ヒモいらず 亭主いらず

2007/06/27(水)06:20

短編小説「報復」

ファッション(24)

 石は女の苛立ちを抑える作用があるようです。 例え どんな色の石でも   「奥様にはコチラの方がお似合いですよ」愛想を振りまき店員がファイヤーオパールのネックレスを勧める。 そんなに高いと後が困るのよ 「買う」ことに意義あるの まったく うるさいわね「すてきね でも他にも見たいの」口元は笑いながらも目で牽制をする歩美 子供同士が喧嘩する。「死んじゃえ!オマエなんか大嫌いだ!」「兄弟でしょ!なんてこと言うの」割って入る歩美兄弟喧嘩の言葉遣いに苛立ち 子供の手首をギュっと掴む夫に助けを求めるも ソファーに座りテレビを見ている。気づいていても聞こえない振り 見ない振り まったく! なんでいつも こうなのよ!  誘うように緑の石が光る。「この石は?」今まで見たことのない石に歩美は惹かれた。「これはプレナイト ぶどう石です。」「ぶどう?マスカットの?」「いえ 産出された時の形が葡萄状の房に なっているので葡萄石の名前がつきました。 でもお客様には ちょっと物足りないかと… 緑の石がお好きでしたら エメラルドなども」店員が足早に奥のショーケースのエメラドを取りに行く 歩美はプレナイトのネックレスに魅入る。 透明ではないところが私のようね 緑の乳白… いつか きっと自由になってみせる! 今は…小さなサンゴのピンクが 歩美の失われた女の部分をくすぐっている。「お客様! こちらです。ムゾー鉱山産の質の 高いものです。 こちらでしたらお客様の…」「これを出して」とプレナイトを指さす歩美店員は、エメラルドをベルベットの箱に置き「お客様 他にも緑でしたらペリドットもございますが…」と言いながらプレナイトを出した。「つけていいかしら?」「どうぞ おつけしましょうか?」店員にネックレスをつけてもらい鏡を見つめる。白い肌に緑のプレナイトが映える。 そう これが私の日々我慢の「ご褒美」に相応しい身を飾ることさえ 許されない日々ネックレスを外そうと思った指先が服の薄いシフォンの生地に 引っかかる。ネックレスを店員に返し「これを頂くわ」「他にも色々ご覧に…」「いいのよ!決めたの」歩美は、 ささくれた指先を擦り合わせながらはっきりした口調で言った。店員の助言など必要なかった。 何もしない夫への ささやかな報復そのまま 身につけて帰る道すがらゆっくりと石に触れ その存在感を確かめる。小さな報復は いづれ大きな報復になる。結実の時まで 歩美は自分への小さなご褒美を繰り返し続けて行く   ~プレナイト~ 根気強さと 意志を授け 信念を貫く石     

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