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太陽と月の家のプライベートルームへようこそ

育てるということ(プリセプター研修にて)

こちらのページには、平成16年に武蔵野市の総合病院で行われた「プリセプターシップ研修」で、私が公演したときの内容を掲載しています。
“プリセプターシップ”とは、先輩の看護師さんが後輩の看護師さんに、基本的に1対1でついて指導する教育的関係のことです。

ここでは、そうした先輩看護師さん向けに、後輩を「育てるということ」についてお話をしていますが、看護師さんでなくても、一般の会社、あるいは子育てでも、とにかく人を育てる上では普遍的に通じる内容を、社会心理学的な知見も交えながらお話しています。

育てることに関心のあおりの方、ちょっと迷いを感じていらっしゃる方…そんな方のお役に少しでもたてたら幸いです。(^-^)

(※文中で、「プリセプター」とは先輩看護師、「プリセプティ」とは指導を受ける側の後輩看護師のことです。)


★☆★ 以下、公演内容の逐語録(講師:chaska)です ★☆★

 皆さん、こんにちは。
 臨床心理士のchaska(本番では、本名…^^)と申します。
今日はプリセプター研修の一環として、「育てるということ」という内容で講義の方を担当させていただきます。
心理学の理論や研究結果などをもとに、人を育て、活かすカンドコロは何かを、お話していきたいと思います。
どうぞよろしくお願いいたします。


≪1.人が育つ条件は何か≫

 それでは、早速、本題に入っていきましょう。
まず、大きく捉えて・・・「人が育つ条件とは何か」というところから考えてみたいと思います。
人を育てようと思う時には、まず第一に、人はどういう条件があると育つのかということをつかんでおくことが必要かなと思います。
そこで、ご参考までに、人が育つための一般的な条件を幾つかここにあげてみましたのでご覧ください。
 ざっとみてゆきますと、人を育てるのは、・・・仕事、経験、上司や先輩、自分自身、ライバルや仲間、必要性や切迫感、対話、環境、周囲の期待や激励、社風、時間・・・なんかがあげられます。
今回はプリセプター研修ということですから、やっぱり3番目の「上司や先輩が人を育てる」という点に注目していきましょう。

 仕事や経験っていうものは自分ひとりでこなして、積んでいけばいいというものじゃなくって、やっぱり、正しいやり方とか考え方なんかを初めに伝授してもらえるかどうかで、のちのち、大きな差がついてくるものなんですね。
新人を育てる上で重要なことは、「教える」・・・つまり与えるだけではなくって、「育てる」・・・つまり引き出す、伸ばすっていうことにも留意するということなんです。
人間の能力には2つの側面がありまして、それは、すでに「あることができる」っていう〈顕在能力〉と呼ばれているものと、これから「何かができる可能性がある」っていう〈潜在能力〉と呼ばれているものがあります。
〈顕在能力〉については、もともとあることができる能力ですから、これは一段とレベルアップさせるように指導してゆくことになります。
それから、これから何かができるようになる可能性があるっていう方の〈潜在能力〉の方についは、本人のもっている長所や持ち味をうま~く探し当てて、引き出していってあげるように関わっていく・・・この潜在能力をどう引き出していくかというあたりが、人を育てていく上ではポイントになってきそうです。
潜在能力を引き出すことに関しては、また後で触れてみたいと思います。

 さて、次に、これも大事なことなんですが、何をどのように育てるのかっていう、目標が決まらないと、関わり方にも迷ってしまいますよね。
そこで、まず最初に、どんなふうに育てたいのかっていうコンセプトのようなものを持てるといいかなと思います。
 育てたいものはいろいろあると思うんですが、ここでは、多分どんな組織でも必要とされるだろうと思われることを大きく2点あげてみました。
それは、「『自分づくり』の力」と「人間関係の力の育成」という2つです。
まず、「『自分づくり』の力」についてですが、その育成のためにはどんなふうにしていったらいいでしょか。

1)まず、1つめとして、「自己受容や自己肯定の力」を高めてゆくことがとっても大切です。
これは、あるがままの自分を受け入れて、今のままでOKなんだっていう自己肯定感のような感覚を高める機会を、プリセプティにもたせていくことが大切なんですね。
これがないと、「どうせ、私は・・・」といったような投げやりな態度が出てきてしまいやすくなってしまいます。

2)それから、2点目としては、「自己決定の力」をつけていくことも大切です。
つまり、やるべきことを伝えていくだけじゃなくって、自分でどうやっていけばいいのかを自分で決めることのできる力を育てていくことが大切なんです。
じゃ、どう育てていけばいいかっていうと、まず前もってプリセプティに必要な情報を知らておきます。
その上で、プリセプティ自身に選んでいってもらうようにするといいんですね。
もし、プリセプティが間違ったことを選んでしまったとしても、自分で選ぶという方法が身についてくると、失敗してもやり直しがしやすくなるんです。
逆に、こっちの指示だけで動くように育ててしまうと、「失敗したのは人のせいだ」っていったような他責的な考えの強い人になってしまうので注意が必要です。

3)それから、3点目として、「自己責任の力」をつけていくことが必要です。
自己決定と自己責任はワンセットっていうふうにも言えると思うんですけど、これは、自分が果たすべき責任を負えるようになる力のことです。
ある集団の中に属するということは、そこで当然果たすべき責任も負うっていうことですので、その集団に対して、自分はどんな貢献を果たすことができて、それから、どんな役割を果たすべきなのかっていうことを見極めて、実行していく・・・そのために、育てる側は、あくまでルールはルールとして厳しく接していくことも時には必要になってきます。
そうした態度が、自己責任を育んでゆく上で大切な要素になってくるんですね。

 それから、項目の二つ目に「人間関係の力の育成」と書いておきました。この「人間関係の力の育成」のためには、我慢することと自己主張のスキルを育んでゆくことがとても大切になります。
組織の中で仕事をしていくわけですので、いろんな考え方や価値観の人とも協力してやっていかなければなりませんよね。
ですから、忍耐力が必要なのはもちろんなんですが、相手との関わりの中で、相手を認めるだけでなくって、自分の言うべきことも適切なやり方で相手に伝えることのできる力ですとか、他の人との違いの中でお互いに折り合える力なんかを身に付けていくことがとても大切になってきます。

 ここでは、いろんな組織の中で共通して必要とされる代表的な2つの力を取り上げましたが、それぞれの組織によって、育てたい内容も変わってくると思います。
大切なことは、“何をどのように育てたいのか”っていうコンセプトを、育てる側が、まずしっかりともっておく・・・ということなんだと思います。


≪2.組織における人材育成≫

 では、次に、「組織における人材育成」についてお話していきたいと思います。
組織における人材育成の中心となるのは、職場での日常の業務を通じた指導育成ですから、みなさんのようなプリセプターによるプリセプティへの指導が、まさにそれに当たりますね。
そうした場面で、特に重要だとされている3つの項目をあげてみました。

(1)潜在能力の向上を図る
 まず、1つめとして「潜在能力の向上を図る」と書いてあります。
これは最初にも触れましたけど、潜在能力の向上を図るということは人を育てていく上でとても大切なことなんですが、じゃあ、どうしたら潜在能力を引き出せるんでしょうか。
大まかに言ってしまうと、まず、現在必要な能力とか将来的に必要になるだろう能力を、育てる側がしっかりと把握して、それから、プリセプティの現在の能力と照らし合わせてみて、そして、プリセプティ本人に、どんなテーマの能力をこれから身につけていくことが必要であるかということを理解してもらった上で、指導していくということが、潜在能力を高めていくための土台として必要になってくると思います。
その上で、次の項目に書いた通り、「意欲をいかにもたせるか」っていうことが、潜在能力を高めていくための鍵になってきます。

(2)意欲をもたせる
 人は意欲を持てば、積極的になれるし、それが努力に結びつけば、いろんな工夫や自己啓発につながっていきます。
その人がもともと持っている顕在能力を高めて、潜在能力を引き出すために、どうしたら意欲を持たせられるか。
これは育てるということを考えるとき、とても重要な問題ですので、詳しくはまた後ほどお話をさせてください。

(3)能力や成果を発揮する機会を与える
 それから、次に「能力や成果を発揮するための機会を与える」と書いてありますが、どうしてこうした機会が必要かっていうと、自信をつけてゆくことができるからなんですね。
自信っていうのは、どんな小さなことでも、自分で決めて、自分で行動して乗り越えて、そして、自分で「何とか乗り越えらたな、頑張ったな」と自己評価したり、時には他の人に認めてもらったりして・・・だんだん自信がついていくもんなんですね。
だから、プリセプターの皆さんは、そんな体験のできる機会をどんどんプリセプティに提供して、そして、成果を充分に評価して、プリセプティの自信をつけていってあげていただきたいと思います。

 そして、一般に、心理学では、潜在能力や意欲のことを計算式に表すと、このようになっています。
つまり、発揮される能力」は、その人の「潜在能力」と「意欲」を掛け合わせたものだといわれているんですね。
潜在能力も大切だけど、意欲の高さが、その人の発揮される能力にどれほど大きく影響するかということがお分かりいただけるのではないかと思います。

 それでは、プリセプティの指導に必要なスキルについて、もう少し具体的に見ていきましょう。
やっぱり、先ほど申し上げました「意欲」・・・言い換えれば、「動機付け」をどう高めるかが新人を育てるためのポイントになってきます。

◆新人を育てるために必要なスキル
 一般に、指導というと「指示や命令」によるものが、まず、ありますよね。
入ったばっかりの新人さんにとっては、なんにも指示してくれない先輩よりは、たとえ一方的であっても指示や命令をしてくれる先輩の方がありがたく感じられる時期もあるんですね。
でも、人は命令されるかんじで機械的に仕事をさせられているっていう感じをもってると、なかなか自分から主体的に課題に取り組んでいこうっていう姿勢になりにくいし、どっかで不満も生まれやすいんですよね。
なので、新人に対しては、「自分たちが納得して課題に取り組んでいるんだ」って思えるような、いってみれば「主役意識」みたいなものを育てていけるといいんですね。
それで、そのために、ここにあげたみたいな3つの指導・・・つまり、新人を育てるためのスキルが必要になってきます。
それは、まず、「状況を理解させる技術」、それから、「ヒントを与え、考えをまとめさせる技術」、それから、「プリセプティの状況を理解するための傾聴の技術」なんです。

それぞれのスキルについては、後でもう少し詳しくみていくことにして、もう一つ、大切なことに「動機づけの重要性」っていうのがあります。
新人が「主役意識」を持って、やる気を起こして、主体的に学習とか業務とかにチャレンジしてもらうには、意欲を高める、つまり、「動機づけ」となるような指導をしていくことが必要です。
いってみれば、さきほどあげました「3つの指導スキル」も、動機づけを行うための指導技術であるとも言えると思います。
 では、どうしたら、動機づけを高められるのか・・・ということなんですが、まずは「動機づけ」っていうものについて、はじめに基本的な理解をしておきたいと思います。
動機づけには、「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」の2種類があります。

 ここで、2つの動機づけの違いを見てみましょう。
まず、「内発的動機づけ」ってどういうものなんでしょうか。
「内発的動機づけ」っていうのは、学習や行動を起こすきっかけを、プリセプティが自分自身で見出した場合のことなんです。
内発的動機づけは、自分の心の中からおこる「やる気」ですから、プリセプターや上司があれこれ言わなくても、「内発的動機づけ」があれば、プリセプティは進んで行動しようとします。
ちょっとやそっと、周囲の条件が悪かったり、困難があったとしても、主体的にそれを乗り越えて行動しようとする事にもつながっていきます。
 でも、「外発的動機づけ」っていうのは、それとは反対なんです。
学習とか行動を起こすきっかけが、自分以外のものから与えられることにある場合・・・例えば、誉められるからとか、ご褒美をもらえるからとか、罰を受けるからとか・・・そういうことに行動を起こすきっかけがある場合を「外発的動機づけ」って呼んでいます。
だから、外発的動機づけは、まあ、確かに、全然そいういうものがないと、その人は満足しないかもしれませんけど・・・必ずしも継続的なやる気にはつながらないんですね。
いってみれば、外発的動機づけは、プリセプターとか上司とかが与え続けることで初めて成り立つといった、言ってみれば、「消極的なやる気」のことなんです。
 
 こんなふうに見てくると、プリセプターの側としては、プリセプティの中に「内発的な動機づけ」の方を促す方が望ましいということが見えてくるかと思います。
では、どうやって内発的動機づけを高めるんでしょうか。
内発的動機づけを高めるためのポイントが3点ほどあります。
 まず、「プリセプティが自分の意思で考えている」っていう感覚をもたせること、・・・それから「プリセプティに自分の力で気がついた」っていう感覚をもたせること、・・それから、「自分の存在価値」のようなものをプリセプティが自分で評価することのできる状況をつくりだしていくこと・・・こうしたことが、内発的動機づけを高めることに役立ちます。
ようするに、自分で気づいて、考えて、決定して、行動している、そういう感じをプリセプティにいかにもたせるか、そのへんがポイントになるのではないかと思います。

***主役意識を動機づける3つの指導スキル(1)***
 ここで、話を少し戻したいと思います。
・・・先ほど、プリセプティの主役意識を動機づけるスキルが大切だっていうお話をしましたが、その内容をもう少しだけ詳しくみておきたいと思います。
どうやったら、主役意識を高めることができるんでしょうか。
 ポイントは3つあげられます。まず、1点目として、「状況を理解させる指導スキル」というのがあります。
「状況を理解させる指導スキル」っていうのは、これは次のような4つの観点から、プリセプティが自分の置かれた状況を理解することをサポートすることを指します。
プリセプティが置かれたその時の状況・・・つまり、今、プリセプティがしている仕事を、プリセプティが自分を主体として、理解するために、ここにあげたような観点から捉えてゆく習慣がつくと、プリセプティの主役意識は育っていきやすくなります。
ちょっと一緒に見てみましょう。
まず、「その仕事が社会的に、また患者さんのどんな目的を実現するためのものなのか」、また、「目的実現のために、その仕事がどれくらい重要なのか」、「どんな直接的なメリットや意義が自分にもたらされるのか」、そして、「なぜ今がその仕事を習得するチャンスなのか」といった4つの観点から、今、プリセプティがしている仕事を捉えることを、皆さんはサポートしてあげられるといいと思います。

 1つ具体的な例をあげてみますね。
例えば、「患者さんへの挨拶」ということを取り上げてみましょう。
「患者さんへの挨拶」を、ここにあげた4つの観点から捉え直してみますと、まず、1点目の「その仕事が社会的に、また患者さんのどんな目的を実現するためのものなのか」という観点からは、どんなふうに捉え直せるでしょうか。
例えば、「さわやかな挨拶をすれば、患者さんも一日の活力が湧く」・・・なんて捉えなおすことができそうですよね。
じゃあ、2点目の「目的実現のために、その仕事がどれくらい重要な位置にあるか」という観点からは、どんなふうに捉えられるでしょうか。
例えば、「よい看護っていうものは、患者さんのニーズを把握するための情報収集が基本だから、話かけやすい雰囲気づくりのためにも積極的な挨拶が大切だ」・・・そんなふうに捉えることができるのではないでしょうか。
それじゃあ、3点目の「どんな直接的メリットや意義が自分にもたらされるか」という観点からは、どうでしょうか。
これは、例えば、「挨拶は患者さんとのコミュニケーションのきっかけとなる」と捉えられますよね。
それから、4点目の「なぜ今がその仕事を習得するチャンスなのか」という観点からだったら、「よい習慣は新人時代が最も身につきやすい」、などと捉えることができるのではないでしょうか。
こういった4つの観点から、プリセプティが自分のおかれた状況や行動を捉え直せるようにプリセプターの皆さんがサポートしてゆくことで、プリセプティは自分の行動や状況を自分に引きつけて理解して、主体的な気持ちで仕事に取り組んでゆけるようになっていくと思います。

***主役意識を動機づける3つの指導スキル(2)***
 それから、主役意識を動機づけるスキルはもっとあります。
これは申し上げるまでもないことかもしれないんですけど、やっぱり、〈叱る、誉める〉っていうスキルはとても大切です。
叱ったり誉めたりする時には、どこが良かったのか、また悪かったかのかをできるだけ具体的に示すことがおススメです。
それから、どの程度よかったのか、また悪かったのかを客観的に伝えていけると効果的です。
つまり、「良くできたね」って誉めるだけよりも、その価値のレベルを示してあげるといいんですね。
例えば「手際よくなったね」って誉めるよりも、「平均で10分程度は作業にかかる時間が短縮してきていますよ。手際よく仕事ができてますね。」って誉められたら、・・・やっぱり言われた方は自分の頑張りの価値が実感できて、嬉しいし、もっと努力しようっていう気持ちにもなれちゃうかもしれませんよね。

 それから、主役意識を高めるスキルはもっとあります。
例えば、〈ヒントを与えて、考えをまとめさせる〉っていうスキルがあります。
これは、上手に質問をしてあげることで、相手の考えの整理を助けたり、考えを深めたり、視野を広げてあげるっていうスキルなんです。
だから、ここでは質問の仕方にコツがあるんですね。
 質問の仕方には大きく2種類あります。
〈オープン発問〉とか〈開かれた質問〉って呼ばれる質問と、〈閉じられた質問〉って呼ばれる質問です。
主役意識を高めるためには、こちらがうまく質問をしてあげることで、プリセプティが自分で考えをまとめるのをサポートしてあげられるといいんですね。
 そんな時に役立つ質問の仕方を3つほどあげてみました。
まず、今、言った、〈オープン発問〉とか〈開かれた質問〉とか呼ばれている質問の仕方があります。
これは、「はい」とか「いいえ」とか、2~3語の短い答えで終わらない質問のことなんです。
そんなふうに「はい」とか「いいえ」で終わらない答え方を促す質問なので、相手の気持ちや考えなんかを詳しく引き出すことができるんですね。
例えば、「~についてどこまでマスターしていますか?」っていったかんじで質問すると、聞かれた方は答えをさがすうちに、自分のマスターしていない部分にも気がついたりして、もっと仕事を覚えていこう・・・っていう感じで、新たなチャレンジを動機づける質問ともなりえるんですね。
その他にも、〈考え方の幅を広げようとする〉質問の仕方もあります。
例えば、「患者さんの立場で考えるとどうですか?」なんて聞くことで、答える側は自分の視野や考えを広げてゆくことができるんですね。
それから、〈現在の考えをまとめさせるような質問〉なんかもあります。
これは、例えば、「患者さんに説明するとしたらどんなふうに説明しますか?」っていう感じで問いかけると、答える側は、答えを探すうちに、自分の考えをまとめていけるんですね。
こんなふうな、今あげた、〈オープン発問〉とか〈考え方の幅を広げようとする発問〉とか〈現在の考えをまとめさせるような質問〉なんかを使って、質問の仕方を工夫しながら、プリセプティが考えをまとめることをサポートしてあげることで、プリセプティの自己発見を促してゆくことができるんですね。
これは、私が普段使っているカウンセリングの手法の一つを応用したものなので、是非、使ってみていただきたいと思います。
 
それから、一番下に書きましたけど、〈プリセプティの状況を理解するための傾聴の技術〉っていうのも大事ですね。
もちろん、自分と相手は別々の人間なのですから、完全に相手を理解するっていうことはやっぱり至難の業なんですね。
これはカウンセリングでも同じで、無理に理解しようとすると、相手を何とかして自分の枠におさめようとすることになってしまって、かえって相手を歪めてとらえてしまったりして、理解できなくなってしまいます。
ですので、完全には理解できなくてもいいから、それでも相手の話に誠意をもって耳を傾けて、実感として伝わってきたことを「~ということですか」と丁寧に伝え返しながら話しを進めていくといいんじゃないかと思います。こうした聞き方をしてもらうことで、話し手はずいぶん安心感を得られますし、お互いの信頼感も高まってゆくのではないかと思います。

 ところで、先ほど、人を育てる上では、意欲や動機づけを高めることが大切ですっていうお話をしましたが、もう一つ、大切なものがあります。
それは、「自己効力感」・・・英語では「セルフ・エフィカシー」と呼ばれているものなんです。
 「自己効力感」って何かと言いますと、「ある結果を生み出すために、必要な手続きを組み立てて、それを適切に行うことができるという自分自身の予測」のことなんです。
そんなふうに言ってしまと難しい感じがしてしまいますけど、
平たく言ってしまえば、「自分はやればできる」っていう気持ちと、「努力すれば環境や状況を自分にとって好ましい方向に変えられる」っていう見通しのことなんですね。
関連することとして、「結果期待」と「効力期待」というのがあります。
それぞれどんなものなのでしょか。
まず、「結果期待」っていうのは、「ある行動が結果をもたらすかどうかに関する期待」のことです。
もう一方の、「効力期待」っいうのは、「自分がその行動をうまくとれるかどうかに関する期待」のことなんです。
ちょっとややこしいですね。
繰り返しますと、「結果期待」っていうのは、「ある行動が結果をもたらすかどうかに関する期待」のことで、・・・「効力期待」っいうのは、「自分がその行動をうまくとれるかどうかに関する期待」のことなんです。
そして、この2番目の、「効力期待」と呼ばれているもののことを、「自己効力」とも呼んでいます。
「自己効力」・・・つまり、「自分はその行動をうまくとれるんじゃないか」っていう自分の中の見通しや期待のようなものが高まることで、行動や結果を引き出しやすくなるんですね。
ただ、この「自己効力感」っていうのは自然に生まれてくるものではなくって、これからご説明するような、4種類の方法を通じて、それぞれの人が自分で作り出してゆくものなんです。
ですから、プリセプターの皆さんは、これからお話するような4つの方法をうまく使って、プリセプティの中に自己効力感を高めるような働きかけをしてゆけると、いいのではないかと思います。
それじゃあ、自己効力を高める方法を見てみましょう。

***自己効力感に影響する情報と方略***
 はい、こちらに自己効力感を高める4つの方法をあげてみました。・・・簡単に上から見ていってみましょう。
まず、「遂行行動の達成」ってありますが、これは、自分で行動して、達成できたっていう成功体験の積み重ねのことなんです。
成功体験を積み重ねていけば、新しいことに対しても、「自分ならやればできそう」っていう自己効力感は高まってきますよね。
では、成功体験を積み重ねるにはどうしたらいいのかっていうと、それにもコツがあって、心理学で「シェイピング法」と呼ばれている方法でやっていくといいんです。
「シェイピング法」っていうのは、一度に高い目標まで達成しようとするんじゃなくって、段階をおってスモールステップに目標を達成してゆくことなんです。
小刻みに目標を設定すると、それだけ成功体験をする機会を増やすことができますよね。
その度に自己効力感を高めることができるわけです。
それから、この時、目標設定の仕方が重要になります。
目標設定の時には、「だいたい8割がたはできそう」って思える目標を立てるのがポイントです。

 それから、次に書いてある「代理的経験」についてですが、これは、自分が実際にしなくても、他の人がしている姿を見ることで、「何だか自分にもできそうだな」っていう感覚を高めることなんです。
自分と似たような状況で同じ目標をもっている他の人の成功体験や問題解決法を見たり聞いたりすることで、「あの人にできるなら、私にだってできるかもしれないな」とか、「あの人がやってた、あのやり方なら、自分にもできるかもしれない」って感じて、自己効力感が高まってゆくことがあるんですね。
ただ、この方法での注意点は、モデリング、つまり自分のモデルとする対象をうまく選ぶということなんです。
あんまりにも自分とはかけはなれたような、とっても条件のそろったような人ができているのを見たりすると、「あの人だからできるんであって、私には条件がそろっていないからできっこない」っていうふうに、かえって自己効力感が下がってしまうこともあるので注意していただきたいと思います。

 それから、3番目に「言語的説得」って書いてありますが、これは、本人自身が、あるいは周囲の人が、本人の努力を認めて、能力があるっていうことを言葉とか態度とかで示していってあげることです。
特に、専門性に優れていて、魅力的な人から励まされたり誉められたり、きちんと評価してもらったりすると効果があります。
それから、本人が自分で自分に対して、「自分ならできるはず」って自己暗示をかけることでも効果をあげることができます。

 そして、4番目の「生理的・情動的体験」って書いたものについてですが、私たちは緊張が高まると、脈が速くなったり、手に汗をかいたり、お腹が痛くなったりすることがありますよね。
そんなふうな生理的な状態や感情の状態が、自己効力感に大きく影響するんです。
例えば、緊張とか、疲れとか、痛みとかの体験は、自己効力感を弱めます。
逆に、リラックスしている時なんかは、自己効力感が高まるんですね。
ですから、自己効力感を高めるためには、自分がリラックスできるようにリラクセーションをしてみるように工夫することが大事だし、周囲も、本人がリラックスできるようサポートしてあげられるといいかと思います。
それから、考え方も、「自分はできない。駄目だ。」っていう思い込みは自己効力感を下げてしまうので、もっとその考え方を「リフレイミング」し直して、・・・つまり、別の角度から見直して、自分の否定的な思い込みをもっとポジティヴな見方に意識的につくり直していけるといいですし、そのことによっても、自己効力感を高めていくことができるんですね。

 この自己効力感っていうのは、やる気を引き出す上でとっても大事な概念なので、少々詳しくお話してきてしまいました。
是非、プリセプティの方々に関わってゆかれる時に、このあたりを頭の隅に入れて、自己効力感を育む関わりをしていっていただければと思います。

***プリセプティの成長を信じよう***
 さて、ここまでは、意欲とか、動機づけとか、自己効力感とかのお話をしてきましたが、よく考えてみると、これらは、主体はプリセプティの方でして、プリセプティの中にどのようにして、これらの意欲や自己効力感を生み出す関わりをしていくか、といったお話が中心でした。
そこで、今度はプリセプター自身の内面に関わる重要な要素について触れておきたいと思います。それは、何かって言いますと、・・・プリセプティの成長を信じる気持ち、言い換えれば、プリセプティに対するプラスの期待・・・のことなんです。

 「期待」っていうのは、基本的には人を育てるのに一番大きな要素とされていて、心理学的には願望と予測とが混ざっている概念でもあります。
もちろん、過剰な期待っていうのは、かえって相手に負担感やプレッシャーを与えることになりかねませんが、ほどよい期待っていうのは、相手の成長を促す上で、とっても効果的なものなんです。
 教育心理学の世界に「期待効果」って呼ばれる考え方があります。
これはギリシャ神話のピグマリオンという人の名前からとられた「ピグマリオン効果」っていうのが元の言葉です。
もしかしたら、聞いたことのある方もいらっしゃるかもしれません。
昔、ある時、ピグマリオンという石工がいて、女性の石像を造りました。
その石像は素晴らしい出来上がりで、彼はその石像に惚れこんでしまいます。
それで、片時もこの石像から離れられなくて、もしこの石像が本物の女性だったらっていう強い期待を持ち続けるんですね。
そうしているうちに彼は食事もできなくなって、とうとう衰弱していきます。
それを見た神様が可哀想に思って、その石像を本物の女性に変えた・・・というところから出てきた概念が「ピグマリオン効果」と呼ばれるものなんです。

 こうした「期待」に関して、心理学ではローゼンサールという人が次のような実験をしました。
あるクラスで「学習が将来伸びることを予測するテスト」っていう触れ込みで知能検査を行います。
その検査の結果の点数と全く関係なく・・・「この子とこの子は、テストの結果将来学習が伸びることが予測されました」と担任の先生に嘘の報告をします。
それで半年後にまた知能検査をすると・・・、「伸びる」と言われた子どもたちが他の子どもたちよりも本当に成績が伸びたっていう不思議な実験があるんです。
実験者は、知能テストの点数とは全く関係なく、適当に、「この子とこの子は伸びる」って嘘の報告を先生にしたのに、伸びると報告された子どもたちがなぜか本当に点数が伸びた・・・これはどうしてそんなことがおきたんでしょうか。

 これがどうしてそうなるのかっていう研究もなされました。
今度は先に先生に聞くんですね。
「どの子とどの子が伸びると思っていますか、それから、どの子とどの子が伸びないと思っていますか」って両方聞いたんですね。
これを心理学では、「プラスの期待」と「マイナスの期待」って呼んでいます。
それから、実際に授業がどんなふうに行われているのか、その様子も観察されました。
「Aさんは将来伸びる」、「Bさんは将来伸びない」と思っている先生がいたとします。
伸びると思っているAさんを当てるとAさんは答えます。
先生はAさんは能力がある子だと思っているので、Aさんが答えられるのは当然だと思います。
Aさんが仮に間違えをしたとしても、Aさんならできるはずだと先生は思ってますから、時間をあげて、ヒントもあげて、考えさせて、答えを言えるのを励ましながら待ってあげます。
反対に、伸びないと思っているBさんを当てて間違えても、Bさんはできなくって当たり前と先生は思っているので時間も取りません。
さっさと先生が答えを言っちゃうか、別の子に答えさせるかをしてしまいます。こんなふうに先生の接し方が違っていることが教室を観察していて分かったんですね。
つまり、この実験は、先生と子どものコミュニケーションの問題をはらんでいたことが分かったんです。
ですから「伸びる子、伸びない子」って先生が思っていることがそのまま相手に、まるで魔法のように伝わったわけではなくって、日々のコミュニケーションが相手にいろんな影響を与えていたわけです。
これを簡単に言葉に表すと 「見る」 「待つ」 「励ます」っていう三つの要素になります。
プラスに期待している人には注目して、時間を与え励まします。
反対に、マイナスに期待している人にはだめだと思ってるので極端に言えば無視することさえあります。
チャンスも試行錯誤の機会も与えなくなってしまうんですね。
この三つの要素・・・「見る」「待つ」「励ます」という3つの要素が、先生と生徒とのコミュニケーションを通して伝達されいくことが分かりました。
「ピグマリオン効果」っていうのは、実はコミュニケーションのメッセージだったんですね。

 このことは、カウンセリングの世界でも、親子関係や子育ての中でも、そして、組織の中での新人を育てるときでも、同じことが言えるんじゃないかと思います。
例えば、カウンセリングにそのまま当てはめるとしたら、・・・カウンセラーがクライエントを、この人なら、いずれは自分自身の力で問題を解決していけるようになるだろうってプラスに期待するか、反対に、その人の能力や経験を否定的に見るかによって、知らず知らずに接し方が随分変わってきてしまうんです。

 実は、自分が成功するのと、人を育てるのとは、同じようなところがあるように思います。
それは、・・・現在を見るんじゃなくって、成長した将来を想像する・・・っていうことなんです。
誰でも現在は大したことが無い人だったとしても、将来は素晴らしい人になる可能性があるんですね。
自分が成長したければ、成長した自分のイメージを見るといいと言われていますが・・・同じように、相手を成長させたければ、成長した相手のイメージを見てあげることが大切なんです。
もし、「この絶対に伸びてゆきそうにない人を成長させるにはどうしたらいいだろうか・・」って悩んでいたら、・・・なかなかこの考え方では、人を育てるのは難しいんですね。
まずは、「この人たちは必ず伸びてゆくんだ」って信じて接してゆくことが、相手の力を引き出してゆく大きな原動力になるのだと思います。


≪3.プリセプティとの関係の持ち方:プリセプティ-が「弱音」を吐けるプリセプターとの関係を築こう≫

 次に、プリセプティとの関係の持ち方について、少し触れておきたいと思います。
やっぱり、プリセプターとしては、プリセプティが弱音を吐ける関係を築いていくことが大事なことと思います。
それじゃあ、どんな聴き方をすればいいんでしょうか。
ここには、ロジャーズという心理療法家の考えた、カウンセリングを行う時の3つの条件をあげてみました。
ロジャーズは、「来談者が自己成長能力を十分に持っている」って考えていて、ここにあげたような、「無条件の肯定的配慮」「共感的理解」「自己一致」の3つを、相手の話を聞く時の重要な要素としてあげています。
 先ほども少しお話しましたけれど、自分と相手はやっぱり別々の人間なので、完全に相手を理解するっていうことはやっぱり至難の業なんですね。
これはカウンセリングでも同じで、無理に理解しようとすると、相手を何とかして自分の枠におさめようとすることになってしまって、かえって相手を歪めてとらえてしまったりして、理解できなくなってしまいます。
ですので、完全には理解できなくてもいいので、それでも相手の話に誠意をもって耳を傾けて、相手の気持ちに沿おうとする気持ちで聴くことができるといいと思います。
そして、実感として伝わってきたことを「~ということですか」と丁寧に伝え返しながら話しを進めていくといいのではないかと思います。
こうした聞き方をしてもらうことで、話し手はずいぶん安心感を得られますし、お互いの信頼感も高まってゆくものなんですね。

***弱さを持った自分を語ることが、プリセプターを魅力的にみせる***
 それから、今、お話したみたいに、プリセプティが弱音を吐きやすい関係を築いてゆくためには、プリセプター自身も、ある程度、自分の弱さを見せゆくことが時には必要なんですね。
先輩であるプリセプターが、あまりにも「よい先輩」や「完璧な見本」であるといった面しか見せていないと、プリセプティの心境としては、やっぱり弱くてダメな自分を見せにくいですよね。
失敗もかくし通したくなってしまいます。
逆に、プリセプターが自分の過去の失敗談とか、自分の弱い部分も見せてると、プリセプティにとっては身近な存在に感じられますし、かえって魅力的な存在に思えるものなんですね。
そんなプリセプターに対しては、プリセプティも安心感をもって接することができますし、自分の悩みや困り事も相談しやすくなると思います。
 それから、一緒に指導をしていて、プリセプティの質問の答えがわからなかったりとか、自分自身にも自信がないことがあったりとか・・・そんな場面もあるかもしれません。
そんな時は、一緒に文献なんかを調べたり、後から追って調べた情報を提供すればいいわけで、プリセプターだからすべてを知っていなければならないというわけではないので、そんな時こそ、完璧ではないプリセプターの一面を見せて、お互いの距離を縮めるチャンスにしていけるといいんじゃないかなと思います。

***プリセプティーの居場所づくりをサポートしよう!***
 それから、産業組織心理学者のフェルドマン(Feldman, D.C.)という人は、「個人が組織の中でリアリティショックを乗り越えるためには2つのことが必要だ」と述べています。
1つは、「組織の中で自分の精神的な居場所をみつけられること」、つまり、「自分が組織に受け入れられていると確信できること」、そしてもう1つは、「組織の中で自分の仕事が役に立っていると実感できること」なんです。
 特に看護職の場合は、「まず自分の居場所を確保することがとても重要である」と、フェルドマンは指摘しています。
「自分が病院の一員として、あるいは病棟の一員として受け入れられている、自分がここにいてもいいんだ」っていうことを実感して初めて、技術や知識ということにエネルギーを注ぐことができるんですね。
逆に、自分の居場所をみつける前に「これは大事だから」って知識や技術をたくさん教えられても、プリセプティーにとっては地に足がつかない状態になってしまうんですね。

 それでは、プリセプティーが自分の居場所を確保するために、周囲にできることはどんなことがあるんでしょうか。
いくつかあげてみましたが、そんなに難しく考えなくっていいと思います。
例えば、プリセプティーに普段から頻繁に声かけするといったことでもいいんです。
プリセプターに限らず、周囲の職員が新人さんに、「最近どう?」とか、気軽に声をかけてあげるといいと思います。
人は何度も親しく声をかけられると、「自分っていう存在を受け入れてくれてる人がいる」って思えるようになります。あるいは、新人さんのそばに、ただ、いてあげるっていうだけでもいいと思います。
 それから、質問をしやすい雰囲気をつくるっていうことも大事です。
「プリセプティーがあまり質問してこないから、わかっているかどうか不安だわ・・・」といった気持ちになったことのある方はいらっしゃらないでしょうか。
医療現場に限らず、新人さんが先輩職員に質問をしない理由は、主に2つあると思います。
1つは、先輩たちが忙しそうにしているから質問できないっていうことがあるようです。
それから、もう1つは、質問した時に、「そんなことも知らないの?」とか「すぐに人に頼らないで自分で調べなさい」とかいったような反応をされやすいためとも言われています。
皆さんの中には、「人に聞く」イコール「自分で努力せずに何でも人に頼ろうとする」っていう見方が強い方はいらっしゃらないでしょうか。
確かに、人から聞いたことは自分で調べたことよりも忘れ易いために、同じことを何回も聞いてしまう・・・なんてこともあるかと思います。
でも、プリセプティーと最初の人間関係をつくり上げる時には、プリセプティーが質問したっていう事実を高く評価してあげる方が効果的なんですね。
例えば、「よく質問してくれたわね」って返してあげることで、プリセプティーは「先輩に質問してもいいんだ」って、とても安心することができます。
そして、両者の関係性がしっかりとできてきて、ある程度の時期が過ぎた時に、「それじゃ、あなたもそろそろ自立していかないといけないから、今回は自分で調べてみなさいね」って指導してゆけばいいのではないかと思います。

***1人で抱え込まずに、上司・同僚の支援を活用しよう!***
 それから、もう1点ですが、プリセプティーが失敗すると、まるで自分自身が叱られているような錯覚に陥ってしまうということはないでしょうか。
「全部、自分に責任がある」なんて思っていると、そんな気持ちにもなりやすいのではないかと思います。
でも、「プリセプティーの失敗」イコール「自分の力量不足」っていうわけではないんです。皆さんがどんなに素晴らしい指導をしても、プリセプティが失敗してしまうことだってあると思います。
失敗にはいろんな要因が絡んでいるものですから、全部がプリセプターの責任であるはずはないんですね。
でも、病棟メンバーの力をうまく活用できずにいて、1人で抱え込んでしまうなんてこともあるかもしれません。誰かの協力がほしいと思っていても、「自分でなんとかしなくちゃいけない」なんて責任を感じていると、精神的負担はどんどん大きくなってしまいます。
 そんなとき、是非思い出していただきたいのは、「スタッフは新人指導をあなた1人に任せたわけではない」っていうことです。
皆さんが新人指導をできるように他のスタッフもいるんですね。
どうか、1人で抱え込まずに、上司や同僚の支援を活用していただきたいと思います。
そして、誰かに協力を求める時には、「みんなが協力してくれないから指導がうまくいかない」っていったかんじの人のせいにしているとも受け取られかねないような言い方は避けて、「プリセプターとしてこんなふうに困っている状況があって、是非みんなの協力が必要なんです」っていう感じに、具体的な内容を伝えていった方がサポートは得られ易いと思います。

 上司や先輩たちっていうのは、多分、皆さんが悩んでいらっしゃる事柄を既に経験していると思います。
人を指導したり、育てるっていうことは、知識だけではうまくいかないことを、プリセプターである皆さんはこの数ヶ月で既に気づき始めていらっしゃることと思いますが、距離のとり方とか、時間のかけ方とか、反応の見方とか、興味の引き出し方とか、助け舟を出すタイミングなどなど、そんなあたりは、やっぱり既にプリセプターを経験してきた上司や先輩が生きたお手本になってくれるのではないかと思います。
 とにかく、自分1人でどうにも解決できないことをお1人で抱えこまないようにお願いしたいと思います。
たとえ相談したい相手がとっても忙しそうでも、「悩んでいることを相談したいので時間を少しもらえませんか」って、思い切ってもちかけてみていただきたいと思います。
多分、何とか時間をとってくれることと思います。
どんなことでいきづまっているのか、ご自分なりに整理して、具体的にしてから、相談してみることをオススメします。

 よく一般的に「同僚た上司のサポートが少ない」といった意見を聞きますが、実際、周囲の同僚や先輩や上司たちは、それぞれに多くの仕事を抱えていて、忙しくて、皆さんが期待しているようなサポートを待っているだけでは、得られにくいかもしれません。
ですから、自分のほうからサポートを求めるよう働きかけていくということが、時には必要になってくると思います。
 そんな時に必要になってくるのが、自己表現のスキルなんですね。
皆さんは、「アサーション」っていう言葉を聞いたことがあるでしょうか?
「アサーション」っていうのは、「自分の考えをへりくだりすぎず、攻撃的にもならずに、相手に伝える自己表現の能力」のことなんです。
私たちは、「こんなこと言ったり頼んだりしたら、相手がどう思うだろうか、嫌われたり、ダメなやつって思われたりしないだろうか・・・」とか、つい勝手にいろいろ想像してしまって、自分の言いたいことを言えなくなってしまったり、ということはないでしょうか。
相手がどう思うかとか、どう受け止めるかといったことは、相手の価値観や考え方次第、つまり、相手がどう思うかは相手側の問題だから、そこまで考えていてはらちがあかないんですね。
まずは、自分の言いたいことやお願いしたいことを、相手がどう思うかを考えすぎずに、とにかく表現してみる、伝えてみるっていうことが、とても大切なんですね。
 アサーティヴな自己表現ができるようになるためには、そんなふうな考え方の部分が大きく関わってきます。
今日、ここでは、アサーションについてもっと詳しくお伝えする時間はないんですけど、・・・普通の本屋さんなんかの心理学書のコーナーに行くと、『アサーショントレーニング』とか『アサーティヴな自己表現』とかいった本がいろいろ売られてますし、最近では『ナースのためのアサーション』といった本なんかも出てますので、是非、のぞいてみていただければと思います。   


≪4.人を育てるために必要な三つの愛情≫

 さて、以上でだいたい、今日お話したかったことはお伝えしたんですが、・・・最後にまとめとして、人を育てるために必要な愛情について、3つほどあげさせていただきました。
 まず、「受け入れる愛情」・・・これは、ちょうど、母親が産まれたての赤ちゃんを受け入れるように、相手を全面的に受け入れることをさします。
このプロセスを経験した人は、基本的に他者を信頼できるようになるんですね。
そのため、この愛情は、「人を信じる心の育成」に通じるものとされています。
 次に、「厳しさの愛情」です。
これは、時に、心を鬼にして、教えることも必要な場合もあるということを示します。
でも、まだ、この時点では、相手はあなたの保護の中にいます。
この愛情は、「基本能力の育成」に通じるものとされています。
 そして、最後に、「見守る愛情」です。
成長に伴って、徐々に本人に任せるプロセスが必要となってきます。
時には、本人は苦しみますし、見守っている皆さんはイライラするかもしれません。
でも、手を出さずに見守ってゆく。
ですので、この愛情は「自立の育成」に通じるものなんですね。
もちろん、手を出さずに見守ると言っても、こうした医療の現場では、危険を未然に防ぐために、先輩職員が介入しなければならない場面もあるかと思いますが・・・そのあたりは柔軟に考えていただければと思います。
 ともかくも、ここに挙げさせていただいたものは、子育てにおいても、学校教育においても、そして、皆さんのような職場における新人の育成においても、普遍的に通じる部分をもっていると思います。
そして、これらの「受け入れる愛情」と「厳しさの愛情」と「見守る愛情」とは、この順番が大切なんですね。
この順番が狂ってしまうと、逆効果になってしまいます。
そして、こうした3つの愛情をもちながら、プリセプティを育ててゆくためには、育てる側の自己成長が欠かせないと思います。

 「教育」イコール「共育」・・・つまり、教育は「共に育つ」共育ともいえるかと思います。
人を育てるということは、自分を育てるということでもあるのではないかと思います。
ですから、見方を変えれば、プリセプターになった皆さんは、大変だけど、その分、自己成長のチャンスをもらったとも言えるんじゃないでしょうか。


 それでは、私の方からのお話はこれにて終わらせていただきたいと思います。
ご静聴、どうもありがとうございました。

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