夕暮れ」は、素晴しいシーンで流れるし、歌っている本人まで映っている。 もちろんあがた森魚の「赤色エレジー」「清怨夜曲」そして「僕は天使ぢゃないよ」は言うまでもなく映像とシンクロして、まるでPVのように美しい。 さらにティンパンアレー+矢野誠による都会的なBGMが絡んでくる。 個人的には大瀧詠一の3曲があまりにも素晴しくて、あがた森魚もこの3曲をモチーフに場面を作り上げたんだろうと、想像させる。 映画もよし、サントラアルバムはまた別によしと、どちらも楽しめる。 また他の映画ではありえない事としては、登場人物の多彩さだ。 斉籐沙稚子・緑魔子の2大ヒロインをはじめ、若き日の横尾忠則・岡本喜八・長井勝一・桃井かおり、音楽人脈では大瀧詠一・泉谷しげる・山本コウタロー・はちみつぱい(なぜか駒澤裕城がベースを弾いている)・友部正人、さらには三上寛・下田逸郎・井上堯之・渡辺勝・中川五郎まで映っている。 余談だけれど去年の夏休みは子供と寝る時に、毎晩「日本少年」(76.1.25)のアルバムを聴きながら眠ったっけ。ものすごく映像的なアルバム。 あがた森魚の情熱は、時を経ても冷めないことを知った。 (お断り・・サントラアルバム「僕は天使ぢゃないよ」はレコード会社の都合上、あがた森魚・大瀧詠一名義になっていますが、今回はあがた森魚として取り上げさせていただきました)

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