緑色の血液
私が購読している雑誌の「こぼれ話」的欄に緑色血液のトカゲの話が載っていた。そこで動物の血液の色についてまとめてみた。動物の血液は何色をしているだろうか?我々同様ほとんどの動物は赤い血液を持っているが、タコやイカは薄い青色である。人間の血液は赤い色をした赤血球というタンパク質と無色の血清タンパク質からできている。赤血球の中心にはへムと呼ばれる中心に鉄イオンを結合した分子が存在し、この鉄イオンに酸素がくっついたり離れたりして酸素を筋肉や内臓に運搬している。ヘム鉄分子の場合酸素がついていても離れていても濃淡の差はあるがいずれも赤い色をしている。一方タコやイカの血液は赤血球ではなく、へモシアニンと言うタンパク質に銅イオンが包み込まれており、ヘムのように色素分子を含んでいない。この銅イオンが酸素の運搬体で酸素を結合した状態は青色で、遊離した状態では無色である。シアンと言う語は青色を表す語で、シアンと言う名前が付いているからと言って猛毒・青酸とは関係がない。 ヘム鉄 へモシアニン(へモシアニンの図で緑や茶色の棒や針金はたんぱく質を模式化したものであり、中心に銅イオン Cuが含まれていることを示している。ヘモグロビンもタンパク質にヘム鉄が囲まれている)もう一つはホヤの血液で酸素を運ぶ中心はバナジウムを含み、ヘモバナジンとも言われているが、殆ど無色に近い。これで動物の酸素運搬体として赤い赤血球、青いへモシアニン、無色に近い緑のヘモバナジンと総括したが、本ブログの主題は緑色の血液である。多くのトカゲは赤い血を持つが、ニューギニア地方には現在までに7種の緑色の血液を持つトカゲが発見されているそうだ。ルイジアナ大学のAustin博士は爬虫類の専門家でもう何十年も前から緑の血を持つトカゲの研究をしており、両方を食べ比べても見たが味は変わらなかったそうだ。Austin博士の研究から緑血のトカゲも赤い血液を持っているがビルベルジンと言う緑色の色素を大量に含んでおり赤い色を覆って緑色の血液に見えるのだそうだ。* このビルべりジン分子の構造を見ると赤い血のヘム分子の構造に酷似しており、ヘムの分解物であるか、あるいはヘムの前駆体であることは確かだろう。ビルべりジンは人間には猛毒でごく少量で黄疸を発症することだ。新生児では肝臓の解毒作用がまだ不備でしばしば黄疸にかかるが、病院では新生児室で光に充てて治す。人間の場合ヘムは分解してビリルビンになり黄疸を発病するが光を当てると赤い印の二重結合が180度回転して異性化すると毒性がなくなる。 話を緑色の血液に戻そう。トカゲにとってビルべルジンは毒ではなくてむしろ味方なのだそうだ。最近分かったことはビリべルジンを血中に持っているとマラリアにかからないのだそうだ。トカゲは熱帯で生き抜くためにこれでマラリア耐性を獲得したと言うのが先のAustin 博士の意見だ。今回は緑の血を持つ動物の見出し記事を見つけて色めき立ったが、赤い血の分解物(あるいは前駆体)の色が赤を抑えての緑と分かりちょっとがっかりであった。* ( Sci. Adv. 2018, DOI: 10.1126/sciadv.aao5017; Chem. Engn. News, 2018, 6, 11)