戴冠せし爆発的「吉」? キャンティ・ルフィーナ モンテソーディ 1995 フレスコバルディ イタリア トスカーナ D.O.C.G. 2007/1/6
イタリアのワインってラベルが結構個性的。このキャンティ・ルフィーナも。マダマ曰く、「ボムキング」だそうな。うーん、たしかに・・・いわれてみれば・・・。ラベル買い、といきたいところだけど、キャンティということでちょっと躊躇。イタリアはボルドーやブルゴーニュ以上に不案内なので下調べ。フレスコバルディは、モンタヴィとコラボしてルーチェを出しているイタリアの伝統ある生産者。キャンティ・ルフィーナのリーダー的存在でありトップ生産者。さらに、この「モンテソーディ」はニッポザーノという畑の良作年だけのスペシャルキュベ。これだけならかなり期待できる。ただ・・・ね、キャンティってところが・・・。キャンティっていえば藁ずとに包まれたツボ型のビンがトレードマークのやけに酸っぱい、薄っぺらい、お食事用ワイン、っていうイメージ。確かに、以前飲んだリエチーネのキャンティ・クラッシッコはそういうタイプのキャンティとは一線を画していたけど、なんかボルドーチックで、キャンティの良さのようなものが感じられない。個性を出そうとすれば、酸っぱい、薄っぺらいワイン、逆にそこを脱出したとおもったらボルドー・フェイク、キャンティってそんなワインなの? でも、まあ、ものは試し・・・。やっぱり、ラベルがいいから。 色は思ったより暗い、というより、黒いルビーで、全体にレンガ。キャンティというと結構明るい色を想像していたのでこれは意外。かなり熟成している。若のみのイメージが強いキャンティ。少し不安になる。ただ、透きとおっていて、照りもある。 アロマは、熟れた赤色果実、その果肉を断ち割るように立ちのぼる、シャープな酸味。この酸味はまさにキャンティ。ジクに由来するような青みや苦味をほのかに感じさせるあの酸味。乳酸系。そして、ふわりとただよう甘い腐敗系の香りが、ワインを魅惑的で妖艶にしている。 グラスを揺すると直後に立ちのぼる、白薔薇のニュアンスが添えられた、濁りのない甘いケモノ香。なんとも美しく蠱惑的な香りにうっとりしていると・・・ケモノ香は消えていき、いきなり現れる煮豆の香り。ひじきやこんにゃくやニンジンと一緒に煮た、大豆のあの匂い。なんとも落差のある香り。その煮豆の中に赤色果実がひっそり。 アタックは、キャンティのあの酸味。口にしたとたん無性に食欲をそそるあの酸味(実際、お腹のムシがひと鳴きしたような気がした)。わずかにえぐみのあるような、というか、ちょっと胃薬の中にありそうな苦味、というか、あるいは、ジクの青みを感じさせるような、金属の粉末を思わせるような、あの酸味。ただ、薄っぺらいキャンティのそれとはまったく違う。だが驚くのは、舌触り。キャンティといえばけっこう攻撃的というか、チャキチャキしているというか、クールというか、そんなイメージがあるけど、そんなものとはまったく違う、豊かな生き物のような滑らかさ。その滑らかさをまとった赤色果実がアタックにつづき、キャンティの酸味がしみこんでキャンティの酸味の皮膜そのものになったような舌の上を、ミルキーでシルキーなカフェオレの球体がころころと転がっている感じ。コーヒーの味がするキャンティはよい生産者がつくったよいヴィンテージの証だそうだが、まさにそれ。そしてキャンティの酸味のキレのあるフィニッシュへと続く。 まだまだバランスが整っていないのだろうけど、あの独特の酸味とそのキレの良さ、クールさはそのままに、まるでキャンティには似つかわしくない、滑らかさなど、酸味以外の要素の豊かなヴォリューム。 二杯目、三杯目と時間が経つにつれて、甘い赤色果実やケモノ香を感じさせたアロマには月桂樹の冠、コンポートのような質感が加わり、風味は、月桂樹、スパイスなど複雑な風味がひとつにとけ込んだ、よく熟れた、濃厚な、いきいきとした、豊満な赤色果実の球体に。ただ、あまりにもグラスを揺すりすぎると、時折、ぷっ、ぷっと、かぐわしいアロマからは想像に難くはないとはいえあまり嬉しくない放屁があるのはご愛嬌。肉、月桂樹、スパイスなどのフィニッシュ。およそキャンティとは思えない。キャンティ独特のあの酸味も出しゃばらなくなって、スタイルをスパン!と引き締めている。 そう、このスパン!って感じ。このスパン!ときまったスタイリッシュさ。派手さはないが、スパン!と極まった切れ上がった小股。洗練。 このスパン!と極まった洗練なスタイリッシュさ、これはボルドーにもブルゴーニュにもない。どころか、こんな洗練やスタイリッシュさを見せつけられると、ボルドーやブルゴーニュのフィネスやエレガンスというものが、贅肉のようにさえ感じられる。 この違いは、たとえば、イタリアの色彩とフランスの色彩のあの違い。フォーヴの作家や、あるいは、ゴッホやゴーギャンが南仏でがんばってもイタリアの透きとおった日射しが溢れる明晰な鮮やかな色彩には及ばない。 それ以上に僕に思い浮かんだのは、フィレンツェの建築物のあの輪郭の明晰な調和。初期ルネッサンス建築のあの輪郭、あの稜線、あのライン。まさにそれと同質のスタイリッシュさと洗練。明晰な秩序と調和、大理石のエレガンス。(フランス・ワインが求めるフィネスやエレガンスは、ロココ風? あるいは、ヴェルサイユ宮殿風? それとも、それらを模倣したプティ・ブルジョワ風? なんでもいいけど、フランスのお手本はフィレンツェにあり、って感じがしてくる。といって、いくら頑張ってもフランスはフィレンツェを真似できないし、追いつけない・・・) 紛れもなく素晴らしいワイン! フィレンツェを、ことに初期ルネッサンスのあの明晰な美のエッセンスをそのままぎゅっと凝縮したようなワイン。フィレンツェや初期ルネッサンスの建築物の美、あるいはもう少し範囲を広げて、ピサの大聖堂のあの美に通じるスタイルを持った、フィレンツェを中心としたトスカーナの美を彷彿とさせる、素晴らしいワイン。 ただ、残念なのは・・・・僕がもっとフィレンツェのことを知っていたら。トスカーナ地方の美についてもっと知っていたら。その場所に行き、その雰囲気を呼吸し、大気の温度を直に肌で感じていたら・・・・あのなかにとけ込みその美と一体になるほど親密だったら・・・もっともっとこのワインは美と悦楽とに僕を導き、もっともっと素晴らしいワインになっていたに違いない!!! こんなワインに、また巡り会うことができたら!! 晩はアンコウ鍋。料理との相性がいい、とか、料理を引き立てる、とかいうのとは違う。このワインは、それぞれの食材の本来持っている風味を際だたせる。しかも、フィレンツェの初期ルネッサンス風に、きわめて明晰に美しく。 翌晩は、手羽先・手羽元のクリーム・シチュー。手羽は煮込む前にフライパンで炒めて焼き色をつける。これがとても美味。シチューはハウス。この組み合わせは、・・・ワインがとても引き立った。 ・・・・そうそう、タイトルの「戴冠せし爆発的『吉』」について一言。 ラベルをよく見て・・・王冠、「土」、金の「◎」、魚のひれのように尖った青・・・。「土」と「◎」で漢字の「吉」、尖った青が「爆発」・・・・マダマにはそう見えるのだそうだ。たしかに(「土」は十字架なんじゃないかと僕は思うけど)、いわれてみればそうも見える(「ボムキング」よりはかなり出世した?)。 正月早々おめでたいラベル。 でも、このラベルがほんとに意味するものって何なんだろう? ブルゴーニュのラベルは読んだまま。ボルドーのラベルにシャトーが描かれているのは「身元証明」(このワインはこんな立派なシャトーでつくられましたよ。立派なシャトーがあることがワインの品質証明につながった時代の名残)。 モンテソーディ、謎を秘めた不思議な、魅力的なラベル。(2007/01/08)※ガイアはフランスとのつながりを感じるけど、これはきっぱりとイタリア、って感じ。 ガイア クレメス 1997