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カテゴリ:計量と計測を考察する「計量エッセー」
臼田孝の計量短信 目次 takashi-usuda-metrics-brief-table-of-contents-
パリ通信 Vol.1 2010年から滞在している国際度量衡局での身辺雑記です パリ通信Vol1.pdf(613) パリ通信 Vol.1 2010-10-24 文責:臼田孝 本文章は個人の見解であり筆者が属する如何なる組織を代弁するものでもありま せん。写真・図版は筆者または国際度量衡局に帰属します。 筆者が滞在するメートル条約事務局(国際度量衡局)は、1875 年にメートル条約が発効 して以降、度量衡に関する国際的な調整機関として、またキログラム原器に象徴される計 量標準の研究、開発、維持、供給を担う機関として活動してきました。詳細は他項に譲り ますが(www.intermet.jp/metric/aramashi.pdf 等)、その活動計画は 4 年毎に開催され る加盟国総会で決定されます(いわば産総研中期計画)。次回総会は来年 2011 年 10 月に開 催されますが、その原案を事実上左右する、世界各国から選出される18人からなる国際 度量衡委員会(日本からは田中副統括が 2001 年から在任)が先々週当地にて開催されまし た。うるう秒の廃止や質量の再定義といった、科学技術上の懸案から、会計報告、財務計 画、研究計画、職員の昇進に到るまで、実に多岐に渡る議題が審議されました。 さてこの国際度量衡委員会、当事務局にとってはいわば取締役会です。会議を迎える一 週間前程からは、建物が入念に清掃され、幹部職員(臼田もそれなりに)は早朝から夜間 まで懸案の整理に追われました。よく言われるとおり、欧州の一部の職責に属する人間は 実に勤勉です。局長はもちろんですが、任期制の局長(任期は通常 6 年で、各国の標準研 幹部が登用されることが多い)を支える総務機能が卓越していることを実感します。(研究 者上がりの)局長は、それらの機能に支えられて「100 年以上の歴史をもつ国際機関とはど うあるべきか」を体現する存在に変わっていくように思います。 4 日間に渡る委員会期中のひとつのハイライトが、キログラム原器確認です。フランス外 務省係官立ち会いのもと、国際度量委員長が原器庫(カヴー)を解錠し、「確かに存在する こと」を確認して係官、委員長がサインします。この時職員も同行してキログラム原器を 拝むことが出来ますが、さすがに普段平服の職員もスーツやタイトドレスに正装し、質量 を質量たらしめる存在に敬意を表すかのようです。その模様は次ページに示しました。 さて、今回の委員会では人事上の幾つかの決議もなされました。ひとつは今年一杯で 6 年の任期を終了する現局長・Andrew Wallard 氏を名誉局長として遇すること、もうひとつ は 10 月一杯で定年退職(規定では 65 歳の誕生日を迎えた月末が退職日)する、質量標準 担当の Richard Davis 博士を名誉職員として遇することです。Davis 氏の前職は米国 NIST 職員で、20 年前に国際度量衡局にスカウトされてフランスに渡りました。その背景には NIST でのリストラなどもあったと聞きます。当局に着任以降、いわばキログラム原器の番人と して、世界の質量計測の信頼性を一身に担って来ました。国際度量衡局は、このように各 国の標準研究機関の人事動向も注視し、世界で極小数で足りる、しかし決して途絶えさせ てはならない技術の維持にも一役買っています。 とはいえ、ここ 10 年を振り返っても国際度量衡局では温度、長さ、測光など、いくつか の研究が取りやめられ、その結果少なくない職員が去り、また転向を余儀なくされました。 今回の委員会の決議も多少なりそのような対応を迫っています。決議内容は翌週職員説明 会で伝えられましたが、複雑な気持ちで聞いた職員もいたはずです。そのあたりはいずれ 機会を見てご報告したいと思います。 フランス外務省係官への署名文書 手交、右が署名を終えた国際度量衡 委員長・ドイツ・Gobel 博士 フランス外務省係官への署名文書 手交、右が署名を終えた国際度量衡 委員長・ドイツ・Gobel 博士 原器(中央の大きなベルジャーの中)を前に Wallard 局長(左・小職をスカウトした人物)と Gobel 委員長。 次期局長はドイツ人であり、メートル条約の規定「局 長と委員長は同一国籍であってはならない」により Gobel 博士は委員長を退任する。お二人にとって今の 立場では最後のキログラム原器との対面 キログラム原器と共に(役割を終えたとはいえ)保管が義務付けられているメートル原器を示す質量 標準部長・Davis 博士 つい先日、同氏のために名誉職員・退職記念式が職員総出(退職者なども来ていた模様)で盛大に行 われた。局長からの辞令伝達とねぎらいに続き、グループ職員が氏のフランスでの 20 年に渡る活動 を寸劇風にスライドで紹介する、という心温まるもの。その後シャンパンとオードブルで延々と談笑 が続く。 誓って言いますが、産総研を退職するとき、だれもこんなに構ってくれないでしょう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018年12月10日 10時17分48秒
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