on the other side of the world

2005/09/05(月)06:49

幽霊屋敷の洋館 [上]

埃だらけの洋館(19)

幽霊屋敷の洋館1、2、3 アタクシ達の埃だらけの洋館は、幽霊が出る。「何を戯けた事を」と思われてしまう、それは分かっているので躊躇う、だが不思議な事が二回あった。 アタクシは文学より理数系の事の方が得意だし、合理的に生きたいと思う。「魂」の存在を信じても「神」となると文学的な超自然の描写意外は苦手だ。だから、「幽霊」も信じ難い。 数年前、洋館に一目惚れしてしまい、殆ど衝動買いの形で買ってしまった。自分達で呆れるほど大きく、住む市の歴史に残っている様な洋館なので、随分経済的に背伸びして、両親達の援助を有難く借りて、やっとこさ買った。アタクシ達には勿体ない屋敷だ。 引っ越しは、骨董品で死ぬほど重いピアノや、他に大きな家具もあるため、運送屋に頼んだ。余談だが、古い欧州で作られたピアノは現代のように軽く強い鋼鉄がなかったので、内部がごってりと重い。大学時代、奨学金の余りとアルバイト代で買ったが、おばけ屋敷の洋館によくにあう。 引っ越しが終わった洋館で初の晩、荷物をそんなに運んだわけではないのにクタクタだった。「四時間かかります」といわれた引っ越しが正午に始まり、零時ちかくまでつづいた。引っ越し屋のお兄さん方は、のろけているどころか汗だくで荷物を抱え、洋館とトラックの間を歩かないで小走りまでしている。それに、普通は二人しか派遣しないそうだが、頼んだ時点で「ピアノ」と聞いて、さすが慣れたものだ、「それは通常のピアノですか、それともアンティックですか」とちゃんと重さの違いを心得て聞いてきた。「アンティックです」と答えたら三人派遣してくれる予定を立ててくれた。 「正午から四時間」と聞き、友達が引っ越しの終わっているはずの夕飯時にお寿司の出前を山ほど持って「引っ越しみまい」に来てくれた。終わっているはずの引っ越しはまだ激戦中。アタクシ達は「まだ終わりそうにないねえ、がんばってくれてるんだけどねえ」などと微笑しながらお寿司を美味しくいただいた。 九時を回った頃、それまでプロの邪魔になってはいけないと控えていたアタクシ達は、ようやく「このままじゃ深夜までかかってしまう」ことに薄々気付いた。鈍感だ。ムーミン曰く、アタクシのおびただしい図書の詰まった箱数だけでも大変なのだ。見かねて、「お邪魔でも使って下さい」と、やっと荷物を運び始めた。お寿司を持って来てくれた仲間も一緒に運んでくれた。 それがやっと終わり、引っ越し屋のお兄さん方のチップをはずみ、友人にお礼をいい、寝室の一つにようやくベッドを整えて倒れ込んだときには疲れていたのに眼が冴えていた。 慣れない大きな洋館の初めての夜。静かな夜に、古家のあちこちから何かが軋む音が時々耳についた。屋根が冷えていく音や、板が夜の湿気を取り入れる音なのだろうが、116m2 の新築のコンドミニウム(日本ではマンションというのだろうか)から390m2 を超える古洋館に越してきたので、何だか二人とも嬉しかったけれど心細かった。 そこで恐いもの知らずのアタクシが調子にのって言った。「ねえ、ランディングの戸を全部閉めて寝て、朝全部開いてたりしたら面白いと思わない?」 ランディングとは日本語で何というのかさだかではないが階段の踊り場みたいな物、洋館の場合階段を上がりきったところの十八畳ほどの広間だ。長い「廊下」ではなく殆ど正方形の「広間」。 洋館の二階のランディングに開く戸は(今また数えてみる)五つの寝室の戸それぞれ一つづつ、屋根裏部屋につづく階段の戸が一つ、そしてコチラにしては珍しく旧式に「トイレ室」と「バスルーム」に分かれているお手洗いの戸が二つ、計八つ。 アタクシは思い立ったら最後、面白半分全部ドアをしっかりしめた。ムーミンはそれを見て笑っていたと思いきやいびきをたてていた。そしてアタクシも新居にわくわくしながら寝付いた。 よい子は幽霊屋敷を衝動買いしてはいけません。

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