タコ社長,オーストラリア・メルボルンのスローライフな日々

2010/06/28(月)20:59

金城さんに貸した紺のカーディガン

タコ生徒・学生期(87)

「冷房が効き過ぎているね、僕のカーディガン着ますか?」 白いブラウスの薄着で寒そうにしている金城さんに、紺のカーディガンを貸してあげた。 池袋東口にあった場末の喫茶店に通っていた。一浪して巣鴨にあった大学に入ったばかりの5月のことだった。そこでバイトをしていた一つ年上の早苗と言う女性に惚れ込んでいた。大学を休学してバイトをしているということだった。 「タコさん、今日は本当に嬉しいよ。沖縄が、日本に返ってくるんだよ。」 太い声で話す金城さんは沖縄出身。黒い瞳で目いっぱい微笑んだ。つけている私のカーディガンも、金城さんの素肌に触れて喜んでいるようにさえ見えた。 沖縄は、戦後アメリカン領土となり行くのにパスポートが要た。それが、1972年5月15日から要らなくなった。金城さんたちが、どれだけ待ちわびた日だったのだろうか。 生まれて初めて真剣に恋をして、圧倒的に自分からのめり込んでしまった早苗との恋は、2カ月弱であっさりと終わってしまった。彼女が家出して行方不明になってしまったからだ。婚約者がいて、大学教授と不倫していて、私と付き合っていて破滅的にそういう結末になったらしい。初めての恋がこんな形で終わった後遺症は、その後尾を引いた。半年ほど。彼女がいなくなった喫茶店にはもう二度と行かなかったから、金城さんとも会うこともなくなった。 今、沖縄の基地問題、また返還時の密約のことなど、まだ沖縄が呪縛から解放されていないこと、むしろ逆に問題が更に深まっていることを知ると、あの饐えた匂いのする地下の薄暗い喫茶店で見せてくれた金城さんの裏のない笑顔が、更に遠い遠い想い出になっていこうとしている。 毎回、嫌でもこの緑の箱をクリックよろしくお願いいたします。

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