カテゴリ:読書
久々に伊坂さんの傑作を読んだ気がする。アマゾンの書評でシリーズ前作の短編集である、「死神の精度 」方が面白い、とか、「死神」シリーズは短編の方が合うとか本作をあまり評価しないレビューがそこそこあったが、パパとしては逆に本作のように、千葉、山野辺、美樹、本城が短編ではなく、「どっしりと」長編の中で描かれることに満足した。「点」ではなく。「線」もしくは「面」として表現されている安心感。千葉の執拗なまでの「ミュージック」好き(これは同僚の調査員「香川」も同じだが)と時代を超越した経験(江戸時代の参勤交代、仇討の頃の人も「可」、「見送り」と調査部へ報告)を山野辺夫妻に語る頓珍漢さが奇妙なユーモアを醸し出すのは前作と同じ。 山野辺のお父さんとの「お化け屋敷」の想い出もパパには妙にしっとりとした、心がほっこりするエピソード。全く違うコンテクストではあるが、秋の夕方サツマイモ畑の前に駐車して、お母さんが買い物している間の待ち時間でパパ自身がお父さん(ユウ君のおじいちゃん)と語った話を思い出して、少し泣いた。このような山野辺のエピソードを冗長だと嫌う方もいるだろうが、山野辺のお父さん―山野辺―菜摘の血の繋がり、「暗夜行路」的な「親子」の和解を丁寧に描いている。長編ならではの味を感じた。 いつもの伊坂作品と同じように過去の作品へのオマージュもちゃんとある。赤いレインコートの男と白いレインコートの男は「グラスホッパー」、「マリアビートル」に登場しそうな人物像。千枚通しで千葉をイタブルシーンは「グラスホッパー」の残虐シーンに近い。パパもあまりに痛そうで「のけ反る残虐さ」だが、痛めつけている相手が千葉なので次の瞬間には拘束具を外して赤いレインコートの男と白いレインコートを「踏み潰して」出ていくんだろうなと思っていたので「グラスホッパー」ほどの痛さはない。 本城は「マリアビートル」の王子慧(おそらく木村茂と木村晃子に惨殺された)が後「20年」くらい生き残って、より邪悪なサイコパス、「クンランゲタ」へ「成長」したことを思わせる存在。章ごと(1日ごと)に語り手が、山野辺、千葉と交互に代わる手法も「グラスホッパー」、「マリアビートル」と同じ手法。マイ辞書を持つ粗暴な大女、繭美が星野一彦を乗せたバスを壊れかけたバイクで追う「バイバイ、ブラックバード (双葉文庫) 」のシーンとラスト近くの千葉が山野辺を後ろに乗せて、本城の乗る「黒いライトバン」を追うシーンと重なる。「がんばれ、繭美」、「がんばれ、千葉」と思わず読者に応援させてしまう上手さ。伊坂好きにはたまらない快作。
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最終更新日
2014.03.09 07:58:58
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