岡田索雲『ようきなやつら』感想~現代の妖怪事情
僕はTwitter世界に入り浸っているのだが,よく広告が流れてくる。どれも漫画の一場面を切り取って,扇情的な見出しを書き入れたもので,見ているとすごく気になるようになっている。これで読んだ漫画もあるし,逆にうざいのでブロックしたものもある。今回読んだ『ようきなやつら』もTwitter経由で見知った漫画だ。ようきなやつら [ 岡田索雲 ]本作は妖怪を主人公とした短編集で,7本の短編が収録されている。こんな感じだ。・「東京鎌鼬」・「忍耐サトリくん」・「川血」・「猫欠」・「峯落」・「追燈」・「ようきなやつら」このすべての短編に感想を書くと冗長になるので,「東京鎌鼬」と「川血」をメインに書きつつ,最後にタイトルにもなっている「ようきなやつら」について語ろう。「東京鎌鼬」であるが,この作品は著者のTwitterで全ページ見ることができる(2022年8月21日時点)。https://twitter.com/sakumo_info/status/1526792042877136896これが投稿されたのが2022年5月18日。この日記を書いている2022年8月21日時点で3.1万リツイートと14.3万いいねがついてる。たぶん,このとき僕は読んでいるはずだ。冒頭,鎌を背負ったオスのイタチが,「疲れてるから寝かせて」という妻のイタチと性 行為をするところからはじまるのだ。もう,冒頭から普通の漫画にはない展開で心をつかまれてしまう。このあと,子供を欲しがっている主人公のオスのイタチに隠れ,こっそり妻がアフターピルを飲んでいるという衝撃の展開から,さらに衝撃的な結末に至ることになるのだ。さて,この漫画のテーマは正直言って僕には全然わからない。性的同意の話,と著者のTwitterでタイトルがついているけれど,内容は相当複雑で,読み手次第で色々なことを読み取れるのではなかろうか。ネタバレをどうしても避けたいのだけれど,子どもを自分の思い通りに育てたいという,古い時代なら星一徹みたいな男親とそれに反発する母親という図式でも読めるし,素直に夫婦のコミュニケーション不足がもたらす悲劇を描いているとも読める。なお,単行本あとがきでは「Twitterには物語の見え方が少し変わる見出しを付けてもらったところ,多くの人に読んでもらえました。うれしい反面,無邪気に差別的な解釈をして愉しまれる方も見受けられまして困惑しました」とある。物語の見え方が少し変わる見出し,というのはもちろん「性的同意の話」というところですね。ようするに,著者も想定外の読み方をする人が相当数いたということで,もはや書き手を超えたところにこの作品あるように思うのだ。次に「川血」。これもけっこう衝撃的で,Twitterの広告ではやはり冒頭1ページ,半魚人っぽい子どもが河童の夫婦に対し,「おれ…河童じゃねぇのか?」と質問するシーンから始まる。河童の両親は「父ちゃんと母ちゃんの子どもなんだ。河童以外の何物でもねぇ」ととりなすが,どう見ても,こんなんギャグ漫画である。(『ようきなやつら』42ページ)主人公の子どもは,頭に皿もないし,クチバシもない。顔の横にはヒレがあって外見上の特徴を言えばどう見ても河童ではない。だが,これは断じてギャグ漫画ではない。河童の両親たちは,「お前はおれたちの子だから河童だよ。甲羅のない河童もいるんだ。皿がないなら弱点がないってことだ」と必死に主人公をとりなしたりして深い愛情を感じる。作中で描かれるが,河童なら当たり前に使える水術(水をつかった魔法みたいなもの)も一切使えないので,「ニセ河童」学校でいじめにあっている。主人公が河童の国から巣立っていくまでを描いているのだが,ある意味で,「みにくいアヒルの子」みたいなところも感じる。ところで,やはり単行本に収録されているあとがきを見ると,「外国人や外国にルーツを持つ人たちが実際に受けている扱いを参考に描きました」とある。そう,この著者はけっこう社会派なのである。5番目の短編「峯落」なんかも,性被害を受けた女妖怪と,それを封殺する男妖怪の話なんだけど,あとがきによると「MeeToo運動」,つまり性的被害を受けた女性が「私も,私も」とSNSに被害を投稿し,性被害の撲滅と啓蒙を図るという運動である。単に作品を読んでいるときには展開の唐突さに困惑したが,背後に「MeeToo運動」があったとなると,これは納得できる。同様に6番目の短編「追燈」は関東大震災の際,在日朝鮮人の虐殺事件が起きたのを主題にしている。この「ようきなやつら」は現代の鳥獣戯画でもないが,妖怪を描くように見えて,実際には人間を描いている。もちろん,書き手にも色々な思惑があるのであろうが,テーマ自体に答えのないものを描いているのが多いため,読み手が著者の意図を超えてしまうケースも多いだろう。僕の感想自体も的外れかもしれないし,感想を書くのも少し恐い作品でもある。最後にタイトルにもなっている「ようきなやつら」。ある意味で,この短編集の総決算ともいえる作品である。これまでに短編で登場した妖怪の何人かが再登場している。短編のころより老いている者もいるので,時間経過はあるようだし,逆に言えば,紆余曲折があったにせよ若くして死んでしまうのではなく,老いるまで生きられたというのは良かったというべきか。ようきなやつら [ 岡田索雲 ]