『浄土ヶ浜殺人事件』〈最終回〉第8章・エピローグ 雪あかり
「あたし、あの時の川野さんと寿彦さんを見て、ちょっと感動しちゃってたんです。たしかに、百合子さんがしたことは、やりすぎでしたけど、事情を考えると…。自殺を思いとどまらせることができて、心から良かった、って思ってます」「そう、藤原さんはいい機転をきかせてくれました」 指輪の交換を見ながら、宮蔵は呟いた。「そうでなければ、私はいまごろ生きてはいません」「えっ!?」「誰もが、川野百合子は自殺しようと思っていたことでしょうが、私はシーサイド・ホテルの屋上から、激しく波のうねる崖下に墜落させられるところだったのですよ」「……」「私は、外部から来た人間です。被害者の間山が千戸市在住とはいえ、捜査の主体となるのは石川君たちなのですから。私が死んでしまえば、その後の解決は、殺人事件の経験がない、平和な宮古警察署では難しくなるでしょう。何と言っても、確実な証拠はなかったのです。百合子が自白をくつがえせば、家宅捜索はできません。なにせ、タロット占いをしている、非現実的な空気の中での告白だったからです。アパートに戻り、凶器やコートと耳を処分してしまえば、ふりだしに戻る可能性も、十分にありました」「でも、宮蔵さんを突き落としたら…」「いいわけはどうなりとできますよ。彼女は皆から同情されていました。それこそ正当防衛として、不当に彼女に詰め寄った私を誤って突き飛ばしてしまったとでも、何とでも言えるので、まさに死人に口なしっていうことですよ」「なぜ黙っていたのですか?」「証拠はありません。私が、百合子に突き落とされそうだったと感じていただけなのですから、彼女に私への殺意があったのかどうかは、わからないのです」「そんな、…」「内心の問題は裁けないのですよ」「じゃ、間山さんとのことも…もしかしたら」 美雪の心には、急に疑念が起こった。 祭壇の前では、拓海と友恵が誓いのキスを交わしていた。 外の雪あかりが原色のステンドグラスを照らし、2人に七色の光を捧げている。「いいじゃありませんか、私たちにできることはやりました」「なんていい加減な!」「人の恋路を邪魔する奴は、馬に蹴られて死んじまえ、と俗に言います。私たちは、あの戸田寿彦という誠実なフィアンセが、無事に天寿を全うできるよう、ここで祈ろうじゃありませんか」 宮蔵は、神父の頭上にあるキリストの像を見て十字を切った。「でもっ、それでは…」 美雪の反論は、招待客の拍手と、結婚を祝福する鐘の音がかき消してしまった。<おわり>☆こちらの小説は、2009~2010年にBlogで連載していたものです。☆人気ブログランキングに参加しています。トップページのバナーをクリックして下さると嬉しいです。ランキング参加中です。励みになります、ポッチをお願いします人気ブログランキングへにほんブログ村にほんブログ村へも参加しました・・・よろしくお願いします。おかげさまで、20位以内です。みなさまありがとうございます☆連載ミステリー『浄土ヶ浜殺人事件』は、無料メルマガ『まぐまぐ!』 でも配信中です。登録はこちらから:『Kazeのミステリ通信』☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『浄土ヶ浜殺人事件』の再連載にお付き合いいただきまして、誠にありがとうございました。 このあたりでは、2011年の津波が、海岸からゆっくり歩くと12,3分のレストハウスまで破壊したのを知って、恐ろしくなりました。 レストハウスからは、海がまだはるか遠くに見えるのです。 震災から2年数ヶ月経ち、地元の皆さんの努力と、日本中の方々のご厚意で、ふたたび観光地として立ち直りつつあります。 小説の中で書いた遊歩道は、ごつごつと歩きづらい岩場から、舗装して平坦な遊歩道になりました。 観光船も定期的に出ています。 載せた写真は、すべて2007年に撮ったものです。 いま、また、新しく生まれ変わったんだと思います。 平時はとても美しい海岸です。 皆様にも訪れる機会がありますように。 そして、被災地の復旧復興を心よりお祈りいたします。