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テーマ:時代小説がダイスキ(438)
カテゴリ:時代小説
宇江佐真理さんの『銀の雨 堪忍旦那 為後勘八郎』(幻冬舎文庫)
北町奉行所の同心、為後勘八郎は見廻りの道すがら、見なれぬ路地に通う近くの少女、おみちを目にする。おみちは客引きの中年男、富蔵のもとを訪ねているらしい。おみちを案じた勘八郎が探索すると、二人には意外な真相があって…。男と女、家族の情を描いた「その角を曲がって」ほか、市井の人々を温かくみつめた超一級の味、人情捕物帳。 下手人に対して寛容すぎるため、人に堪忍旦那と呼ばれる為後勘八郎。 文武に優れ若さゆえの潔癖さから勘八郎につっかかる岡部主馬。 そんな主馬のほのかな思いを寄せる勘八郎の娘小夜。 この主な3人を中心に織り上げられた連作集です。 ときには主人公でもある勘八郎がほんのちょっとしか登場しないお話もある。 どれも切なかったりやり切れなかったり。 誰でもすぐに傷は癒えるものではないし、心の整理がつくわけでもない。それでも日常は待ってくれないし生きていかなくてはいけない。 でもそんな気持ちを勘八郎の怒り、小さな情けやかける言葉がちょっとだけ癒してくれました。 人から受ける労わり、ささいな喜び、ふともれる笑いが、少しずつ降り積もるうちに傷は癒えていくのだろうと思います。 でも痛みは消えても、傷跡は残るし痛みも憶えている。 「堪忍旦那」と呼ばれるたびに過去を思い出し複雑な気持ちになる勘八郎。 ままならぬ恋の面倒、親の不始末により人として大人になっていく主馬。 妙齢になるに従い自分の面立ちが美しくないことに傷つく小夜。 と、宇江佐さんの描かれる作品には誰一人として完璧な人間はおらず、それぞれに悩み痛み傷跡を抱え生きている人物ばかり。 それがいいのかもしれない。 勧善懲悪な痛快時代物もいいけど、時代を超え自分と変わらぬ等身大の人々の人生を見つめるのもいいのでは。 と感じた作品でした。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2007年10月02日 10時00分04秒
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