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カテゴリ:漫画の研究
キン肉ドライバーはパクリだのなんだのいわれ、キン肉バスターに比べるとどうも不遇な印象である。 なんといってもあの作中最強説もある悪魔将軍を討ち取った技である。また、キン肉マンの技の中でもカメハメに習ったキン肉バスターや、壁画をヒントに習得したマッスルスパークと違い、明確にキン肉マンが自ら開発した数少ない技である。それなのにキン肉ドライバーがキン肉バスターほどは使われないのが不思議である。 今回は,梶原一騎の漫画『タイガーマスク』や『青春山脈』を参考に,キン肉ドライバーには梶原漫画の中の原型があるのではないか,あまり使われないのに暗い影があるのではないか、考察していきたい。 キン肉マン 16【電子書籍】[ ゆでたまご ] まずは百聞は一見にしかずというので,2枚の画像を拝見していただきたい。 1枚はキン肉マンのはなつキン肉ドライバーであり,もう1枚は『青春山脈』において女子プロレスラー,ブラックローザ・ユキがはなつブラックローザ・スペシャルである。 (『キン肉マン』17巻799頁,『青春山脈』11巻34頁) 技をかける方が,対戦相手を逆さまにし,対戦相手の両足を両手で抱え込み,対戦相手の両腕を両足で踏みつけつつ,頭部を地面にぶつけている。外見上,同じ技に見えないだろうか。というか,どう見ても同じ技である。 なお,『青春山脈』のアナウンサーの解説によると「自分の全体重をプラスし,脳天にショックを集中する殺人芸術」とのことであり,キン肉ドライバーのように相手の腕へのダメージを与える意図はないようである。 (『青春山脈』11巻37頁,アナウンサーの解説) 恐らくは,この『青春山脈』のブラックローザ・スペシャルがキン肉ドライバーの起源といって良いのではなかろうか。 もちろん,「たまたま形がそっくりになったのでは?」という反証はあるだろう。しかし,ゆで先生が梶原一騎漫画を読み込んでいることは,過去の記事からも間違いのないことである。 また,僕自身も梶原一騎の作品を全部読んでいるわけではないが,ネットで検索していると,別の梶原作品で似た技を見たという人もいたので,別の梶原作品の可能性は否定できない。 青春山脈11【電子書籍】[ かざま 鋭二 ] 個人的に,このキン肉ドライバーについて形が梶原漫画の中の技と似ているという以上に問題ではないか,と思うのが,キン肉ドライバーを習得する過程が梶原一騎の名作『タイガーマスク』の,ウルトラタイガードロップの習得過程とそっくりな点である。 まず,キン肉マンがキン肉ドライバーを習得する経緯はおおよそ以下の通りである。 キン肉マンはアシュラマン戦において空中でもみ合いの際,偶然にもアシュラマンの頭部を地面に打ち付けつつ,両腕をもへし折る形で落下したのだ。キン肉マンはアシュラマン戦で偶然発動した技を完成させるため,切り株を対戦相手に見立てて特訓をし,最終的には体重300キロを超えるだろう巨大イノシシに技を決める形でキン肉ドライバーを完成させた。 (キン肉マン16巻84~86頁。イノシシとキン肉ドライバー) 一方でタイガーマスクがウルトラタイガードロップを習得する経緯としては,こうだ。 タイガーマスクこと伊達直人は,必殺技を身につけるべく雪山で特訓を行っていた。巨大な雪玉を対戦相手に見立てて体で受け止めるうち技を作り上げ,最終的には巨大なヒグマを倒すことでウルトラタイガードロップを完成させたのだ。 (タイガーマスク,59,95頁) 両者を比較してみると,どちらも場面は山である。どちらも切り株や雪玉など,無機物を人間に見立てて試行錯誤し,猛獣の後ろ足をつかんで崖から落下する勢いを利用して技を完成させた。最終的な形は違うが,キン肉マンがイノシシに技を決める途中経過はウルトラタイガードロップとそっくりだ。 このタイガーマスクでやった一連の流れをキン肉マンは借用しているのだが,その結果,展開として不自然なところも出てきている。 例えば,タイガーマスクが雪玉を使ったのはわかるが,キン肉マンが都合良く人間の形に見立てた切り株を使うというのは唐突である。そんな都合の良い形をしている木が何本もあるものか。 (キン肉マン16巻62頁。なんと都合の良い形の木・・・) また,人間でしかないタイガーマスクこと伊達直人がクマと戦うというのはともかく,超人であるキン肉マンがたかが体重300キロの巨大イノシシごときを恐れるというのも不自然だ。 キン肉マンはとっさにイノシシの後ろ足をつかんで回転し,技をかけたが,2足歩行していた熊ならばともかく,四つ足で移動しているイノシシの前足でなくて後足をつかむというのも妙だ。 そして,技の破り方であるが,キン肉ドライバーもウルトラタイガードロップも,対戦相手の足をつかんで担ぎ上げるところからはじまるので,相手が足を閉じてしまうと技に入ることができない。 なお,この「対戦相手がスタンスを閉じて戦う」という必殺技破りに対し,タイガーマスクは対戦相手の体勢を崩し,スタンスを開かせてウルトラタイガードロップに持ち込んだ。 一方,キン肉マンは特にそういう展開にはならなかった。悪魔将軍はすっかりキン肉ドライバー破りのやり方を忘れたのか,うっかりと両足を開いて落下してきたので,キン肉マンに両足を抱えられ,キン肉ドライバーて技を決められてしまったのだ。もしかすると,キン肉ドライバー対策をさらに打ち破るやり方を思いつかなかったのかもしれない。 (キン肉マン16巻116頁,タイガーマスク4巻157頁。足を閉じての防御法) このようにキン肉ドライバーについては,技の形だけにとどまらず,技の習得過程,技の破り方といった面で梶原漫画の影響をかなり強く受けているといってもよい。 一応,キン肉バスターについては形が似ている「ラ・マテマティカ」という技をアレンジした物ではないか,という説があるものの,ゆで先生が「キン肉マンのオリジナルの技」と言っているところである。実際,ラ・マテマティカは締め上げるだけの関節技であるようで,落下する勢いを使うキン肉バスターとは大きく異なる。なので,キン肉バスターはキン肉マンオリジナルの技,といっても良かろうと思う。 一方でキン肉ドライバーはオリジナルの技というのは難しい。ネット上ではパクリとまで言われているが,それもやむをえない。せめて,相手の両足を両手で抱え込むのではなくて,相手の腰を両手でクラッチするとか,ちょっとでも変化を入れれば別の技になったろうに,と思う。 それゆえに,キン肉マンも多用しない,いやできないのではないか,とうがった見方もできてしまう。 タイガーマスク(4)【電子書籍】[ 梶原一騎 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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