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日本人の死亡原因のトップを占めるがん。昭和56年に死因の第1位に踊り出て以来、それまでトップだった脳血管疾患が減少傾向にあるのと対照的に増加を続けている。「対がん10カ年戦略」など国の本格的な取り組みもあって、治療成績も次第に向上しているものの、4人に1人以上ががんで死亡しているのも事実だ。対がん10カ年戦略が終わったのを受けて、今年度から「がん克服新10カ年戦略」がスタートすることとなった。がんの治療法や診断法、そして予防の研究はどこまで進んでいるのかを探ってみた。
▽増加し続ける死亡者数 厚生省の人口動態統計を見ると、がんによる死亡者数が増えているのがよく分かる。平成4年の死因別死亡者数は、がんが23万1,700人余り(人口10万人当たりの死亡率187.7)で最も多く、続いて心臓病が約17万5,300人(同142.0)、脳血管疾患が約11万7,900人(同95.5)の順番になっている。平成4年1年間の全死亡者数はざっと85万5,000人だったので、27%ががんで亡くなった勘定だ。がんによる死亡者の割合は、昭和10年にはわずか4.3%、30年には11.2%、40年には15.2%だったことを考えると、いかにがんによる死亡者数が増えているかが分かる。 臓器別の死亡者数で見てみよう。平成4年のデータだと、男性では胃がんの3万485人が最も多く、続いて肺がんの29,208人、肝臓がんの19,555人、大腸がんの14,867人の順番だ。一方、女性では胃がんが17,526人と一番多く、次いで大腸がんの12,408人、肺がんの10,938人と続いている。 このうち、男性では肺がん、肝臓がん、大腸がんが増加しているのに対し、胃がんは減少している。厚生省統計情報部によると、平成5年1~8月には、肺がんの死亡者数が胃がんの死亡者数を上回り、年間を通じても、肺がんが上回る可能性が高くなっている。女性ではやはり大腸がん、肺がんが増えているのに対して、胃がんや子宮がんは減少か、横ばい傾向が続いている。 増加しているがんについて、その理由を探ってみよう。増加の著しい肺がんのケースは、喫煙が挙げられる。「喫煙開始から肺がんになるまで、22~23年かかるので、昭和50年代に最高に達した喫煙率の影響が、今後も当分残る」と指摘する研究者もいる。 大腸がんの増加は脂肪摂取量の増加や運動不足、さらには食物繊維の摂取量の不足-などが理由だ。一方、胃がんの減少は、発症に関係するとされる食塩の摂取量が減ったうえ、集団検診が進んで早期発見が可能となり、治療成績が向上したことが大きく寄与しているといわれている。 ▽治療成績アップに欠かせない早期発見 がんの治療成績を上げるためには、早期発見がなによりも欠かせない。早期発見できるようになったがんは、胃がんだけでなく、子宮頸がん、乳がん、大腸がんなどがある。平成4年から大腸がんが集団検診の対象になり、これで老人保健法対象のがん検診は、胃がんと子宮がん、乳がん、肺がんの計5つ。これらのがんのほとんどは、早期に発見できれば100%近く治る。治療の難しいとされる肺がんでさえ、早期に発見できれば90%以上治る(加藤治文東京医大教授)という。 早期発見に必要不可欠なのが画像診断。目覚ましい進歩を遂げ、この10年の間に超音波診断が臨床の現場で日常的に使われるようになり、メーカーの推計では現在、エックス線CT(断層診断装置)が約1万台、MRI(核磁気共鳴診断装置)はざっと1,700台に達し、がんなどの画像診断に威力を発揮している。 この2、3年の間に急に普及した装置が「らせん走査型CT」である。従来のCTは患者のからだを一定の間隔で不連続に断層撮影していたのに対し、らせん走査型CTは、寝台の上の患者を一定のスピードで移動させ、その間らせん状に連続してCT撮影する。そうすると連続した画像が得られるので、間隔の間に入って、見逃す危険性の大きかった小さながんも見つかる。このCTを使って肺がんの診断を続けている国立がんセンター東病院の大松広伸医師(呼吸内科)は「5ミリのがんも見逃さない」と強調する。しかもコンピューター処理すれば、立体画像もお手のもので、がんの診断に最適と注目を集めている。 治療法はどうか。「治し方が問われるようになってきている。つまり、せっかく早期に発見しながら胃の3分の2を切除してしまっては、からだへの影響が大き過ぎる」と国立がんセンターの垣添忠生中央病院長。 それから診断の方法が非常に精密になって、治療計画が厳密に立てられるようになってきた。また、腫瘍マーカーの検査が使えるようになって、マーカー検査と画像診断で、詳しく患者の状態が把握できるようになった。 「化学療法、抗がん剤治療と手術をうまく組み合わせて、進行したがんが治せるようになってきた。早期がんに関しては、むしろ治るのが当然で、進行したがんでも抗がん剤が効くがんの場合には、昔は2、3カ月で亡くなるような、それほど進んだ病気の患者も、100%と言えないが、少なくとも治せるがんが大分出てきている」 ▽期待集める遺伝子診断 診断、治療で見逃せないのは、いくつかの分野の技術を結集して成果を上げていく「集学的な手法」が定着しつつあることだろう。診断に関しては、例えば内視鏡に超音波診断装置を組み合わせて、内視鏡で内側の気管の中を観察した後、スイッチ操作一つで、今度は気管の壁の中にがんがどれぐらい浸潤しているか-など診断できる装置も登場している。 気管だけでなく胃や十二指腸といった上部消化器官や、直腸や結腸など下部消化器官に対しても、内視鏡検査と超音波検査がワンタッチで両方いっぺんにやれる。内側から調べるので、診断の精度がぐんと高まる。 治療の方も、抗がん剤と手術、温熱療法、放射線治療、あるいは化学療法と手術、放射線治療の組み合わせなど治療成績を上げるためさまざまな試みが続けられている。 一方、早期に診断することが難しいがんがある。いわゆる難治がんである。肺がんや肝臓がん、膵臓がん、胆のう・胆道がんなどがそれに当たる。これらのがんが難治がんといわれている理由は、もともとがんの性質として早い時期から浸潤転移が相当あるうえ、早期診断が非常に難しかったことによる。その筆頭が膵臓がんだろう。からだの深い場所にあって症状が出ない。CTとかMRIとか超音波を使ってもなかなか診断ができないケースも多い。 なんとか早期診断ができないか、そこで期待を集めているのが遺伝子診断だ。 がんというのは遺伝子の異常で起こる病気で、遺伝子が何回もの変化で、やがて発現する慢性病である。これを利用しようというのが遺伝子診断だ。 現に幾つかのものは使われており、膵臓がんの場合は、「k-ras」というがん遺伝子に90%以上突然変異が起きているという具合に、特異性が高い。そこで、膵液を取り、膵液の中に少し混じっている細胞から遺伝子をPCR法という特殊な方法で増幅させて、k-rasに突然変異があるかどうかを調べるのだ。それで、早期の膵臓がんを見つけたという報告もある。 乳がんでは「c-erb-2」というがん遺伝子のたんぱくを染めて、予後のよい乳がんと予後の悪い乳がんを選別して、予後のよいがんだったら手術だけ、予後の悪いがんだったら、その後に化学療法など補助療法を加えるということが既に行われている。 「これからがんごとに遺伝子診断がどんどん実用化されていきそう」。垣添病院長は推測する。 ▽お茶の成分に熱いまなざし がんが予防できたら…。平成5年8月までがんセンター研究所のがん予防研究部長を勤めた藤木博太・埼玉県立がんセンター副所長が熱いまなざしを注いでいるのが、緑茶に含まれるエピキロカテキンガーレート(EGCG)という物質。EGCGを0.005五%を含む飲料水をマウスに与えたところ、がんの発生率が3分の1以下になったというのだ。 「EGCGはお茶に含まれるタンニンの成分で、お茶1杯に100ミリグラムが含まれており、マウスの飲んだ量は人間ではお茶10杯に相当する」 こう解説する藤木副所長のグループが、EGCGの研究に取り組んで10年近くなる。この間にさまざまなグループの研究で、皮膚がんや胃がん、大腸がん、肝臓がん、肺がんなどの発がんが抑制される事実が明らかにされている。EGCGには、発がん物質から細胞を守る作用があると推定されており、同じようにたばこを喫っていても日本に肺がんが外国より少ないのは、お茶を飲んでいるためではないかというのが藤木副所長の推理である。性格と病気の間には関係があるので、がんも予防できるようになるかもしれない、と研究を進めているのは東北大医療技術短大部の細川徹助教授のグループ。せかせか、せっかち、頑張り屋のA型人間は心筋梗塞になりやすいとされているが、がんになりやすいC型人間という分類もある。C型人間は、感情の抑制が利いて、我慢強く、物事を合理的に考える傾向を持つ。「こうした人は協調性があり、自己主張しないので他人からはよい人に見える。半面ストレスを受けると、発散できないでうつ状態になりがちで、ストレス管理のうまくない人でもある。それが生体防御反応や免疫力を弱めている可能性がある」と細川助教授。 宮城県対がん協会などが協力して実施した約5万人にも上る大規模アンケート調査を分析したところ、C型人間と判定されたのは3,033人で、かつて胃がんや乳がんなどと診断されたことのある人が、C型人間では1.9%含まれていたのに対し、そうでないグループは1.1%と、C型人間の方ががんと判定される割合が高かったという。 この結果から直ちにC型人間にがんが多いと断定できないが、自分がC型人間と分かれば、心構えや生活習慣を変えてがんを予防できるかもしれない。グループは追跡調査をして調べることにしている。 ▽がん克服新10カ年戦略スタート 対がん10カ年戦略がスタートしたのが昭和58年。この10年で◎がんは複数の遺伝子の変異が積み重なって起こる慢性病◎がん遺伝子やがん抑制遺伝子など、がんにかかわる多くの遺伝子が見つかった◎環境中の発がん物質の発見や、がんに関与するウイルスの存在が明らかになった-などの成果が上がっている。 今年度からスタートする「がん克服新10カ年戦略」では、従来の基礎研究の充実と併せて、その成果の臨床への応用を目指すとともに、国立がんセンターを中核としたがん診療情報ネットワークを整備して、がんの研究や診療に関する情報交換を行っていくことになっている。それにかける研究者の期待は大きい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005.09.17 23:35:31
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