話飲徒然草拾遺集~「グラスの愉しみ」
およそ1年使っていた「ヴェルリィ・デ・ラ・マルヌ」のグラスをふとした拍子にパリンと割ってしまいました。割れたのはボウルの部分。洗浄後、クロスで拭くときに少しばかり力を入れすぎたようです。薄地の煎餅やゴーフルを割ったときのような、「パリン」という擬音がしっくりくるような割れ方でした。東急本店のFさんに薦められるままに買ってみたこのグラス、やや大ぶりなものの、持ってみるととにかく軽くて薄いのに驚かされます。ハンドメイドでステムからボウルにかけての処理も綺麗で、これで市価3~4千円ならコストパフォーマンスも悪くないといえるでしょう。名称こそ「グラン・ブラン」ですが、形状から判るとおり、ボウルの内部に香りをよく溜めてくれるので、私はもっぱらピノノワールを飲むときに使用しています。その薄さ軽さとあいまって、最近ではすっかりお気に入りの一脚となっていたところでした。晩酌の後、しこたま酔っ払った状態で無造作に洗浄を繰り返している我が家では、たまにこういうことが起こるのは不可避なのかもしれません。割れたガラスで怪我をしなかったことが不幸中の幸いでした。さっそくネットで同じグラスを注文しました。フランス・シャンパーニュ地方「マルヌ」でデザインされたハンドメイドグラスレーマン フィリッ...価格:3,510円(税込、送料別)それにしても、ワインというのは本当に不思議な飲み物です。同じ銘柄でも飲む時期によって開いていたり閉じていたり、供出温度や時間の経過、ボトルの上下、はたまた気象条件などによって香味の出方が異なったり…。時に翻弄させられ、時に当惑しているうちに、気がつけば奥深い迷宮にどっぷりとはまりこんでいます。グラスによる香味の違いもまた、私たち愛好家を幻惑、いや愉しませてくれる大きな要素のひとつといえるでしょう。グラスを選ぶ際には大きさ、重さ、形状、厚み、材質など、いくつかのポイントがありますが、もっとも重視しなければならないのは、形状でしょう。香りを愉しむというファクターが重視されるワインにおいては、先端部分がある程度すぼまった形状でないと楽しみが半減してしまいます。さらに、ボウルが球状なのか底の部分が角張っているのかとか、ボウルの重心というか、直径のもっとも大きい部分がどの辺に位置するのかなどによっても香りの立ち方、味わいの感じられ方が変わってくるから不思議なものです。大きさについては、空気と十分に接触させて香りを立たせるために、ある程度の容積があったほうがよいのは好ましいのは言うまでもありません。しかし、ただ大きければよいかといと、構成要素の乏しいカジュアルなワインにあまり巨大なグラスをあてがうとグラスに負けたり、デリケートな古酒では空気に触れすぎて酸化を促進してしまうということもあります。日常の食卓で使うとなると、ある程度許容できる大きさも限られてくるでしょう。我が家にもセールで奮発して買ったリーデルの「ソムリエ・ブルゴーニュ」のグラスがありますが、あまりに大きく重いので、最近はすっかりお蔵入りしています。重さや薄さについては、香味への影響というよりはむしろ飲み手の気分の問題が大きいようにも思いますが、いったん軽くて薄いグラスに慣れてしまうと、逆戻りするのはなかなか苦痛に感じられるものです。さて、そんな我が家で、どんなグラスを実際に使っているのか紹介したいと思います。ブルゴーニュについては、赤白ともにヴェルリィ・デ・ラ・マルヌの「グラン・ブラン」、次いでリーデルの「ヴィノム・ブルゴーニュ」。この2脚を比べた場合、リーデルの方がオールマイティな気もしているのですが、前述のとおり、ラ・マルヌの薄さ軽さには抗し難いものがあり、最近はラ・マルヌがもっぱら定番になっています。薄くて軽いといえば、ロブマイヤーの「バレリーナIII」も忘れるわけにはいきません。ここぞというようなグランヴァンの古酒などを飲むときに取り出して使っています。ボルドーやイタリアについては、リーデルの「ヴィノム・ボルドー」かロブマイヤーの「バレリーナIV」、シャンパーニュについてはロブマイヤーの「バレリーナ・チューリップA」もしくはブルゴーニュ用のグラスを使っています。他にリースリングやソーヴィニヨンブランなどの白には、リーデルの角ばった「ヴィノム・エクストリーム・リースリング」を、国産の甲州など飲むときなどは、脚のない「リーデル・オーシリーズ」の「リースリング/ソーヴィニヨンブラン」を用いています。 何種類かのグラスをとっかえひっかえ使っていると、その昔、LPレコード時代にレコードプレーヤーの「カートリッジ」をとりかえて、音の違いをあれこれ論じていた頃を思い出します。5000円以下で買えるオールマイテイなブルゴーニュグラスをもう一種類ぐらい探したいところです。【後日談】このコラムを書いたときから、我が家のグラスのラインアップはずいぶんと変わりました。リーデル・ソムリエとロブマイヤーIIIは処分してしまって、代わりによく使っているのが、「木村硝子CAVA29オンス」と「木村硝子CAVA22オンス」、それに「ZALTOブルゴーニュ」です。ZALTOブルゴーニュは非常に気に入っているのですが、大きすぎてかさばるのと、飲む量がついつい多くなってしまうのが難点です。これでもう一回り小さければベストなんですが。木村硝子の29オンスは容量の大きさのわりに使い勝手がよいのが気に入っています。形状的にはやや香りが篭りがちになるので、若いワインよりは古酒のほうが向いている気がします。22オンスのほうは、よく言えばオールマイティ、悪く言うと「帯に短したすきに長し」的なところがあります。赤白品種問わず1客のみという場面では重宝しそうです。あとは、ひきつづき若いブルや白にはラ・マルヌ、ボルドーやスペインにはリーデル・ボルドーかロブマイヤーIVというところですね。なお、グラスの厚さについては、「気分的な問題」と書きましたが、「ワインが口内に流れ込む時にこの厚みの幅により段差が生まれ、形状がほぼ同じグラスでも、その段差を落ちることによってワインの流れが変わってしまう」ということもあるようです。プロヴィナージュさんのコラムが参考になります。グラスのお話 2http://www.provinage.com/sommeliersblog16【繊細さを追求したワイングラス cava(サヴァ)】【木村硝子店 cava(サヴァ) 29オンスワ...価格:4,320円(税込、送料別)【送料無料】世界のワイン関係者が注目!ザルト(Zalto)デンクアート ブルゴーニュ ハンドメイ...価格:7,182円(税込、送料別)