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テーマ:法律(493)
カテゴリ:法律
日本に住んでいると,「不倫をしたら慰謝料を支払う」というのは当然のことのように考えているが,これは比較法的にはちょっと珍しいようである。日本の学者にもけっこう反対説を唱えている人がいるようだ。
では,外国で不倫をした場合,日本の裁判所は慰謝料を支払う義務はあるのかという点について,一つの裁判例が出たのでちょっと見ていきたい。 【送料無料】 国際私法 有斐閣アルマ / 神前禎 【全集・双書】 事案はおおよそこんな感じ(東京高裁R1.9.25判例タイムズ1470号75頁) 原告女性は,夫である被告男性の海外赴任に同行する形で,平成25年にニューヨークへ引っ越したのだ。 ところが,その年のうちに夫である被告男性は,同僚である被告女性とニューヨークで不倫を始めてしまった。このニューヨークで婚姻関係が破たんしている。 最終的に関係者は全員日本に帰ってきており,被告らは日本でも不倫を継続したのである。 この問題について,日本の裁判所で原告女性が被告らに慰謝料を請求したのがこの事案になる。 何よりも大事なのが,準拠法を,つまり裁判所が日本法かニューヨーク法のどちらで裁判をするかという問題である。 日本法でやれば原告女性は勝訴できるが,ニューヨーク法でやれば原告女性は敗訴する。ニューヨーク法では不貞があったとしても,慰謝料を請求することができないからだ。 ちなみに,原審である横浜地裁H30.10.30は準拠法をニューヨーク法にして請求を棄却した。原典が第一法規で読めなかったが,日本に帰国後の不貞は,もう婚姻関係が破たんからと原告の請求を棄却しているようだ。 無情だが,なんとも理論的にはスッキリしているとは思う。 ところが,これを覆し,慰謝料請求を認めたのが東京高裁である。 考え方の順序として,この事案は不倫,つまり不法行為だから準拠法は法例17条により,不法行為の結果発生の土地の法が準拠法になる。 日本とニューヨークの両方で不倫をしているわけであるが,結果発生の土地が複数あるとき,「最も重大な結果が発生した土地」を結果発生地とする判断をした。そのうえで,ニューヨークでの生活は3年くらいの短いものであるとか,被告らの不貞はニューヨークから日本まで切れ目無く行われていたとか,日本での不貞はこれからも継続するとか言って,準拠法を日本にした。 ・・・結論は分からないでもないが,理由付けがいまいちよくわからない。不貞がはじまった土地こそが重大な土地だとするのが自然のように思う。また,ニューヨークで婚姻関係が破たんしたとまでいえるし,日本での不貞はあくまで惰性というか,もともとあったのが続いているだけだ。 確かに,被告男性は不貞後に悪意の遺棄があったとかで,やってることはけっこうひどい。 判例タイムズの解説を読んでいても,類似の裁判例がないようだから比較のしようがないが,結論ありきで準拠法を日本法にしているような気がする。 なお,この東京高裁でもカバーできない問題はけっこう残っていると思う。 たとえば,この事案で被告らがニューヨークに定住すればダメだろう。また,海外で現地女性と不貞をするというのであると,これは完全無欠に慰謝料請求ができないことになる。 とはいえ,もともと日本のように不倫をした場合に慰謝料を支払う義務が発生する,という国の法が珍しいのであって,慰謝料請求ができないという結論は国際的にはおかしいことではないかもしれない。 なので,海外でワンナイトの不倫をすれば,かなりの事案で慰謝料を請求できないという事案はありえるのだろう。 一方で,日本国内で外国人と不倫をするのはまずい,そういうことになる。 ただ,海外での不貞が民事上,不法行為になるかどうかという話と,離婚原因となるかどうかは別の問題だろう。 どこの国だろうと,不貞はさすがに離婚事由だろうから。 ケース別 離婚協議・調停 条項作成マニュアル【電子書籍】[ 宇田川濱江 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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