2005/10/20(木)06:49
海辺のチェロ
人間、ぶどう一房で一週間食い繋げるものらしい。海辺で、気がついたら、いつまにかそのくらいしか食べていなかった。
数時間ごとに二粒、三粒。と、頭がクワワワワン... とすると、気付けの様にジャスミンティ。
よく体がもつものだ。あ、もってないのか...
出発前、ムーミンは殆ど出張で留守(だった気がする...)で、知らない。隠し事がこんなに多いのって、何??
が、アタクシの顔色の悪さを心配して、大好物を腕をふるって作ってくれたりしたのだが、一口も食べられなかった。ごめんね。いつもはがっつきなのにね。
日曜の晩、海に到着。そしてちょっと恐ろしい事を言われた。
「ねぇ、今日も何にも食べなかったじゃないか、また病院行く?行った方がいいよ。」
ネットがろくに通じてないほどのド田舎だが、T村には小さな病院がある。
【入院】
という文字が頭の中で点滅する。
えーーーっ?ここまで来て?何か食べなくちゃ。
「Rレストラン行く?」 あ、それいい。
おなじみのRレストランは近くのT村にあるこじんまりしたお洒落な店。小さなテーブルが十ほどしかなく、天井が高く、窓が大きく、内装がすっきりしている。入ると照明がひっそりとおとしてあり、テーブルの一つ一つにろうそくと生け花...
そしてもちろん料理が美味しい。二工夫も三工夫もされているのにうるさくない、さっぱりした味。こだわって良心的にとれる材料を使っているのも◯。
食べたのは
・柔らかい新芽レタス数種の、やさしい味のサラダの小皿
・小さな小さな生ガキ七つに、ほんのり甘い酒・みりんドレッシング
カキはミヤギ。小さい。実(身?)がティースプーンにすっぽりおさまる。美味しい。
このくらいなら、いつもは前菜にペロッとたいらげて、「おお~う、次々ぃ」と手をこすりあわせている。
だが今回は、さすがに美味しかったけれど、これも本当は半分ほどでよかった。ピエロッサに見つかったら大変...
だが。
【入院】
それに、これしき食べられなかったら女がすたるわ、と意味不明な根性でゆっくりいただいた。
次の日、月曜。やっぱりぶどう数粒に舞い戻り。あ、それと朝、コップ半分のヨーグルトに「ピーチジンジャージャム」をおとして食べた。ゆで卵に落書きしながら。おいしかったよ、ルル子様。
その次の日にまたムーミンが病院行きをほのめかす。「まだ眠れないみたいだし、ぜったい変だよ、一体どうしたの?」
【入院】
やだぁ。でもあの病院の海の見える病室なら... なんてちらりと思うほど、乱れた脳波の音がクワワン・クワワンと聞える様な気がするほど疲れていた。
なのでまたその晩Rレストラン。
静かな店内に踏み込んだとたん、
「あ~~~~っ!!タリアさんっ!!!」
え?あ~~~~っ!!Nさん!え?オフシーズンなのに?
「嬉しいなぁ、今夜でこのシーズン最後なんだよ。」
え~っ、弾いてもらえるのっ??
顔中微笑で握手、握手。うれしいうれしいうれしいうれしいうれしい。
N氏はシーズン中、毎週火曜日だけこのレストランで生演奏する。彼のギターもいいけど、チェロを弾かせれば本当に首筋の毛がザワザワ立つ。
弾いている最中、アタクシ達が店に入ると、にっこり頷いて、目配せして、すぐアタクシの大大大好きなバッハのチェロスイートを全部弾いてくれる。
その間、オーダー何になさいます?なんて横で聞かれても え...? って感じですっかり聞きほれてしまうほど、清らかな澄んだ音。目をつぶって聞こうものなら宇宙へ浮遊する。
そんでもって、店を出るとき、彼のチップの瓶に、ちょっと法外な、このレストランで豪華な食事が出来ちゃうような額を残してしまう。
テーブルについて、嬉しくてにっこにこ顔のアタクシ。ムーミン、ププッと笑う。
なにさ。
「いや、何でもない。よかったね。ププッ。」
何だってば。
「Nさん、『あ~~~~っ!!タリアさんとムーミンさん!』って言った様には聞えなかったんだけど。」
う...
ムーミンもN氏の演奏が好き。ギターでもチェロでもあればいいけど、とにかくアタクシのウットリぶりを眺めていると幸せなんだってさ。
二晩前とまったく同じ物(と言ってもサラダは毎日違う)をゆっくりいただいた。N氏のチェロに聞きほれながら。
やっぱりウィンクして、バッハを弾いてくれた。ムーミンが時々、いとおしそうに髪を撫でてくれた。
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のりすけ様のチェロも、きっとこうなんだなぁ。がんばってね。