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2005.11.01
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カテゴリ:五木寛之
映画『変奏曲』

映画は、その舞台をパリからコートダジュールへ移しま
す。南フランスの鮮やかな陽光のもとで、17年ぶりに
再会した杏子(麻生れい子)と森井(佐藤亜土)は、自
分たちの人生をしばりつけてきた過去から解き放たれて
自由の身になることを試みます。

「なんでまたコートダジュールなんかへ行こうという気
になったんだい。ひどいところだぜ、あのへんは」
「もっとも俗っぽいところへ行きたかったからよ」
ふたりは、オルリー空港からニース空港へ。ニースで、
彼女はブルージーンズとボーダーシャツ、男はホワイト
ジーンズとピンクの半袖シャツにきがえ、タクシーを海
沿いにイタリア国境へ走らせます。
「あたし、いまの生活に満足してはいないわ」と睡眠薬
の詰まった瓶を男に見せる彼女。通りかかったマントン
の町で、タクシーを降り、小さなホテルを見つけます。
「あたしたちふたりだけね。いまここにいるのは。……
そして今度パリに帰ったら、そこで別れて、もう二度と
会わないんだわ」

冷房のきかないホテルの部屋で、ふたりは窓を開け放し
たまま、服を脱ぎます。
「あたし、男の人の目の前で、何もつけずに裸のまま歩
いたり、立ったり、何かをしたり、自由に動きまわって
みたかったの。ピンナップガールっていうでしょ。あの
アメリカの雑誌なんかにヌードで立ってにっこり笑って
る娘たち。あんなポーズを一度でいいからとってみたか
ったの。一度でいいから死ぬ前にそうしてみたいって、
そう思うことって誰にでもあるでしょう」
「たとえば?」
「たとえば、ここのところの名前を大声で連呼するとか
」と彼女は男の手を自分の茂みに押しつけてささやきま
す。
「あたし、生まれてから何十年も、一度もそれを自分で
大声で人前で口にしたことはないわ。あたしはまだこん
なにも不自由に生きているのよ」

彼女は男の下肢の間に手を滑らせて、ささやきます。
「あなたは静かなのね。たぶん、あなたも何かから自由
になる必要があるんだわ」
「何から?」
「たとえば政治だとか、思想だとかいったものから……
あたしが女のあそこの俗称を大きな声で叫べないように
、あなたも大声で連呼できない言葉があるはずだわ。革
命なんて無意味だ、って言ってごらんなさい」
「革命なんて無意味だ」
「もっと大きな声で!」
「革命なんて無意味だ」
「自分の欲しいのは自分だけの安楽と権力だ。民衆なん
て馬鹿だ」
「民衆は馬鹿だ。革命なんて無意味だ。ぼくはカネと権
力をにぎりたい。黒人やアジア人たちがどんな苦しみの
さなかにいようと、こっちには関係ない。うまいものを
食って、ぐっすり眠りたい」
「さあ、ぼくは言った。こんどはきみだ。言いたまえ。
これは一体なんだ? いやらしい男たちはきみのここの
部分を何と呼んでる?」
彼女は、目を閉じて、最初の母音を発音しようとします
が、突然、こみあげるように吹き出します。
「だめだわ。あたし、どうしてもだめ」

ひと眠りしたあと、ふたりはレストランで海をながめな
がら食事をすませ、カジノでルーレットを楽しみます。

翌日、ふたりはニースの空港に、ジェット機が離陸する
のを見にいきます。そこで、杏子の夫の友人の日本人の
デザイナー水品と連れのフランス人女性クリスチーヌに
会い、水品のアパルトマンに誘われます。

途中、杏子は夜の海で泳ぐことを提案し、4人は裸で夜
の海を楽しみます。そのとき浜辺で、彼女は、水品とこ
んな会話を交わします。
「あの人に会いさえしなければ、あたしは平穏無事にず
っと過ごしていたでしょう。でも、会ってしまったんで
す。それで、現実のあの人のみじめな姿をはっきり確か
めて、過去の美しすぎる記憶を清算してしまおうと」
「それで、できましたか? ……奥さんの考えかたは、
わからないこともありません。でも、その計画には、大
切なことがひとつ脱落していますよ」
「どういうこと?」
「仮にあなたがそういう目的で旅に出て、もしもあなた
の言うように森井さんに幻滅できず、昔と少しも変わら
ぬ、いや、昔よりもさらに男として、人間として成長し
充実した彼を発見することになったら、そのときはどう
します?」
「本当にそうだったら、……本当にそうだったら、あた
しはどうなるの!」
「あなたが心の底で望んでいるのは、本当はそのことな
んだ」

4人で食事をしたあと、杏子は水品に誘われて、庭のテ
ラスに、ニースの夜の街を見に行きます。
「ニースの夜景は、ちっとも綺麗じゃないわ。まるで死
んだ街みたい」
水品に愛撫されながら、そう、ささやくと、
「死んだ街ですよ。若い男と女のカップルが見当たらな
い街です。カネをうんと持ったみにくい老人と、若さだ
けしか持っていない娘の組み合わせか、そうでなければ
ひとりぽっちの老人たちが、カジノでぼんやりすわって
カネをもてあそんでいるだけだ。何も創り出すことがな
く、何も新しいものが生まれてこない。すでに死んでし
まっている街なんです。だが、ぼくたちもやがてそうな
る」
「あたしも?」
「そうですよ」

マントンにもどるタクシーのなかで、森井は彼女にクリ
スチーナとの情事が可能だったことを告白します。ホテ
ルの部屋にもどった二人は、もう一度試しますが、男は
「組織」のことが頭に浮かび、できません。二人は、満
月が照らす夜の海でたわむれます。

「あたしたちに残された時間は、もう何日もないのね」
「ご主人がパリに帰ってくるんだったな。それからきみ
はどうする?」
「彼と一緒に東京にもどるわ」
「それから?」
「なんにも考えないで暮らすの。食べることと、眠るこ
とと、素敵なファッションを着て、快適な家に住み、動
物園のパンダみたいに生きていくの」
「そんなふうにできたら、実際たいしたもんだと思うが
ね」
「人間が動物みたいに生きて、どうしていけないの?」
「いけないとは言わない」
「けだものみたいに生きる人は多いじゃない。政治家だ
って、実業家だってそうだわ。だったら、まだ家畜のよ
うに生きるほうがましでしょう? 他人に害を及ぼさな
いだけね。狼生きろ、豚は死ねなんて文句を聞くと、あ
たしはぞっとするの。むしろ豚のように生きるほうがま
しだと思うけど」
「人間がそんなふうに生きていくことに果して耐えられ
るだろうか」
「あたしにはできるのよ。たったひとつ、あの希望とい
う観念さえ捨ててしまえば。そして事実、あなたに会う
までのあたしは、そんな暮らしにほとんど成功しかけて
いたのよ」

「今夜、音楽祭に行こうか。ひさしぶりに音楽が聴きた
いよ」





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Last updated  2019.05.16 02:45:37
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