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2020.02.04
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カテゴリ:歴史
シェイクスピアの歴史劇はちょこちょこ読んでいたのだけれど,だいたいシェイクスピアの歴史劇というやつは薔薇戦争の前後を扱ったものが多い。
ただ,このあたりは日本人には馴染みがほとんどない。特に分からんのが,シェイクスピアが最高の名君として描くヘンリー五世像である。親不孝の放蕩息子が改心し名君になる,という扱いだ。日本でいえば暴れん坊将軍こと徳川吉宗あたりが近いのかな・・・。ただ,史実を見るとヘンリー五世が放蕩息子だったという話はないようで,なぜこんなことになっているのか,Wikipediaなんかを適当に読んでいてもよく分からん。そんなとき,書店で立ち読みしたのが石原孝哉著,『ヘンリー五世 万民に愛された王か,冷酷な侵略者か』である。サブタイトルも長いので,以下では「本書」で通すことにする。



ヘンリー五世 万人に愛された王か、冷酷な侵略者か (世界歴史叢書) [ 石原 孝哉 ]


まず,本書の目次を見せてみるとこうだ。

第1章 少年時代と放蕩息子伝説
第2章 皇太子となったハル
第3章 皇太子ハルの放蕩の秘密
第4章 ヘンリー四世の死と嵐の船出
第5章 ローラド派の対立とフォールスタッフの誕生
第6章 フランス侵攻計画
第7章 サウサンプトン陰謀事件
第8章 百年戦争の再開
第9章 決戦アジンコート
第10章 ノルマンディーの占領
第11章 ヘンリー五世の死
第12章 ヘンリー五世像の変遷

冒頭から,ヘンリー五世の放蕩息子伝説を扱い,最後にヘンリー五世像の変遷でしめる。僕の知りたいこと,興味があるところを真っ正面から扱ってくれている。これは立ち読み即購入である。
なお,著者の経歴を見ると歴史学者というより英文学者だそうだから,焦点のあて方としては納得である。
そして,目次をざっと見て貰えば分かるんだけど,著者はヘンリー五世が即位するまでは「ハル王子」で通していて,並々ならぬこだわりを感じるところだ。

さて,僕の最大の疑問は「なぜ,シェイクスピアはヘンリー五世を放蕩息子として描いたのか?」というところだ。シェイクスピアも何の材料もなくそんな脚色をするはずがない。
経歴を見ても,少年時代は武術や勉強に打ち込んでいて,どちらかといえば優等生である。著者が指摘するように,せいぜい「怠惰な習慣」として楽器の演奏や作曲をしていた程度である。

この点,著者は第3章「皇太子ハルの放蕩の秘密」で放蕩息子伝説成立の経緯を説明している。この辺が本当に面白いところだろうか。
ヘンリー五世と父親との外交問題における対立問題という難しい話を,政治問題をすり抜けるため,聖書にもある「悔い改めた放蕩息子」という形でアレンジしたのだろうと指摘している。また,そもそも論としてシェイクスピア以前の劇作品の時点で,すでにヘンリー五世を放蕩息子として描く作品があったとか,この辺も興味深いところである。

それにしても,シェイクスピアを読んだ後に史実のヘンリー五世を見ると,確かに戦争では情け容赦のない描写が目立つ。
著者が指摘するように,シェイクスピアの描くようにユーモアがあったり,迷ったりと言った人間味というものはさほど強くないのかもしれない。というか,シェイクスピアの史劇を見ていても,放蕩息子だった第1部と比較すると,ヘンリー五世が改心した2部はそんな面白くない。
間違いをするから人間であり,話が面白くなるのかもしれない。

また,面白かったのがシェイクスピアの歴史観である。
かの直木賞作家,佐藤賢一は著書『英仏百年戦争』で「イギリス人は,シェイクスピア作品の影響から,百年戦争でイギリスが勝ったと思い込んでいる」という「シェイクスピア症候群」というべき状態を指摘し,歴史のすり替えとしてきしていた。
この点について著者は,「百年戦争という概念自体が19世紀のものだ」とシェイクスピアを擁護している(本書290頁)。僕は佐藤賢一のファンでもあるが,シェイクスピアが歴史をすり替え,ねじ曲げたわけではないにせよ,結果的に英国民がシェイクスピアの影響で若干ズレた歴史観を持っているというのなら,シェイクスピアの功罪はともかくとしてやはり偉大なものだ,と思うのだ。



【送料無料】 ヘンリー五世 万人に愛された王か、冷酷な侵略者か 世界歴史叢書 / 石原孝哉 【全集・双書】





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最終更新日  2020.02.04 18:36:26
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