2011/02/20(日)15:13
雪の中、ずぶ濡れの母親
雪がしんしんしんしん降る朝、
どんどんどんっ
と洋館のドアを叩く人がいた。
年末の、一人でお留守番の早朝だった。
出てみるとずぶ濡れの女性が雪かきスコップを持って立っていた。
帽子も被らず、手袋さえしていない。手が真っ赤だ。
寒そうなので、思わず、入ってコーヒーでもいかがですか?と訊いてしまった。「一人の時はドアチェーンを外さないように!」と言われているのに。
「いえいえ、でも、歩道の雪かきをさせて頂いていいですか?子供のプレゼントを買うのにお金が足りなくて、ちょっとでも稼いでやりたいんです。五ドルでいかがですか?」
うっ...
ちょうどまた雪かき競争をしなきゃ、と長靴を横目で見ていたところだった。
長靴と言えばこの人、運動靴だ。ズボンの裾もびちょびちょ。大丈夫なんだろうか。
じゃあ、二十ドルで、ウチと、お隣もして頂けますか?と持ちかけると、嬉しそうに雪かきを始めてくれた。
なんだか楽しそうでさえある。
子供のためになんて重労働をしているんだろう。大変だろうな。
このシーズンのために買い込んでおいたチョコレートの大箱があったな。それに、あの手作り石けんも喜んでもらえるかな。
彼女が雪をざくざく掻く音を聞きながら色々小さなプレゼントをかき集めた。手袋もどっかに予備があったっけ。
雪と共に、罪悪感が積もっていく様な気がする。出て行って手伝った方がいいよね。
そうだ、コーヒーを持って行こう。そしてさりげなくそのまま手伝っちゃおう。
と、コーヒーを淹れていたらまた
どんどんどんっ
とドアを叩く音。
速い!まさか、終わっちゃった?
「終わりました~♪」
わぉ。アタクシだったら一時間はかかるのに、えっと、お隣もやって頂けちゃったんですか、もう?
「全部出来ました~♪」
雪がまだごんごん降っていた。彼女の頭の上に積もっている。
凄い~。えっと、とっても助かりました。これとこれとこれとこれと、お持ちになって下さいね。で、五十ドル札しかないので、そのままお持ちになって下さい。これはお子様に。これは、もし宜しかったらご使用くださいね。
彼女が去った後、なんだか不思議な気がした。
あんなに速く出来ちゃうんだろうか?
ま、いいか。
いや、やっぱり不思議だ。
そろそろ、雪で遊びに飛び出した怪猫を中に入れる時間だし、と出てみるとやっぱり。玄関から見える所しか掻いていない!
ぷっ
と噴き出してそのまま一人でくすくすくすくす笑ってしまった。
怪猫が、そんなアタクシを横目でちらり。
そうだよね。もしかして一々ちゃんとやってたら体が持たないのかもね。
ま、いいか。
その後、お隣の雪かきをしながら、やっぱり寒かった。
けれど、くすくす笑いながら雪かきをするのは初めてだった。