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サヨナラは別れの言葉じゃなくて。なんて歌っちゃう三月。
職場を退職されるお二方のために、退職記念品を買出しに出かけました。 一番下っぱな私が走らされるのは納得ですが、選別するのも一任なんて、知らないよ? お一人は、ご年配のもの静かな男性です。煙草とお酒が大好きで、人付き合いが苦手で、週末は農業をされています。善き人です。はにかんだ笑顔がとてもチャーミング。 (何がいいかな、)と上司に相談すると、(酒でも買っとけ)と言われました。そんでもって、自分ではあんまり買わないタイプの日本酒で、うまいやつ、探せって。えーと、自分がどんだけ難しいこと言われているか判ってますか?うらめしそうな顔した私にあわてて、「ようは、とおりが呑みたい酒買えばいいんだよ。」 はい、呑みたい酒、選ばさせていただきました。 広島は呉の小さな酒造の造っている「華鳩」というお酒。燗に最適、というのが決め手でした。冷では呑んだこと、あるんですけどね。お値段の割りに、美味しいお酒だと思います。甘口だけどくどくなくって、口当たりがやわらかい。すうっと体の中に消えていく。あ、こんなこと書いたら呑みたくなってきちゃったよ。 もうお一方は、やさしいおばさま。とても上品で、いつも口調がおっとり柔らかい。そんでもって、ものすごく手が切れて、知識が豊富。ほっこりと笑って、決して人を責めない。きれいな人です。 欲の少ない人なので、何が欲しいのか見当もつかなくて。ご当人にそれとなく聞いてみても勘づかれ、(何でもいいです、)といつもの優しい笑みで答えられてしまいました。 どうしよう。 悩みながら、デパートの贈答品コーナーを見て回りました。切子のグラスにしようか。七宝焼きの飾り皿にしようか。塗りのきれいな大内人形もいいかもしれない。備前焼きの職人さんの一点もの。すごくいいけど、すごく高い。 と、目に止まったのが、やわらかな水色の小さな湯のみ。名のある人のものではありませんが、萩焼の釜で職人さんの手で焼かれたものでした。水色、白色、土の色。手の中にしっくりとくるまろみ。器を覗き込めば、奥にしたがって水色はさらに濃くなって、透き通る光をためる。 深味。やさしさ、いさぎよさ。おだやかなのに、ゆるがないところ。 その萩焼の印象が、辞めていく人にかぶりました。これしかない、と思いました。 萩焼は、ふだんつかいの焼き物です。使えば使うほど、色を変えて手になじんでいく。仕事を離れ、介護のために家庭に入る人に送りたかった。時折は自分のための熱いお茶を飲み、手の中にとどまる自分の時間を感じることができるように。 独りよがりの選択になっていたら、と思うとすごく怖いです。 どうかこの器を見て、かの人が、ふんわり笑ってくれますように。 「ありがとうございました」が、ちゃんと伝わりますように。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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