『衛府の七忍』8巻感想~桃太郎卿の戦いっぷり
沖田総司が江戸時代初期にタイムスリップする沖田編もいよいよ大詰めの8巻である。衛府の七忍 8【電子書籍】[ 山口貴由 ]前巻の復習だけど,タイムスリップした沖田総司は色々あって,町道場の世話になっていた。ところが,そこの一人娘が鬼に殺されたということもあり,沖田は柳生宗矩に協力し,鬼退治をすることになったのだ。前巻の終わり具合から,柳生宗矩と沖田総司がそれぞれ鬼と戦う感じだろう・・・と思っていた。実際,柳生宗矩も具足を身にまとい,戦うのだ。新影流の極意「兜割」なんて,そんなもん見世物のための技で実戦では使わないよ,という回想から鬼退治用の技だったとか,こういう展開は熱いと思う。ただ,そんな渾身の兜割でも死なない鬼に,宗矩が自爆攻撃を仕掛けようとするところに桃太郎卿が登場するわけだ。神州無敵だとかなんとか物語初期から言われていた桃太郎卿である。宗矩も,「娘を献上してもかまわぬ! いや,わしを捧げてもよい!」とかホモくさいことまで考えてしまっている。(8巻電子版28頁。神州無敵のたたずまい)なお,演出を見ると宗矩は桃太郎卿の顔を知らなかったようだが,桃の鉢巻きに平安風の鎧なんて,こんなわかりやすい格好をしているとそりゃ桃太郎だよという感じになるよね。なお,そんな桃太郎卿の戦いっぷりだけど,けっこうエグい。火薬を詰めた子犬を投擲してみたり,力尽くで鬼の体を引き裂いたりする。(8巻電子版78頁。安泰じゃ)口癖は「安泰じゃ」であるっぽく,常人ならば死ぬレベルの攻撃を何度も受けつつも「安泰じゃ」とノーダメージをアピールしてくるんだけど,おかしくはないですかね・・・。よく見たら,犬,猿,雉の化身鳥獣を呼び寄せて攻撃させているものの,自身の刀は抜かずに終わらせている。そんな桃太郎卿の戦い方は規格外ではあるのだけど,個人的に衝撃を受けたのは桃太郎卿が首と顎での白羽取りをするシーン。(8巻電子版40頁。押すか引くかしなければ切れぬ。安泰じゃ)これ,『悟空道』の主人公,孫悟空の魔技・真王首にそっくりだ。これは,悟空が「息を止めて力を入れると首が鋼鉄より硬くなって刃物の方を折ってしまう」って技で原理はずいぶん違うんだけどね。僕は,『悟空道』が大好きなのだけど,あんまり最近は出てきてなかったからそこは嬉しい。一方で,沖田総司の方は谷衛成との激闘の末勝利。実際は色々あるのだけれど,桃太郎の方がインパクトあったかな。で,柳生宗矩から四百石で江戸市中の警護の仕事を依頼されたものの,沖田総司はこれを拒否して逐電。これにて沖田編は終了となった。新撰組という幕府側の人間だったはずなのに,なんで沖田は宗矩の誘いを拒否したのだろうか。これはよく分からない。旗本奴を率いての仕事が気にくわなかったということなのか,鬼の方にも人情があることが分かったからなのか。これまでの主人公たちと異なり,幕府側だった沖田がこれからどうなるのか,気になるところだ。あと,前巻の感想で,「いか娘は死んでないんじゃない?」と書いたけど,何のフォローもないので本当に死んでいるっぽい。悲しい。そして,波裸羅を主人公とした短編のあと,次の話として黒須京馬を主人公とした新しい話が始まった。黒須京馬はこれまでの山口貴由作品でもたびたび,文字通りクロシオーバーして登場するキャラクターではあるのだけど,今度は真田十勇士に育てられた忍者として登場した。沖田総司と違って,明確に豊臣側なので,先は読みやすそうである。ところで,いつになったらこの物語は収束に向かうのだろう。零鬼編,震鬼編,雪鬼編,霞鬼編,霹鬼編,武蔵・雹鬼編,霧鬼編,沖田・霓鬼編と,これまで8つの話があり,8人の主人公がいた。このうち武蔵と沖田の者は怨身忍者になっている。ここに黒須京馬の雷鬼編が始まると,9人の主人公がいることになる。キリよくもう1人くらい入れて,10人の主人公で家康と戦うのだろうか?・9巻感想(2020/6/23)衛府の七忍 8【電子書籍】[ 山口貴由 ]