新たなるステージへ ~Try it !~

2008/03/22(土)04:23

■幸せの波紋♪

愛情いろいろ(53)

女は仕事が終わると、 駅前の喫茶店で、コーヒーを飲むことが習慣になっていた。 水曜日の夕方、いつものように喫茶店に入ると、 顔なじみのウエイトレスが、 いつものように幸せそうな微笑みで応対した。 同じテーブルで、同じウエイトレス。 そんな光景が、何年も続いていた。 殆ど店内で、会話を持った事の無い女は、 何故かその日は、そのウェイトレスに質問をしてみた。 「どうしていつも幸せそうなの?」 ウェイトレスは、 女の質問に一瞬戸惑いながら、嬉しそうな表情で、 生活は厳しいが、愛する家族がいる事を話してくれた。 彼女は子供はもちろんの事、 ご主人もずっと愛し続けてているようだ。 帰りの電車の中、 女はこれまでの自分の人生を振り返っていた。 結婚して子供も授かったが、その後離婚。 子供を引き取り、元々キャリアを持つ職場へ復帰をする。 それ以来、 他人を愛する心に蓋をし、がむしゃらに働いてきた。 給料もそこそこ貰い、子供にも、 金銭的には不自由させる事は無く、暮らしていた。 女は自分に質問を向けてみた。 「私は心から愛した人が、今までに居ただろうか?」 直ぐに答えは出てこなかったが、 電車のドアの脇にある鏡が、別の回答をサポートしてくれた。 口角の下がった口、手入れを怠った髪、 朝したきりで、直す事の無い化粧の落ちた顔が、そこに存在した。 女は一瞬落胆をしたが、直ぐに思い直す事が出来た。 「自分から愛してみよう」 そして、電車のドアが開き、改札を抜けると、 手に持ったバッグを、360度回転させながら、 走っている自分の姿があった。 次の日から、女はその喫茶店には行かなくなった。 数年前から「自分を愛する」というメッセージを伝えていた、 ウェイトレスの役目は終わったのだ。 ウェイトレスは、店内のスタッフと話をしていた。 「いつも来ていた女の人、来なくなっちゃったね・・・」 あの日、自分と電車の鏡による絶妙なコンビネーションで、 一人の女が幸せに向かいだした功績を、彼女は知る由も無い。 ウェイトレスは今日も微笑みながら、 客にコーヒーと幸せを運んでいる。

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