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食べ頃わんこの楽しい日々

食べ頃わんこの楽しい日々

星の降る夜に


月姫SS「星の降る夜に」





シン、と体に染み入る冷たい風。





空には満面の星。
そして煌々と、だが控えめに静かに光る青白い月。






そんな月明かりに照らし出されるようにベンチに座る二人。






夜、冬の公園。






片手には湯気の立つ缶コーヒー。


グビリ。



「・・甘い」



だいぶ温くなってきたコーヒーを一口飲みそんな感想を口にする。



「やっぱり外は寒いですね~~」



ふと横を見れば自分と同じく片手に缶コーヒーを持った琥珀さんの姿。


いつもの割烹着姿ではなく毛糸のセーターに上からモコモコのダウンジャケット、下はデニムのパンツといった琥珀さん曰く対冬・外出用時仕様の格好になっている。



「あ、やっぱり迷惑だったかな・・つきあってもらっちゃって」


「なに言ってるんですか志貴さん!」



そういって琥珀さんはベンチの前に設置してある望遠鏡を覗き込みながら、



「今夜、流星がみれるんですよね?!むしろ誘ってもらえなかったらショックでしたよ~」



私、流れ星って見たことないんです!、とにこやかにそんな事を言ってくる。








流星。

それが今夜のメインイベント。







『今夜、座流星群の接近のせいで流星が見られるらしいんだけど・・良かったら夜、こっそり屋敷を抜け出して二人で流星を見に行かない?』







・ ・勇気を持って誘ってよかった



じーん、といつになくテンションの高い琥珀さんの笑顔に幾分か寒さが吹っ飛ぶ。



夜、二人、そして流れ星。



・・なんて素敵なシチュエーションなんだ!!




「何でも100個以上の星が流星として地球の近くを接近するらしいよ」

「えぇ!100個ですか!うわぁ!どうしましょうポルンガもビックリですよ志貴さん!」



両手を胸で交差させて瞳をキラキラ。

体全体からワクワク、と言うような擬音が放出されている。

しかしワクワクという擬音語がこれほどまでに適切な状態はないんじゃないだろうか。



「まぁ、さすがに一晩ずっといるって言うのも無理だから見れるのはその一部なんだけどね」

「あ~、楽しみです~~♪」



苦笑しながら言うも琥珀さんは上の空。

よほど嬉しいのか。



・・あぁ、誘ってほんとに良かった















「さて・・もう、そろそろみたいだ」


腕時計で時間を確認すれば、もう時間まで五分もない。

望遠鏡で月を見たり星を眺めて遊んでいた琥珀さんにもう空を見上げておくようにと指示する。


ちなみに今夜の流星は望遠鏡などを使わなくとも見えるくらいに大きいものらしい。
らしい、と言うのも俺も単にTVのニュースで知った程度の知識と情報しかもっていないからだったりするわけで。

じゃぁ何で視認できる流星を見るために望遠鏡を一々、持ってきたんだといわれると、すっかりその気になった琥珀さんがやたらと屋敷の倉庫をドタバタさせながら(結果、倉庫半壊)引っ張り出してきたという曰くつきの望遠鏡を持ってこないわけにも行かずに持ってきてしまったというわけだったりする。



「・・・・・あ・・・・・・・・わぁ」



と、琥珀さんの声が。

何かを言おうとして、しかしそれを言葉で表せず結局、感嘆に変わった、というようなそんな声。



その時が来たのだ。



流星。



空から降る、
闇を切り裂くようにして流れていく幾つもの星たち。


青白く光る月を掠め、幾重もの光の残像を残しながら。







一瞬で消えてなくなる。







そして、終わり。







それが次々と流れていく。


時に間を開けて、


時に連続で。







そうして一時間も経った頃だろうか。



ふと、星がやんだ。











「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・」












しばしの間。
お互いに余韻に浸り、夜の公園には冬の冷たい夜気を吸い込む二人の呼吸の音だけが静かに響いた。



空を見上げるとそこはもういつもとなんら変わらない夜空で。



さっきまでの光景がまるでなかったことにされてしまったかのような雰囲気で。




「・・何だか切ないですね」



先ほどまでのテンションとは打って変わってぼそりと切り出す琥珀さん。



「・・・・・・・・ですね」



そんな琥珀さんを見つめながら何とも冴えない返事で俺。






「ふふ・・」


「はははは」







顔を見合わせてクスリ。


どちらともなく笑顔を見せる。





一瞬だけの世界。

たった一時間だけの特別な夜。

それを琥珀さんと共有できた事が嬉しくて、何だか楽しくて。

そしてきっと彼女もそんな事を思いながら笑ってくれているんだという事が手に取るようにわかって、それが無性に嬉しかった。























「さて、そろそろ帰りますか」


頃合を見計らって引き上げる準備を始める。


ベンチの前に設置していた望遠鏡を回収。
本当は一晩かけて見物したい所だが明日も…俺は学校、琥珀さんに至っては仕事が…ある。
それに何といっても寒いし。


「すっごく綺麗でした流星!今日はありがとうございました志貴さん♪」



うむうむ。
どうやら琥珀さんも満足してくれたようだし・・と、



「あ!!どーしましょう志貴さん!」



しまった!と琥珀さんが悔恨の声を漏らす。



「え、どうしたの?」


「私、つい流星に見とれてお願い事を三回となえるのを忘れてたんですよぉ!」


「え・・」


「がっでむです!しっとです!さのばびっちです~!私としたことが・・・不覚!」


「えっと、願いごとって一体?」


「私と志貴さんと、秋葉様や翡翠ちゃんがず~~~っと仲良く、楽しく暮せますように!何てたって流れ星100個分の効果ですよ?!通常の流れ星の100倍は効果がありそうじゃないですか!」


「あ・・ならさ」


そこでちょっとだけ間をおいて。







「来年も同じ時期に今日と同じくらいの流星群が来るらしいんだ。で、もし良かったらまた・・」


「喜んで!」







こうして二人は帰路に着く。









来年は秋葉や翡翠も連れて行こう、いやいっその事知り合い連中、全員を集めての夜会を開こうだの。








でもそれとは別に二人で何かしたいだの、今日はつきあってくれてありがとうだの。













屋敷までのそう大して長くはない道のりをそんな事を喋りながら。



























「所で志貴さんは何もお願いしなかったんですか?」


「え?」



そして唐突に琥珀さんはそんな事を聞いて来る。


思わず答えに詰まる俺。



数瞬、間を置いて、



「えっと、はは。俺も琥珀さんと同じで見とれちゃって願い事どころじゃなかったよ」



と、答えてはははと笑う。



「え~~~、本当ですか~~?」



懐疑的な目でにらんでくる琥珀さん。



「本当だよ」


笑いながら言う俺。












・・・琥珀さんには内緒だ。












『来年もまた琥珀さんとこうして星を見ることが出来ますように』




そう祈った事は。








そしてそれが星に願ったからか、はたまたただの偶然かは解からないが、
願った直後その願いが叶う約束をその願いが実現する確約を、他ならぬ琥珀さんと結んだと言う事も。



















琥珀さんには内緒にしておこう。


















END

















二人の影は月に照らされ・・・























後書きみたいな

そんなわけで何となく食べごろわんこさんに寄贈です。

あー、何ていうか『夜の公園、見上げれば星空。そこからたくさん星がふってきて、それを見る二人』みたいな情景を書きたいなぁと、そこから始まったSSでした。
決して書いてたときBGMが天体観測だったからとか言う安易な理由じゃありません。ええ決して、きっと多分。




しょうがないのでBBSにでも感想を書いてやる


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