上生的幻想

2007/06/23(土)00:37

水佳人  焼皮   鶴游会ver. & 大丸京都店限定ver.

おたべやす  京都  和菓子編(698)

  水佳人(みずかじん) 鶴游会ver.   2007/6/9      堅苦しい席ではないとはいえ、さすがに気がひけるので写真はそれなりに(黄色がかっているのは照明のせい。ホワイトバランスを変えてもあまり写りが良くなかったので、こちらで)。    焼皮に、葉をかたどった緑色のうすい焼皮が重ねてあり、そぼろの花が二輪(王朝花傘でも使われていたこのそぼろは、「花(ことに八重咲きのもの)」を象徴する象形)。水の佳人(美人)とは何のことかよくわからなかったが、この焼皮を見れば一目瞭然。睡蓮の(花の)ようだ(実際に睡蓮の別名に「水佳人」というものがあるのかどうか、今のところ僕は見つけていない)。    しっとりと、やわらかい焼皮は、どこかういろうのようでもある。  種は漉餡で、皮ともにとてもみずみずしい。  花はてぼ餡のよう。  皮と餡の感触は、生ものといったみずみずしさと、独特で、印象的な、しっとり、もっちりとした口当たり。  三笠(どら焼き)などの皮も「焼皮」というが、これは、ぱさついた感じは全くないし、焼いたもの、という感じもしない。ただ、その生もののようなしっとり、もっちりした感触の中にほのかに漂って鼻に抜けていく焼き色の芳ばしさが、「ああ、これはたしかに焼いてあるんだな」と思わせてくれるとともに、不思議な興趣をさそう。    皮の雰囲気が何に近いかといえば、風味はともかく、口当たりは、笹屋伊織のどら焼きに近いかも知れない。あの皮をもっと薄く繊細にして、それよりは腰があって、焼き色もほのかに、といった趣だ。       水佳人(みずかじん) 大丸京都店限定ver.   2007/6/21    鶴游会は新作発表会もかねていて、人気の高かったものは店に並ぶんじゃないか、って言ってたら、やっぱり、思ったとおり。ただ、さすがに今年出るとは思ってもいなかった。  奥さんから出てると聞いてちょっとがっかりしたけど、実物を見て、安心。  食べて、さらに納得。      鶴游会ver.との大きな違いは、葉の数が三枚から二枚に、紅と紫の二輪の花が紅の一輪に。葉っぱは鶴游会の方はグラデーションがかかっているがこちらにはない。また、サイズも、やや小振り、かわいい感じだ。  食べてみると、さらに大きな違いが。  鶴游会は「生もの」だったが、これは、どうやら上用のように蒸してあるようだ。  皮は上用のような蒸したもののふんわり、もっちり感で、種の漉餡も上用のあのよく火が通っている風味。  そぼろの花はてぼ餡で変わりない。ただ時間が経っていたので少々硬くなってしまっていたが、これは仕方ない。  「生もの」のみずみずしさや艶やかさとは違うとはいえ、焼皮の見た目のみずみずしさは充分保たれている。  鶴游会ver.の方はういろうのような、また餡もみずみずしい「生もの」を食べたという印象だが、こちらは、上用のような「生もの」を食べたという印象。  ほとんど同じ意匠だが、どちらがより上質な生菓子を食べた満足感があるかといえば、やはり、鶴游会ver.の方。葉の数や花の数が違うとか言うことよりも、どこかより細かな気配りが行き届いていた感じがする。    ただ、さすがに茶席で食べるとなると、そんなにゆっくりと眺めている時間もない。  茶席ではなく、机で食べることも出来たのだが、せっかくだから茶席で食べた。やっぱり、目の前で点前してるお姉さんや半東のお姉さんを見ながら食べる方が雰囲気もあるし、気分もいいし。    その点、家でなら、じっくり目でも味わえる。  そうやってじっくり見てから口に含むと、脳裏に睡蓮の池が広がり、さらにそれは個我の境界をこえて広々とした明るい睡蓮池の世界が目の前に開けていく。  寒々と冬枯れした池に睡蓮(蓮だったかも、だが、このさい細かいことはいい)を爛漫と咲きほこらせ、摘みとった一輪の花を柳腰の佳人として満開の花の上で舞をまわせて船遊びを楽しんだという仙人の話が明代の伝奇小説『聊齋志異』の中にあるが、この水佳人とは、まさにそんな風情の上生菓子。  ただ「睡蓮」というのではなく、「水佳人」という銘が、そんな幻想に誘っていく。     (大丸ver.は、canon IXY900IS)   ***    つくったすぐに食べることを前提につくられている、鶴游会ver.  一方、店頭に並び、買って帰って家で食べることを想定してつくられている、大丸京都店限定ver.   同じ銘、ほぼ同じ姿でありながら、このあたりにも菓匠のこだわり、心遣いが感じとれる。が、それが、すごい、とかいうのじゃなく、食べる側が気づかなければ気づかないまま、ごく自然のこととして、普通にそうなっていることが、菓匠とその文化の高さを感じさせる。

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