『衛府の七忍』10巻感想~最終回後,桃太郎卿との対決はあったのか?
ついに『衛府の七忍』が10巻で完結,最終回を迎えた。個人的に満足できるないようではなかったかが,感想など書いていきたい。それから,雑誌チャンピオンRED4月号に掲載されていた付録冊子の話もしていきたい。衛府の七忍 10【電子書籍】[ 山口貴由 ]まず,10巻の内容であるが,箇条書きするとこんな感じ。・徳川家康は老衰で死亡・カクゴと伊織は家康の死で目的を失い,安住の地,トコヨノクニを目指す。・伊織,浦島太郎に誘拐される。・カクゴ,タケルと動地憐と合流し,浦島太郎を3対1でタコ殴りにする。・カクゴら怨身忍者たちは日本を捨てて海上で生活するようになる。・秀忠,日本を離れたカクゴたちを無視することにするものの,桃太郎卿が攻め入ろうと進言(完結)完結の仕方だけ語ってもいいのだが,事実上のラスボスになってしまった浦島太郎について語らないわけにはいかないので,それを簡単に語った上,中途半端な完結について語ろう。まず,本作では竜宮城は巨大な遊郭になっている。浦島太郎は乙姫の恋人的な立ち位置で,竜宮城の経営者的な感じ。(10巻電子版164頁,浦島太郎さんの自己紹介)この浦島太郎の戦績を見ると,こうだ。・vs六花氷鬼・吹雪を耐えた上,銃で六花の頭を吹っ飛ばす。ただしとどめは刺さなかった。・vsカクゴ・タケル・動地憐3対1で戦っており,袋だたきにされる。流れを見るとタイマンなら怨身忍者にも勝てそう。戦績を見ると,決して弱くはない。ただ,微妙ではある。最終的に,怨身忍者3人は浦島太郎を集団で袋だたきにされているところを見かねたツムグに,「お前ら,人間みたいだったぞ!」と怒られて対戦は終了した。(10巻電子版191頁,「人間みたい」が罵倒になる世界観よ)そして,別ルートで遊郭に潜入していた黒須京馬とも合流し,散以外の6人の怨身忍者は日本を出て,元は巨大遊郭船だった竜宮城を拠点に生活することになる。で,日本を出て海の上で活動するのならば無視しようとする将軍秀忠に対し,桃太郎卿と金太郎が攻め入ろうと進言するところで本作は完結。なんとも微妙な終わり方だ。これから,怨身忍者たちと衛府の戦いが始まらんとするところで完結なんだもの。僕はこの物語について,こんな予想をしていた。「第1話,零鬼編が元和元年9月の出来事だ。ラスボスの徳川家康は,歴史的には元名2年4月に死亡するのだから,たぶんこの家康の死をカクゴたちの功績にするだろう。桃太郎卿を含む中ボスにも見せ場が欲しいから,中ボスに怨身忍者を3~4人倒されてしまうだろう。最後に怨身忍者が2~3人が命を捨てて,家康を討ち取って終わりだろう」いや,もう全然予想ははずれましたね・・・。このラストを一言で表現するなら,典型的な「俺たちの戦いはこれかも続くぜ!」という打ち切りラストだ。残念でならない。説明不足も目立つ。秀忠が「父家康との約定通り,鬼どもは本土を離れたようだな」というんだけど,そんなシーンあったかな? (10巻電子版224頁,そんな約定あったけ・・・?)死に際の家康と散が会談してるシーンはあったけれど,散に怨身忍者を代表して何か言う権限があったとは思えない。同様に,死んだはずの銀狐が唐突に竜宮の秘薬で生き返ったり,武蔵や沖田総司といった魔剣豪枠がいったい何だったのかも不明である。打ち切りにも色々理由があるだろうが,『衛府の七忍』の人気がなかったとは思えない。連載終了は2021年1月号だが,単行本の発売と同時期に発売された2021年4月号には得点の小冊子がついている。(僕はこの付録目当てに本誌を買ったぞ)この小冊子が30頁で全ページカラーという大盤振る舞いである。雑誌の方もかなり優遇してくれていることが分る。こちらでは鬼哭隊の入隊試験ということで,武蔵と沖田総司の試合模様が描かれている。ここにも説明不足はあって,武蔵が鬼哭隊に入ることになった経緯も不明ながら許せるとして,桃太郎卿のスカウトを断って逐電した沖田総司についてはしっかりした説明が必要だろう。なお,この小冊子に山口貴由先生の後書きが載っており,こう書かれている。改行もそのまま一部を引用する。鬼となった化外者と,吉備津彦命率いる魔剣士,どちらか一方が息絶えるような闘いにならなかったことに後悔はありません。まるろわぬ民が望むものは,安全な棲み家,これに尽きるでしょう。(チャンピオンRED,2021年4月号付録冊子)」この文面を読む限り,中途半端な最終回の後,桃太郎卿こと吉備津彦命と怨身忍者が戦うことはなかったようだ。秀忠は本土に来ない限り怨身忍者を無視するし,怨身忍者もまた衛府と敵対しない。もしかすると,桃太郎卿を強くしすぎて怨身忍者と戦わせられなくなったのではなかろうか,そう思ってしまう。個人的には,怨身忍者には家康の首くらいは取って欲しかった。正直言って,本作の問題点はクロスオーバーをしたところにあるのではなかろうか。カクゴはもちろん,『覚悟のススメ』の主人公から来ているし,怨身忍者はたいてい他の作品の重要人物だったりする。これが料理の世界では食前酒だったり,刺身のツマだったり,箸休めだったり,メインを引き立てるものがあったりするものだ。本作はメインの料理がどんどんテーブルに並べられ,そのメイン料理どうしが互いの長所を活かせていたのか疑問はある。ぶつかりあって,世界観を台無しにしてしまったのではなかろうか。しかも,個性の強い主人公たちに加えて桃太郎卿や魔剣豪たちがいる。処理にはずいぶんと困っただろう。少なくとも,魔剣豪の武蔵と沖田総司は本筋の「まつろわぬ民が権力と戦う」というテーマと別の世界におり,登場させる必要性がなかっただろう。個人的な見解だが,クロスオーバーにより物語の収集がつかなくなったのは過去作,『エクゾスカル零』も同じだった。この作品も,過去作のオールスターをやって中途半端な形で完結してしまっている。ある意味で,『エクゾスカル零』と『衛府の七忍』について,同じ失敗が繰り返された。次こそは,独自の世界観で勝負して,『覚悟のススメ』,『後空道』,『蛮勇引力』のような名作を書いて欲しい。衛府の七忍 10【電子書籍】[ 山口貴由 ]