日英行政官日記 (旧 英国日記帳)

2012/07/24(火)23:22

政策懇談会(「放課後」NPOについて)

私的に主宰する勉強会「政策懇談会」を開催。 今回は、特別ゲストとして、特定非営利活動法人「放課後NPOアフタースクール」代表理事の平岩国泰氏をお招きし、その活動内容についてお話をいただくとともに、ディスカッションを行いました。 <プレゼンの概要>(文責・高田) 「放課後NPOアフタースクール」の詳細については下記参照。 http://www.npoafterschool.org/ ・「放課後NPOアフタースクール」は、放課後の子ども達を対象に、学校で各種のプログラムを提供する活動を行っている。 ・アメリカのアフタースクールがモデル。アメリカでは、多様なプログラムが提供されている、スタッフは有償が中心でよくトレーニングされている、子どもが帰った後は大人が学び、学校が一つのコミュニティ拠点になっている、といった特徴。 ・活動を始めたきっかけは、自分も子どもを持ち、子どもの安全を守りたいと考えたこと。 ・以前勤めていた会社では人事部だったので、面接を多くしたが、元気のない学生が多くなってきているとの印象。 ・昔と違い、今の子どもたちは家で遊ぶ。自然発生的に遊びに行くということがなく、遊びに行くにも常に約束していく。 ・こうした子ども達に、放課後、安全で、多様な体験のできる場を提供するため、2005年から「放課後プログラム」を開催。 ・放課後プログラムでは、大人が「市民先生」として、本物の知識・体験を子どもたちに伝えることが基本的なコンセプト。 ・例えば先日は、本物の弁護士の方に来てもらい、模擬裁判をやった。判決は予め定められていない。こうした、予定調和でない、「正解のない」問題を考えてもらうことが大切。 ・最初、学校でこうした活動をやらせてもらうのは大変だった。厚労省の所管する学童保育や、文科省の所管する放課後子ども教室など、既存の活動をしている人たちとの調整も必要。ただし、学校にいったん入れると、横の展開は速い。 ・子どもだけでなく、保護者や市民先生を務めた大人からも好評を博している。「いてくれて良かった」から、「いなくなると困る」という声を受けるようになってきた。組織として安定的にやっていくために、法人化することとした。 ・「街の大人」が「街の子ども」に教えるのが最初のコンセプトだが、それを超えて、一流のプロを呼ぶこともある。また、留学生の子ども達を呼ぶこともあり、その子達との交流を通じて、子ども達の目が海外に開かれる。 ・企業との取組も重要。企業にとっても学校にとっても、NPOを間に通すことでやりやすい面がある。 ・私立校ではアフタースクールが一種のブームとなっている。利用料負担が大きいという問題はあるが、アメリカと同じように、プログラムの種類が多いこと、学校の先生とアフタースクールが連携していること、建学の理念が色濃く反映されていること、といった特徴がある。アメリカをモデルとした、本当にやりたいアフタースクールの姿が、私立校で先行している形となっており、これを今後、公立校にどのように展開できるかが課題。 ・プログラムの構築については、行政とのパートナーシップも重要。アメリカでも、8割は行政によりファンディングされている。 ・日本でも、行政による取組として、学童保育や放課後子どもプランが行われている。しかし、厚労省が所管する学童保育は学校の外に限り、学校の中は文科省が所管する放課後子ども教室といった具合に、縦割りとなっているのが課題。 ・アメリカでは、なぜNPOがやるのか。行政や企業がやると、やってくれて当たり前、と関係者が思いがちになるが、NPOだと、周りから手を貸してくれる人が多い。人々の連携・協働が重要な分野であるからこそ、NPOは担い手としてふさわしい。 <ディスカッションの概要> ・現在のNPOの収入構成はどのような感じか。運営上の課題は。 ・収入源は大きく言って、行政の委託が40%、私立校の委託が25%、企業が20%、寄付が15%ぐらいの割合。認定NPO法人になるには、パブリック・サポート・テストという基準がある。これは、寄付による収入が全体の20%以上というものだったが、通常は数%程度であり、極めて高いハードルだった。これが最近緩和され、絶対基準として、3000円以上の寄付者が100人でよいことになったが、これをクリアするためにも、相当頑張る必要がある。 ・寄付集まりにくい理由として、日本には寄付文化がない、といったことがよく言われるが、NPOの側にも課題がある。アメリカのNPOは、寄付集めに関するマーケティング努力がすごい。寄付がどのような効果に結びついているかもしっかりと説明する。日本のNPOでは、トップ自身が直接、NPOの事業活動に携わることが多いが、アメリカのNPOでは、トップは活動よりもファンドレイジングが主な仕事。 ・NPOが増えていくには時間もかかるため、当面は行政がカバーしていくしかないが、行政にはどのような課題があるか。どう変わっていくべきか。 ・行政によるサービスとして、厚労省の学童保育と、文科省の放課後子ども教室がある。学童保育は、子どもを持つお母さん達が自分でやってきたという側面が強く、助成金もそれほど多くない。放課後子ども教室は、退職教員が勉強を教えるなど、学校を使って行うのが特徴。両者にお金の流れが分かれており、額も少ないのが課題。保育園を新しく作るとお金がかかるし、いずれは余ることも考えられるが、アフタースクールは、学校のような既存の施設を活用すれば、それほどお金はかからない。 ・現場の今のプレイヤーが変われるかどうかが鍵。アメリカは、今は「放課後先進国」となっているが、少し前までは何もなかったのではないか。日本は昔から、寺子屋、長屋の文化があり、本来、市民性は高いと考えられる。 ・成果の評価の方法は? ・正確に成果を評価するには、子ども1人1人のその後をトレースしなければならず、なかなか難しい。 ・今後どう全国に展開させるのか。 ・お金をどう回していくかが課題。私学なら利用者負担という考え方もあるが、公立ではどうするか。 ・子ども達について、先進国の中でも日本がとりわけこういう状態なのはなぜか。 ・受験率が高いこと等により、子供の過ごし方が制限されているのが一因ではないか。子どもを増やさない理由として、日本と韓国ではお金がないことが一位に来る。 ・子どもへの社会的資源の振り向け方を見直すべきではないか。 ・塾や習い事に行ける子とそうでない子で格差が生まれてしまっている。放課後の学校において、普段塾や習い事に行けない子どもにも、様々な体験に参加できるチャンスがあるというのはよいこと。そういう活動への支援、働くお母さんへの支援を増やすために、高齢者へ向けている予算をもう少し子どもの方へ回してもよいのではないか。 ・小学生低学年向けと高学年向けでプログラムを分けたりしているのか。 ・低学年向けと高学年向けでと分けてはいないが、子どもに任せると、それなりに高学年の子が低学年の子の面倒を見たりして、一体になる。もっとも、そもそも高学年の子はあまり参加しないという問題がある。 ・週5日間プログラムを提供するとのことだが、たまには何もせず放り出す日も必要ではないか。 ・プログラムがかえって子どもの主体性をなくすようなことになってはいけないと考えている。参加はあくまで自由とし、プログラムを子どもが自分で選ぶようにしたい。 ・貧困対策、学力対策という位置づけのように見られると、地域の人は嫌がるのではないか。 ・貧困対策ということではなく、今は世田谷区や私学を対象に行っているが、そこでも困っている子はおり、ニーズはある。ただ、全体として予算が足りないため、貧困対策や不登校対策の予算も持ってこられるようにすることが望ましい。 ・学校の教員との連携における課題はなにか。 ・教員は、放課後は自分の時間と思っていない人が多く、学校としては子どもに早く帰ってもらいたいのが基本。しかし、ある私学では放課後に自主参加で授業を行っている。放課後ということで自由な授業ができるため、先生にも生き甲斐になっている。 ・全国展開に行政を使っていくとすると、どういう行政機関を活用することが考えられるか。NPO同士の連携は考えられるか。 ・行政機関としては、市区町村が基本。NPO同士の連携も考えられる。各NPOは、少しずつ違った切り口を持っている。コーディネーターとして、色々な力を集める方向へ進んでいきたい。 ・子どもが「お客様」にならないように心がけているとのことだが、具体的にどういう工夫をしているか。 ・何をやってもいい時間を作り、子どもに選択をさせることが重要。 ・子どもに身につけさせるスキルの目標、ビジョンはあるか? ・レギュラープログラムを作ろうと考えている。アメリカのアフタースクールでは、アカデミック、ソーシャル、エモーショナルの3つのスキルを目指している。学力の向上のほか、頑張る楽しさ、自己肯定感が重要。それをどう効果として示すかが次の課題。 ・企業との連携は、場合によっては単なる企業の広告になってしまうおそれはないか。長期的な連携はできるか? ・放課後プログラムはそれほど参加人数が多いわけではないので、企業の人が宣伝に使おうという発想で近づいてくることはあまりない。全国展開をしているわけではないので、企業のCSRとして活用してもらうところまでは行きにくいが、創業何十周年記念事業など、特別なイベントとして活用してもらえる場合は多い。 ・日本の社会起業家の実情はどうか。 ・皆、同じような不安を抱えている。学生から、大企業に就職するか社会起業家になるか相談されたとき、今は大企業を進めている。社会起業家には、企業以上のビジネススキルが求められる。大企業で鍛えられた人が社会起業家に転じることはできるが、その逆は難しい。 ・委託側である保護者や行政から、ネガティブな意見が寄せられることはあるか。 ・ビジネスである以上、「クライアント」の満足が重要だが、行政の職員には、NPOの役割について十分理解してもらえない場合もある。職員が自らの区について愛着を持っている場合はうまくいきやすい。保護者からのクレームはそれほどないが、子どもが怪我したときなどは怒られることもある。ただし、怪我を恐れすぎて過保護になってもいけないので、バランスが重要。 ・学校では放課後にクラブ活動があったが、クラブ活動は先生にボランティアを強いていた面もある。クラブの顧問の先生と協力してやっていくことは考えられないか。 ・前向きな学校だと、そういう話が進みやすい。しかし、義務だと思ってやっている先生もいて、意識に差がある。 ・日本のNPOのトップは自ら活動に力いれるのに対し、アメリカでは活動はスタッフに委任されているとのことだが、スタッフ育成はどのように進めるのか。 ・育成プログラムはアメリカを参考に作っているが、アメリカでは二十代の人たちが多いのに対し、日本ではそうした就職環境がなく、主に学生や主婦をリクルートすることになる。スタッフが自律的にプログラムをできるようになるかが一つの鍵。 ・NPOの意義をアピールするにあたって、どういうプレゼンが心を打つか? ・シニア世代へのアプローチは有効ではないか。リタイアした団塊の世代の人々に、様々な経験や人脈を活かしてもらうことも考えられる。 ・活動の効果の測定が重要。 ・既存の行政によるサービスとどう違うのか、差別化を図ることが有効。 ・実際に子どもが変わっていく姿を具体例として見せるべき。

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