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でっかい独り言、内緒話に戯言三昧

でっかい独り言、内緒話に戯言三昧

その3

 意外に早く、生きていることが嫌になった。母の死後、母の住んでいたマンションを相続した。がだんなの仕事先からは遠ざかった。だんなは週末のみ帰ってくる。娘と猫3匹とだけの生活。だれともしゃべらないことが普通だった。だんなは毎日電話はくれた。でも開口一番に「こっちはなにもないけど、なんかある?」と言われてしまうと「別になにもないよ」としか答えられなかった。
 そんな生活が軌道に乗りかけた頃、出張で東北へ行った。現場の仕事だから、日勤か夜勤かはわからない。携帯は持っていたけれど仕事中は事務所におきっぱなしだ。夜に電話がなければ夜勤なんだな、そう思う毎日だった。その日はだんなの誕生日だった。でも前日から連絡がなく、夜勤だとしたら、日中に電話してしまうと眠りを妨げることになる、日勤かもしれない。迷いに迷って昼すぎに電話してみた。電話にでた。ちょっと待ってと言って、誰かに代わった。義姉だった。その日は休みなので、実家へ帰ったと言うのだ。なにそれ?私聞いてない。その電話をどうやって切ったのか覚えていない。今から誕生日会をするんだとか言っていたような気がするが、もうどうでも良かった。
 私はなんの為に、1人で頑張っているの?こんな想いをしても、私は生きていなくていけないの? 気がついたらベランダから下を眺めていた。娘を抱いたまま。夜だった。地面が私を呼んでいる。優美で甘美な誘いだった。部屋の中から猫の鳴き声がする。ああ、この子達も連れて行かないとな。でも3匹を抱いて、娘を抱いて、手すりをこえることはできなかった。単純に物理的に。順番に下へなげたら、途中で気付かれてしまう。3匹と娘と私と、だれか一人でも欠けさせる気はなかった。誰かだけを行かせる気もなかった。
 唐突にばかばかしくなった。生きる決意をした訳じゃない。一緒に死ねないのなら死ななくてもいいかと思っただけだ。そう、一緒に死ねる方法が分かったら、すぐに実行すればいいだけなのだから。


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