いつも利用する美容院はＪＲで２０分、乗り換えて５分の場所にある。

聞いただけじゃ不便な気はするが、独身の頃からずっと利用していた
ところなので少々遠くても変える気にならないのだ。

市内の何箇所かにチェーン店はあるが、実家に一番近いそこに
行くようになって２０年以上になるのだ。

だから美容師さんもキャリアを積んで独立した人もいるし、
姿を見なくなったと思ったら別のチェーン店に移動になった人もいる。

予約していくと大体決まった人がカットしてくれていたが
いつのまにか予約時に指名できるようになっていた。

そんなんで同じ美容院に通いながら、２０年もたてば店長も変わって
すっかり美容師さんの顔ぶれも入れ替わっていた。

メィ子が学生だったころ、同年代の新人らしいきれいな顔立ちの美容師さんがいた。
カットやパーマの仕上げをすることはなかったので口を聞いたことが
ないまま姿が見えなくなった。

多分移動か、結婚して退職されたのかどっちかだろうよ。

だけど、なぜか２０年のブランクのあと 縁あって今はメィ子の担当さんになった。

同年代だから４０近いのは確かだが、どう見ても３０代前半、いや
年齢不詳といってもいいかしら。

少しハーフ（混血）っぽいきれいな顔だちのせいもあるが、
メイクが上手、スタイルがよい、ジーンズが似合う、まぁいろいろあるわな。

その彼女がメィ子の頭にパーマのカーラーをくるくる巻きながら話をするうちに
芸能人の話になった。

地元のロケ現場に出くわすとリポーターが必ずいる。
しかし、テレビのブラウン管を通してみる印象と実際は違うもんだという話になった。

そりゃあね、アタシだったらレジでは演技でも笑顔を心がけますもの。
でも、よそだとぶっきらぼうかもしれんなぁ。

あ、でもさー、カズヲさんの勤務先には芸能人も時々くるよ。
確かにカズヲさんはあまり芸能人は好きでなさそう。
化粧が厚いし、態度も大きいからと聞いたことあるけどね。

そういや 素顔もきれいで挨拶もきちんと返してくれたアイドルに
一人だけ会ったと言ってたな。

「えー、誰ですか？　知りたい。」

河合奈保子さんって言ってたよ。

「へー、そうなんですか。」

ところが、一緒にカーラーを巻き巻きしてくれていた美容師さんが
口をはさんだ。

「カワイナオコって誰ですか？」

「えーーー！！知らないのーーー！？」
（ジェネレーションギャップ）

「私ねぇ、ここにいるとたまに虚しくなる時があるんよ。
キヨサカさんならわかる？」

そ、そうね。あの頃は明星とか平凡の表紙を飾ってたのにね。

「そ、そういやね、何年か前に実家に水沢アキさんが来たことあったんよ！」

へーっ！　そりゃ何で？

「電化住宅とか、新築の家を紹介する番組があったでしょ。」

あぁ、今も広テレでやってるよね。
そういや、なんか何代か前のリポーターだったような気がする。

「そ、それで水沢アキさんがやってきた時にねぇ、もぅ うちの母ったら
『うちの畑の野菜いりません？』って聞くんよ！」

「んもう芸能人だし、荷物になるし、そんなん いるわけないじゃない！」

「でも『まーーっ！子どものお弁当に助かります！』って全部持って帰っちゃった！」

「びっくりした～。気さくでいい人だった。」

へーっ。わからないもんですねぇ。

ところが、一緒にカーラーを巻き巻きしてくれていた美容師さんが
再び口をはさんだ。

「八代亜紀とは別人なんですか？」

「んもーーっ！ここにいるとこうなんよ！
この虚しい気持ちキヨサカさんならわかるー？！」

た、大変ですね。
見た目は全然他の美容師さんの中でも違和感ないだけに
おしゃべりするとかなり虚しいもんありますね。

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この美容院をもひとり利用している人物がおります。

カヤコさんです。

メィ子よりも もっとずーーーっと前からのお得意さんのカヤコさんが
入院したことを聞いて、店長さんがわざわざ病院までお見舞いに
来てくれていたのだそうだ。

「いいのかなぁ、行ってみたら 顔に呼吸器みたいなのをあてて
しゃべれない状態だったら悪いなぁとか 考えたんですけどねぇ。」

まぁ、そんな店長さんみずから お見舞いなんてありがとうございました。

「それが、病室いったらいなかったんですよ。だから看護婦さんに
教えてもらったんですけど。」

「いつも上がったり降りたり、そこらへんウロウロしてるんで
すぐ見つかりますって言われたから探したらやっぱり動いてました。」

「元気そうでよかった。」

・・・・えぇ、明日退院しますから。
（やっぱりじっとしてないか）