2018年09月11日

紀州犬物語165 白い犬は遠くの不思議なことをみる眼差しをしていた(横田俊英)

紀州犬物語165 白い犬は遠くの不思議なことをみる眼差しをしていた(横田俊英)
(タイトル)白い犬は遠くの不思議なことをみる眼差しをしていた
(サブタイトル)子犬が母親の背中からコロリと転がる3年前の風景
第165章 白い犬は遠くの不思議なことをみる眼差しをしていた 執筆 横田俊英


母親の背中からコロリと転がる3年前の風景


白い犬は不思議な眼差しをしていた

(本文)

 犬の体を洗ってやった。大きなカーポートで覆った下に設置した畳み2畳ほどの犬舎で暮らす犬は大型扇風機で風を送っても暑かろうという真夏のことである。体を洗ったの居間に犬の毛が散らないようにするのと臭いを抑えること、そして犬の体の清潔のためだ。

 この犬は3年前にオスの子犬一頭をこの居間で生んで育てた。その後も元気に暮らして朝晩の散歩を楽しみに暮らしている。暑い夏を何気なく過ごしていると思っていたら犬舎に入るための段差を乗り越えるのに難渋する様子がみえた。後肢に力が入らない。暑さにやられたか。それなら冷房の効いた居間に移そう。体を洗ったのはそのような経緯による。

 居間にいれてからは食事を増やした。この犬は行儀よく食事をする。与えられた食事をガツガツと食べることはない。ぼそぼそと時間をかけて食べる。

 食事を増やすと少しふっくらとした。元気になるかなと期待した。後肢に力が入らないのはそのままであり。排泄のために外に出る動作は緩慢である。排泄は外でするのだとこの犬は決めている。丸一日それを我慢するのは平気である。この習性は変わらないから排泄をしたくなると玄関に歩いていく。

この犬の年齢は12歳と6カ月になっていた。居間に移した後にこのことを考えるようになった。後肢の筋肉の衰えは年齢からきていた。日に日に力が衰えていく。

 これまで食べていたドッグフードを口にしなくなった。肉なら食べる。濃いだし味の食べ物は食べる。それを食べるのだが軟便がつづいた。この犬は硬いしっかりした糞をする犬だった。体調が思わしくない犬の軟便はよいとしても下痢は体力を消耗させる。

 食べる量を調整する。便のようすにあわせて量を加減する。軟便と少しよい便とが繰り返しているうちに食事の量が減ってしまった。与えてもさほど食べない。

 後肢の筋肉はさらに少なくなった。背筋の筋肉が細った。前肢の筋肉のようすはみえにくいのだが筋肉が減ったのが目にみえる。あばら骨が浮き立った。食べたものを消化しきれない。そして食べる量が少ない。徐々に少なくなった。

 その食事量では体が維持できない。しかし食べることができない。やせ細る。やせ細るのと体の動きが衰えるのとがつらなった。このころに寝言のような声をときどきあげた。

 排泄をしに外へでる力がなくなった。我慢しているのがわかるから抱きかかえて庭につれていくと腰を落としてオシッコをする。便はあまりでなくなった。二日にいっぺん、ときには四日にいっぺんになった。

 居間には畳半分ほどの寝小屋をおいた。10cmほどの囲い板が付いている。居間で人が食事をすると首をあげている。ときどき寄ってきておねだりをする。居間に移してひと月が過ぎると首をあげるのがやっとになった。

 体力が戻るかも知れないという期待は淡い望みになった。一日中横になって寝ている。食事をするにも人が口元にもって行かないとできない。水もおなじようになった。抱きかかえて庭で排泄させようとすると嫌がる。嫌がっても庭にだすとオシッコをし、たまに軟便をだす。

 水は激しく飲む。飲んだだけオシッコになる。オシッコを我慢できなくなった。人用の紙おむつで腰をくるむ。日に何度もオシッコをしている。区切りをつけてオシッコをするのではなくだらだらとしている。

 腰の力が弱くなったのをみて居間にいれてひと月が経つころには寝たきりになった。腰に手を当てると骨張っていて筋肉がない。呼吸がときどき速くなる。それが落ち着くこともあれば総じて呼吸が速い。肺活量が落ちているからだ。体の筋肉が落ちて体を包む皮革の張りがなくなって引っ張ると伸びてなかなか戻らない。

 人が嫌なことをするとワンと吠えていた。その先になると人が近づくとメーメーと力無く啼いて相手をすることを催促するようになった。

 お尻の周りについた糞を風呂場で洗い流す。風呂場に移しお湯で洗うことは犬には負担である。恐る恐るそれをする。みると皮革に血がにじんでいる。それが進行しないように寝返りをさせてやる。

 食事は摂らない。水は口元にもっていくとかろうじて飲む。そのような日が2日ほどつづいていた。5日ほどまえからは人におねだりをするときのメーメーの啼き声がなくなっている。

 居間で横たわったままの犬はあらい呼吸をしている。呼吸のたびに唇がぶるぶるとふるえている。いままでにない状態だ。口をあけると特別な色の変化はない。あらい呼吸がつづくので補助のために頭をもたげてやった。呼吸はそのままだがスーとそれがとまった。居間に移って45日が経過していた。

 その犬のそばには写真があった。三年前に一頭だけ産んだオスの子犬が母親の背中によじ登ってコロリと転がったようすだ。白い犬は遠くの不思議な光景をみる眼差しをしていた。

 一緒の家で暮らしている二頭のオス犬のその子と、もう一頭のメスの孫犬はそのようなことに頓着がない。腹が減ればキューンと啼いて催促をし、オシッコをしたいから外に出せと同じように声をあげる。母犬が居間で暮らすようになって過ぎた45日は庭にいる犬たちには何でもないことであった。お腹が空いてオシッコがしたくて外にでかけたくて、そのような暮らしが同じまま続いている。

(誤字、脱字、変換ミスなどを含めて表現に不十分なことがある場合はご判読ください。)





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最終更新日  2018年09月11日 14時37分58秒
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