187411 ランダム
 ホーム | 日記 | プロフィール 【フォローする】 【ログイン】

食べたり読んだり笑ったり

食べたり読んだり笑ったり

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x
2008年06月07日
XML
カテゴリ:創作
森の奥に住む父に、虹をつかまえる方法を聞きにいった。
母がお土産に持たせたのは、ぶどうジュースの入った壜と固いパン。

僕が来ることを知っていた父は、小屋の前に立って僕を待っていた。
大きなリュックをしょった僕は、両手で手を振って、父に答えた。

虹をつかまえる方法についてたずねると、父は僕にちょっと待っているように告げ、小屋の前の丸太の机と腰掛を手で示した。
腰掛けて、足をぶらぶらさせて空を見る。
空はうすい水色をしていて、虹をつかまえる実験はまだできないな、と思った。
もう少し、強い夏がくると、夕立が降る。
そうしたら虹をつかまえよう。
虹の橋を、父と母のあいだにかければ、また僕達は一緒に暮らせるのかもしれない。
白い雲が、ひとひら、ふたひら、流れていく。

「おまたせ。」
父がコーヒーカップをふたつ持ってあらわれた。
僕にひとつのカップをくれる。
「ありがとう。」
カップの中を覗きこむと、カフェオレだった。
「虹はね、おとなになれば、つかまえられる。」
まじめっぽい口調で父は言った。
「ほら、」
父は自分がもっているカップを指し示した。
ブラックコーヒーは、かたむけると、表面の黒に光をうつした。
「よく見てごらん。虹の七色がみつかるだろう?」
息をこらして眺めた僕は、色をみつけて、こくんとうなずいた。
すると父は、カップを持ち上げて、コーヒーをのんだ。
「ごめんな。虹は、父さんの、おなかの中だ。」

また逃げられたなあ。
僕は思う。
父は今度は、大きなプレートを持ってきた。
母が持たせた固いパンがざくざくと切ってあり、父の手製の野いちごのジャムが添えてある。
やっぱり僕は、不幸ではない。
パンをかみ締めて、少し笑った。
あかるい午後が過ぎていく。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008年06月07日 13時14分45秒
コメント(0) | コメントを書く
[創作] カテゴリの最新記事


PR

キーワードサーチ

▼キーワード検索

プロフィール

とおり・ゆう

とおり・ゆう

カテゴリ

お気に入りブログ

Dollparasol ALABASTROさん
文章で飯を食う tuitelさん
陽だまりのなかで hikaru6600さん
 もくれん草紙 もくれん天使さん
☆乙女心にずきん☆ 紅ずきんさん

コメント新着

背番号のないエース0829@ 松谷みよ子 「私のアンネ = フランク」に、上記の内…
とおり・ゆう@ Re[1]:理想の図書館(09/12) ぱぐら2さん おはようございます、お久…
ぱぐら2@ Re:理想の図書館(09/12) こんにちは。本当にご無沙汰しています。 …
とおり・ゆう@ Re[1]:見なかったことにする。(11/17) 淀五郎☆DXさん おはようございます、おひ…
淀五郎☆DX@ Re:見なかったことにする。(11/17) あ、とおりさんのところと記事タイトルが…

バックナンバー

2024年06月
2024年05月
2024年04月
2024年03月
2024年02月
2024年01月
2023年12月

フリーページ


© Rakuten Group, Inc.