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2010/05/04(火)09:08

北米古城ホテルの怪談・6・白いドレス

旅先(55)

そして、ケリーが躊躇なく向かったのは奥の、白い大理石の階段だった。 白いドレスの人はあっちだよ、と言う。            こわいよ... ロビーから上がる階段はあっちにもこっちにもあった。さすが古城だ。どっしりと広い階段もあれば、両隅にも細い大理石の階段がある。昔、着飾った貴婦人がドレスの裾を引きずりながらしゃなりしゃなりと通ったのだろう。 よく見るとうまくロココ風に偽装した防火ドアもあちらこちらにあり、それらを開くと非常階段があるらしい。実際、ロビーを見渡しただけでは階段がいくつ続いているのか容易には判らない。 ずっと続いている会議は近くの大学で開催されていた為、ケリーもアタクシもラウンジと自室と前記の特等ラウンジ以外、この広い広いホテルをほとんど知らなかった。最終日にだけ、人数を絞っての専門会議がホテルで行われる予定だったが、それはまだ翌日に控えていた。 階段の下で立ち止まった。 「まずいかな。逃げるみたいに上がってっちゃったよ。」            えぇっ!?今?今? 「見えなかった?」  ぶんぶんぶんぶんっ。見えましぇん。見たいのか見たくないのかも判りましぇん。 どういう姿なんですか?と K が聞いた。 「だから長い白いドレス。リボンも白い。白くて長い手袋。」 手袋?舞踏会にしていくみたいな? かちかちかちかちかち。変な音が耳についた。見ると E の歯が鳴る音だった。 大丈夫?ヤメとく? 「大丈夫です。でも怖いんです。どうして判るんですか?どうしてこの階段だって判るんです?」  ケリー、今、「まずいかな」って言わなかった? 大丈夫、とケリーはゆっくりと階段を上り始めた。 「でも、このロビーの階段に出るとか、メザニンの柵越しにロビーを見下ろしてるとか、それはメインじゃないのね、この人の場合」 スタッフ K+E+R:コクコクコクコク! 「頭に浮かんだ事そのまま言うけど、焦ってる。間に合わない。電話がなんとか。走って下りた。落ちた。」 K+E+R:    「落ちたのは、この階段じゃなくって、もう一つ上からで、今向かってる踊り場で死んだ?そうね?」 K+E+R:    「でも、もう一つ上って階段続いてないじゃない?おかしいな。ハズレかな。」 ケリーの言う通り、そのロビーからの階段はそのまま上に続かなかった。 階段を上りきると同じく奇麗な白い大理石の踊り場に出た。よく見ると、その広い広い踊り場のずっと奥に隠れる様に、ぐっと狭くなった階段が続いていた。 あー、ここねぇ、とケリーが頷く。            ...こ、ここって...?まさか...? 「俯いてる。ん?違う?変な俯き方してる。ここで会うと怖いのねー。」 彼女の事はこれくらいでいい?あんた達の聞いてる話とどう?合うみたい?と溜め息をつくケリーにスタッフが答えた。 私たちは彼女の事「花嫁さん」って呼んでるんです、結婚式の当日に亡くなられて、上の舞踏室で式を挙げる準備をしていて、忘れ物の事でコンファレンス・レベルの隅の、このすぐ上の公衆電話を使って、そのままこの階段を下りてこようとしたところ落ちて首を折ってしまわれたんです。当時の新聞記事もあるんです。            ぞくっ... 白いドレス+白いリボン =「花嫁さん」とは、想像していなかっただけにギョッとした。怪談なら当然白っぽいドレスの女性でしょ、程度にしか思っていなかった。「変な俯き方」とは折れてしまった首なのだろうか。 アタクシ達は、彼女が「落ちた」と言われている階段をおっかなびっくり見上げていた。彼女が死んでしまったのは、今 R が立っているあたりなのだろうか。大理石の床をまじまじと見てしまう。 「ここだけじゃないね、階段を落ちて人が死んだの。落ちて、痕がついてる、今でもその痕が見えるとこあるでしょ、床が割れてるね、この近くね、違う階段だけど」  こ、こわっ。そんな訳ないでしょ、なんで床が割れるのよ、ねぇ? とスタッフ三人を見ると              また固まってた。            こわいよー... - - - 続く あるいは、目次

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