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カテゴリ:読書
子どもの頃に読んだ作家を、大人になって読むとずいぶん印象が違う、なんてことはよくあることだ。手塚治虫、梶原一騎、藤子不二雄のような大作家は、子ども向けの無害な作品を執筆しているかと思えば、毒の塊みたいな作品を作ったりしている。
こういう相反する二面性というのを、最近は江戸川乱歩に感じている。少年探偵団みたいな子ども向けの作品を書く一方で、大人向けの猟奇的、変態的な作品を多数出しているわけだから。 今回は、『屋根裏の散歩者』の感想を書いていきたい。ミステリなのだけれど、ネタバレもしていきたい。 屋根裏の散歩者/指環【電子書籍】[ 江戸川乱歩 ] あらすじなのだけれど、この作品は明智小五郎シリーズの第5作である。短編なので読みやすい。 視点は探偵の明智小五郎ではなくて、学校を出てから定職にも就かず、親の仕送りで生きている無職の郷だ三郎である。彼は飽きっぽくて、酒にも女にも楽しめないのだが、どういうわけか犯罪行為に興味を持ち、ぎりぎりで犯罪にならないような悪戯なんかをしたりしているのだ。 そんな彼のお気に入りは、下宿の天井裏から他人のプライバシーをのぞき込むことである。ある日、主人公は天井裏の節穴と、寝ている者の口が一直線になったとき、糸をたらし、糸を伝って毒薬を口に流し込むことで完全犯罪ができるのではないか、と思い立つ。 それをそのとおり実行するのだけれど、かすかな手がかりから、明智小五郎に見破られてしまう、という内容になっている。 はっきり言って、トリック自体はさほどのものではない。 そもそも、このやり方で人を殺すことができるのか疑問である。そんな都合よく、節穴と寝ている者の口が一直線で動かない状況があるか疑問だし、天井裏を歩き回っている者がいたらなにか気配はしないものか。 Wikipediaを見ても、「作中の塩酸モルヒネは致死量ではない」などの指摘はあるようだ。 それでもこの小説が面白いのは、主人公・郷田三郎について、架空の人物とは思えない、血の通った人間ではないかと錯覚させるほどの描写である。 たとえば、彼が熱中していた「犯罪のまねごと」はこうだ。 どうだろうか? 僕は正直、似たようなことをやった覚えはある。 もちろん、いまはこんなことしないけれど、小・中学校のころはいろいろやった。大学生の頃、ドライブ中に悪友が「あのパトカーを尾行して、どこまで行けるかやってみようぜ!」という言葉に乗せられてパトカーを追いかけてみたことがあるが、まるでスパイか何かになったような気分になって楽しかったものだ。 現代に生きる我々だと、Youtuberが似たようなことやっているだろう。 そのほか、主人公は「押し入れで寝ること」に軽い興奮を覚えているが、これも僕はやったことがある。もっとも、僕が押し入れで寝たのは、こっそり隠れる快感と言うよりも、押し入れを寝床にしている「ドラえもん」に憧れてだけど。 たぶん、誰もが似たようなことをしていた時期というのはあるのではなかろうか。 この「犯罪に憧れる主人公」というのは、まさに著者の江戸川乱歩の投影なんだろう。 実際に、江戸川乱歩自身も屋根裏を歩き回っていて、その経験がこの小説になったと言う。どうりて、描写にも力が入っているはずである。 ゆえに、多少トリックが荒くても、それが大きく作品の評価を下げることにはなるまい。 犯人役に強い共感を誘われる1作であった。 一方で、探偵役の明智小五郎は、正直言ってさほど目立つものではない。 名前のあるモブくらいのもの。物語を完全犯罪ではなく、犯人の自供で終わらせるための舞台装置以上のものではなかった。 この辺、個性を発揮せずにはいられないシャーロック・ホームズなんかとは違うものだなぁ・・・。 屋根裏の散歩者/指環【電子書籍】[ 江戸川乱歩 ] お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.01.07 13:02:27
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