2007/05/10(木)23:36
富貴草 こなし 俵屋吉富 & きんとん 京都 鶴屋 鶴壽庵
「富貴草」とは、フッキソウと読んでツゲ科の常緑多年草のことではなく、「ふうきぐさ」と読み、牡丹の別名。
富貴草 こなし 俵屋吉富 07/4/27
なんとも印象的な姿。
深い紅梅色の花びらの端は白く、中心にそぼろの黄色い蘂。
中の黒漉し餡が透けて花のなかほどが青みがかって見えるところが、とても面白い。波うつ花弁は一重咲きのようでもあるが、種餡でこの青みのグラディエーションがかかることで、百花の王の豊潤さが表現されている。
堂々として、気品ただよう、うつくしい姿。
紅梅色と白のくみあわせは、襲の色目の「牡丹」(表が白で、裏が紅梅)に由来するのかも知れない。
紅梅の花びらで種餡をつつんで白いこなしで蓋をしてあるのではなく、種餡をつつんで花びらをひねり出してあるようだ。
ねばりと弾力があるこなしで、「野辺の春」に比べるとコシがある。
種餡とこなしの一体感にブレはなく、いつもの俵屋テイスト。
口に含むと、牡丹のあのビロードのような花びらがはらはらと散り落ちるよう。
富貴な気分にさせてくれるお菓子。
富貴草 きんとん 京都 鶴屋 鶴壽庵 07/5/3
おなじ銘で、おなじ牡丹をかたどっているのに、こなしのものとはまったく趣が異なる富貴草。
写真では、赤っぽく、まるでチョコレートのお菓子のようにも見えるけど、れっきとした黒漉し餡のきんとん。いわば、総黒餡。
黒餡の色がほとんど黒といってもいいような深い黒紫色の花びら(そういう牡丹が実際にあるのかどうかは別として)を、重層的に折り重なるそぼろのヴォリューム感が八重咲きの大輪を思わせる、まさに、今花開こうとしている百花の王の風格さえ感じさせるすばらしいきんとん。
透きとおった甘みのそぼろは、しっとりして水分が多め。
てぼ製だとおもわれる蘂は、独特の後味がまるで蘂そのもののよう。
そぼろにつつまれているのは、黒つぶ餡。甘さが控えめでまろやかなのはそぼろとおなじだが、皮に含まれるコクとあずき独特のうまみ、そしてそぼろにはない食感が全体の風味を引き締めている。
透きとおった甘みの漉し餡のそぼろとコクのある粒餡の、それぞれの洗練された風味が絶妙の調和のなかで口のなかいっぱいに広がり、気品ある姿に劣らない、まさに「百菓の王」にふさわしい味わい。
みずみずしい黒牡丹を口いっぱいに頬張ったような、なんともリッチな満足感にしばし陶然。
それにしても、黒餡大好きの僕からしてみると、このきんとんこそまさに「上生菓子の中の上生菓子」と絶賛したくなる。
百花の王をかたどった姿にただよう、気品、風格はもとより、その風味。
風味でいえば、黒餡というのはやっぱり餡の中の餡。和菓子を代表する風味であり、ときには和菓子そのものとさえいっていいほど(たいやき から きんとん まで。黒餡が登場する定番和菓子は非常に多い)。
なのに、姿や色あいが重んじられる上生菓子の世界では、てぼ餡や白餡に決してひけをとらない格別な風味をもちながら、脇役的な、というか、その色のために(独特の深い味わいやコクはこの色と無関係ではない)ほとんど黒子的扱い(鹿の子というのもあるが、あれもなんか主役とは思えない)。
僕としては、常日頃この点がとても不満だったわけで・・・。
それが、この富貴草では、まぎれもなく主役は黒餡で、しかも、きんとんという上生菓子のなかではとくに抽象度が高い特別な菓子(きんとんが特別というのは僕の個人的な考え)で、しかも、その黒い色によって主役を演じている。風味は今更いうまでもない。
これを「上生菓子の中の上生菓子」と呼ばずして何を呼ぶのか?
なんてテンションあがってる僕のかたわらで、奥さんは呆れてたけど・・・。
とにかく、どうであるにせよ、この富貴草がすばらしい上生菓子であり、すばらしいきんとんであることだけは間違いない。
白餡やてぼ餡などのそぼろを季節季節の色どりで染めあげたはなやかなきんとん。
その中にあって、この富貴草を店頭で初めて見たときは、目を疑った。黒餡そのものの色だなんて思いもせずに、「一体、どうして、何を使って、わざわざこんな色に染めてあるのだろう?」ととても奇妙な感じがしたものだった。
日持ちのことがある雲龍と比べると、やはり、こちらはみずみずしい。今までも上生菓子の黒餡は食べてきてるのに、こんなにみずみずしいと感じるのは初めて。みずみずしい黒餡。
スタイル的には、鶴壽餡の古風なところはかわりない。