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でっかい独り言、内緒話に戯言三昧

でっかい独り言、内緒話に戯言三昧

~猫と私~

 物心ついた頃から猫が好き? 犬も好きだったのだけど、父の実家にスピッツがいて、こいつ、幼児の私よりでかかった…なので、ちょっと苦手。

 うちには私が生まれる前に茶トラの雄猫がいた。ノラという。伊勢湾台風一過の泥だらけの道を父が車で走っていると、ひょろひょろと道に出てきたそうだ。動物好きな父が「あ!!!!!!!」とブレーキを踏んで、慌てて車外に飛び出すと、タイヤにすりりんとして、「にゃぁぁぁぁ」とそれはそれはかわいいソプラノ声で鳴いたんだそうだ。
 かなりの被害をだした伊勢湾台風、おそらく親兄弟皆散り散りになったのだろうと判断した父は、そのまま車に乗っけてしまったそうだ。自分とて、被害状況を確認しに行く営業中だったというに…
 このノラは実に賢くかわいらしい猫だったらしい。名古屋から京都までの帰省に連れて行って、放しておいても「ノラ、帰るよぉ」と言えば「にゃぁぁぁぁん」と帰ってくるし、車の中でも後ろに座って大人しくしていたそうだ。小さい子供のいるうちなのにいたずらすることもなく、子供らにいたずらされても黙って耐えていたらしい。
 母はよく「ノラは拾われた恩がわかっていたんだ」と言っていた。残念ながら、私が生まれる前には死んでしまったのだが、ずっと小さな骨つぼに遺骨をいれて持ち歩いていた。

 私が2才半の時、東京へ引っ越してきた。5才の誕生日会の朝、待ちきれなくて家の前の道をうろうろしていた私に真っ黒な猫がついてきて、うちにあがりこんだ。それがクロ。これはもう大人で、気ままにすごしていたが、ある日突然、ふっといなくなってしまった。
 でも真っ黒できれいなクロのことはしっかり覚えている。あれ以来、私の中ではクロネコというのは憧れで、またいつか、クロネコを飼いたいもんだとずっと思っている。

 7才の時、また名古屋にもどった。姉も寮にはいってしまい、1人で留守番をすることが耐えられなかった私は、ねだり倒して知り合いから子猫を譲ってもらった。(もっとも、父も母も犬猫のいない生活に耐えられなかったのだが)この時、マンションに住んでいたのだが、ペット可で、管理人さんが大の猫好きだった。数日留守にするような時は、管理人さんがペットシッターとして、えさをやったりトイレをきれいにしてくれた。
 この子はノンノ、というハイカラな名前だった。当時、宝塚にハマっていた我が家で、夏休みに見たショーにでてきた役名だ。うちに来る前には「ハンスケ」と呼ばれていて、兄弟には「ハンゾウ」がいた。これは「ハンサム」だからついた名で、マンションで室内飼いをする我が家のために、家の中で3ヶ月をすぎ、乳ばなれをするまで育てて下さった。
 ノンノはカーテンによじ上るのが好きで、エアコンの上で寝そべるのが大好きで抱かれるのが大嫌いな子だった。
 11才の時、兵庫への転勤の話しが出た。「ノンノも一緒に住めるとこを探さないとね」と言っていた矢先、突然ノンノが死んだ。
 朝、普通だったのに、学校から戻ると母から仕事先に電話をかけるようにというメモがあった。いつもなら禁じられていることなのに…そして聞かされたのはノンノの突然の死で、両親のベットルームに安置してあるから、見ておくようにということだった。
 ベットルームのいつものノンノのかごにノンノはいつもと同じように寝ていた。速攻で父に電話した。(これもいつもなら禁じられている)泣きじゃくる私に父はすぐに帰るけど、そろばんへはちゃんと行きなさい(当時習っていた)と言われた。
 泣きの涙でそろばんへ行き帰ってくると、父も母も帰ってきていた。二人から原因はわからないこと、もうノンノは帰ってこないから、ノンノがゆっくりと眠れるところに埋めてあげようという話しがあった。
 ノンノは生まれたうちに帰った。広い広いお庭のある家(庭にテニスコートがあるぐらい)だったので、ノンノが眠る場所はいっぱいあった。ノンノと一緒にノラの遺骨も埋めた。ノラも名古屋の子だから、きっとそれが一番いいだろうから。

 その後しばらく、うちから猫の姿はなくなる。いつか死んでしまうことを考えると、どうしても猫を飼う気になれなかったのだ。

 沈黙を破ったのは、父の死後、埼玉に越してきて1年後のことだった。長姉がチェコ語を習っていた先生が飼っていた猫で、先生の帰国に伴い、うちでひきとることになったのだ。がしかし!住んでいるマンションはペット不可…なので「ご禁制猫」として、ないしょないしょで飼うことになる。
 花の季節にうちにきたのと寝ている時の鼻息がすごかったので、ハナちゃんと呼ばれた。実に性格の良い子でおっとりと、のほほんとした、誰もがすきにならずにいられない子だった。
 ハナちゃんがうちにきて、ものの数カ月で今度は私が猫を拾ってしまう。それがタク。夏休み初日、体力作りのためランニングにでた私、家から数十メートルの幼稚園の裏口のコンクリートの上に、うごめく物体を見つけ、ねずみかと思って近付いたら(当時ド近眼だったので)それはまだ目も空いていない子猫(辛うじてへその緒はとれていた)だった。とっさに思ったのは母猫がいないわけがない!だったので、風下にはなれ、十数分、様子をうかがった。子猫が母猫を呼んでも、全然母猫は現れない。夏なので、どんどん気温は上がっていく。コンクリートの上では煮えてしまう。なによりも目も空いていない子猫が1人で生きて行けない…覚悟を決めて子猫をポケットにいれて家に戻った。
 まだ寝ていた母に黙って子猫をつき出すと、「ここまで小さいのは育てたことないよ」という返事だった。つまり、「育つかどうかわからないよ?それでもいいの?」という意味だ。それでも放っとく訳には行かないので、とりあえず牛乳を温め、綿で吸わせてみると、口の中が砂だらけだった。どうやら空腹のあまり、コンクリートをなめるというか吸っていたようだ。
 スーパーの開店をじりじりとした思いで待ち、開店と同時ペットショップに飛び込んで子猫用のミルクと哺乳瓶を買った。牛乳は子猫にはよくない、と母が言うので、お腹が空いているのが判っていても、たくさん与える訳に行かなかったのだ。
 予想に反し、子猫は無事に大きくなり、たくましいのタクと名付けられた。タクは私に懐いていて、勉強をする私の肩の上にちょこんと座っていることが多かった。

 数年はそうやって過ぎた。

 ある10月の肌寒い雨の夜、子猫の母猫を呼ぶ声が一晩やまなかった。タクは気にしていなかったけど、ハナちゃんはそわそわ…朝起きて母と二人開口一番「一晩鳴いてたね」母も私も気になって寝られなかったのだ。多分、考えていたことはもう一匹増やせない、それだった。だから、母猫が迎えにきて欲しかったのだ。でも一晩来ないのは異常だ。無言の間のあと、「連れてくるよ」と言った私に母は反対しなかった。
 子猫は電信柱の影で枯れた声でまだ母猫を呼んでいた。そこに現れた私にいっちょまえに三角になって威嚇してきたけど、手のひらサイズの子猫に威嚇されたところで、ねぇ?そのままひっつかんでつれて帰った。
 一晩濡れていたので、タオルでふき、温めた牛乳を少し飲ませたら、自分から猫のえさいれからえさをたべ、勝手に猫トイレまで使った。
 こいつはどこかへすぐにいなくなってしまうので、かこさとしさんの絵本、「とこちゃんはどこ?」からトコと名付けた。

 さて、このトコを連れてきたことはタクにとって許し難いことだったようで、私はタクに嫌われてしまう…

 途中、結婚して家を出たが、母の死後、家に戻り3匹とお嬢と一緒に暮らすことになった。ハナちゃんは相変わらずお人好しで、お嬢が泣けば一番に駆けつけ、一緒になって鳴いていた。タクは眉間にしわをよせ、トコは未確認物体にどう接していいいものやら、という風情であった。

 すでにハナちゃんとタクは10才を越えていたので、ある覚悟をしなくてはならなかった。お嬢3才直前の夏、ハナちゃんは体調を崩し、お医者さん通いをしたが、すでに老衰の域に入っていて、結果的にしんどいだけの通院となってしまった。
 静かに眠るように、ハナちゃんは逝った。翌日、お嬢を連れ、ハナちゃんを荼毘にふし、小さな、そうノラと同じように小さな骨つぼに入れて連れて帰ってきた。
 その後、タクが下り坂を転げ落ちるように老けて行った。タクは胸に腫瘍ができていたが、手術に耐える体力がなく、自然に任せるしかなかった。
タクは私のそばを離れるのをいやがったので、医者に連れて行くこともせず、ずっと一緒にいるようにした。
 最後の3日間は、タクのそばで眠り、とにかくそばにいたのだが、お嬢の幼稚園に行かねばならず、その間にタクは逝った。看取っただんなによると、タクは私を呼んでいたそうだが、頑張りきれなかったということだった。
 その日の午後、ハナちゃんと同じペット霊園で荼毘にふし、また小さな骨つぼが増えた。タクは私にとって、本当に大事な大事な猫で、正直、いまだにタクだけは戻ってきて欲しい。化け猫になったっていいから、はく製にしてもいいから、手もとにおいておきたかったのだ。でもそれはできない。

 ペットと暮らすこと。それはそれは楽しいことだけれど、小さな命は、ほとんどの場合自分よりも早くその力を使い果たすことを、自覚しなくてはいけない。
 私は無責任に野良猫にえさをやる人が嫌いだ。えさをやるのなら、家を与え、その死を看取らねばならない。それができないのなら、単なる自己満足だ。
 お嬢を育てる上でも、責任の持てない命にえさを与えることは禁じてある。日光の猿、青森の猿、軽井沢の熊、都会のカラス…皆無責任な人間順応しただけだ。なのに猟られるのは動物だ。

 タクを荼毘にふしている時、お嬢が「ハナちゃんもここに連れてきたね」と言った。まさか覚えていたとは…
 いずれトコも仲間入りするのだろうけど、それが少しでも先であるようにと願わずにはいられない。いつか3匹が安心してずっと眠れる場所を探してやらねばな…


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