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tartaros  ―タルタロス―

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2009.10.23
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カテゴリ:小説紛い
 前回の続きです。


――――――


 その恋情が、いったい、いつ頃から兆してきた感情であったのか。

 輝夜本人には、いつの時期あの頃の年とは明確に把握しかねるくらい、曖昧な記憶しか無かった。果たして自分と妹紅が初めて顔を合わせたその日からか。それとも数百年に渡る殺し合いを通しての事なのか。もしや、永夜異変の折に博麗の巫女らを肝試しと称して妹紅の元へけしかけたのがきっかけでもあるまい。
 けれども確実なのは、そのような事実を通してさえ何らの確証も、輝夜の妹紅に対する心の内をより高める結果にしかならないといった事なのだ。
 同時にそれは――遥か千年の齢を経てもなお消えぬはずであった昔日のわだかまりを、一時の忘却に供すほどの幸福を、妹紅と共にあるという事実が保証しているという事でもあった。
 
 最初は、いかに“そういった”間柄に結びついたとはいえ、輝夜自身にも恥じらいらしきものが確かにあった。むろん、最初は八意永琳や鈴仙・優曇華院・イナバらは諫めもした。特に前者など、手塩にかけて育て上げた娘が他所に嫁ぐ親のような気持ちでさえあったかもしれない。滝のような、という比喩では足りぬぐらいに大量の涙を流し流し、必死に説得を試みたものであった。
 だが、それも結局は無駄骨。
 二度、三度と逢瀬を重ねるうちに、永遠亭の家臣たちにはもはや公然の秘密のように黙認されるようになったのであるが。

 本来、蓬莱山輝夜と藤原妹紅の関係とは、男を弄んだ悪女と、父の仇を討とうとする健気な少女……とでも表現できようか。二者の間に横たわる因縁を極限まで単純化してしまえば、そう言えぬこともない。顔を合わせれば血飛沫が飛び散り、肉が斬れ裂けて、互いに骨まで粉微塵に砕け散らす。元々が共に不老不死という逃れられぬ道を歩く者同士、彼女らの殺し合いは時とともにより遊戯性の高い『弾幕ごっこ』なる決闘に変化はしたけれど、根の部分にあるのは常に変わらぬ生そのものへの諦観に違いはなかった。
 生きることが死までの一時の暇潰しと同義であるならば、永遠に生きねばならぬ蓬莱人とは全てが滅び尽してもなお存在し続ける悠久の有閑者であろう。つまり、それは、『生』なる消費現象をはじめから諦めきった腐敗なき死体と同じだと、輝夜は、口に出さず文字にも表さぬながら、いつからか思うようになっていた。

 
 だから、蓬莱山輝夜は藤原妹紅を『誘惑』した。
 その日もまた、月の蒼々とした、冷たく澄み切った晩だった。
 退屈を共有する者同士で――今度は疑似的な『死』を共有してみよう、と。

 
 まるで何かの芝居のように作り事じみた動作と口ぶりだった事を、輝夜は今でもありありと覚えている。
 具体的に、自分が妹紅と恋仲になるのを望んでいると伝えた時の、相手の阿呆面の可笑しさと言ったらなかった。いま思い出してもゆうに数分間は笑うのに易い。
 妹紅は妹紅で、千年来の因縁がどうの、慧音がどうの、と顔を真っ赤にしながらも決して首を横に振るような真似はしなかった。突然の事態で冷静な判断が追いつかなかったのもあろうが、結局は承諾してしまったところを鑑みるに――彼女もまた、この新式の『死に方』というものに少しの興味をそそられたものに違いはなかろう。


 幾分か、策略めいた伝達ではあったけれど……それでも輝夜は自身の目論見が成功した事を、朝な夕な、運命に感謝した。
 何よりも妹紅に対する好意の無くば、その意思は容易く好き嫌いを伝え合う、幼い子供の他愛の無い、ほんの遊びでしかなかったのであるから。
 


――――――


 それにしても……と、最初に口を開いたのは輝夜の方である。

 家屋の縁側に、彼女と妹紅は、寄り添い合いながら座っていた。
 どちらがどちらに大きく、ということもないが、輝夜の方が妹紅より少しだけ背が低いので、傍から見れば輝夜の方が妹紅に体重を預けている様子に見えただろう。妹紅の右隣に輝夜が座る、という状態であった。
 蒼い光がまるで幕のように地上に降りてくると、それは少しずつ銀色に変わり始める。まるで大地や岩石の成分を吸収して自ずと成長したかのように、白銀の暗幕が黒髪の少女と白髪の少女を余さず包み込むのだった。

「今更ながら、幻想郷って退屈よね。私たち若い連中が楽しむ様な娯楽なんて、ほとんど無いのだから」

「そうか? 外界から色々と入って来て、最近は何だかんだと賑やかだと思うけどな」
 
 話しながら、言葉を交わしながら、いっそう、輝夜がその小さな体を妹紅へと近づける。冷たい空気が頬に当たり、緊張の賜物である汗をひやりとさせた。ぎし……と梁が音を立てて鳴り、まるで彼女は誰かに咎め立てでもされているような気分になってしまう。
 輝夜の頭の天辺は、彼女が身体を傾かせたために、妹紅の頬に近い位置にあった。
 ……突然、妹紅が腕をどけ、身体を預ける場所が無くなった。かと思うと、次にはぐッと相手の方に引き寄せられた。途端に、心臓が強く暴れ回る。自ら近づけてくれるくらいには、妹紅は輝夜を憎からず思っている。それは、好きという感情とは違うものかもしれないが。嬉しくはある、しかし不安でもある。
 こうして近くに居ると、互いに胸や腹に大穴を開けて血を吐き合っていた殺し合いの日々が、まるで他人がものした御伽話でしかないように感じられるな、と、輝夜は思った。
 いま妹紅が輝夜を抱き寄せている腕が、かつては輝夜を縊り殺したというのに。
 かと思えば恋人に寄り添う歓喜にむせぶ輝夜の胸が、昔は妹紅が全身から血を噴き上げ苦悶にのたうつ光景に対し、無上の興奮を覚えていたというのに。
 こうして別の喜びにとって代わられた現在となっては、そもそも“無上の”という言葉を使う事さえ滑稽味を感じずにはおれないけれど。
 

「妹紅はずぅっと山の中を駆け回っていたのだから、そう思うのも当然でしょうけど……絶望するには希望を知らなきゃいけないものよ」

「もっともらしい事を言ってるようだけど、要するに、都会の人間に田舎暮らしは合わない、って?」

「おおむね、そんな感じだわ」

「千年前からずーっと思ってたことが、今ようやく確信に変わった。やっぱ嫌な女だよ、お前は」

 そう言うと、妹紅はカラカラと笑った。
 言葉こそ非難の色を帯びてはいたけれど、何の屈託も無い笑顔には、輝夜に対する一片の敵意も宿ってはいないはずだ。本当に親しい者のみが互いに交わし得る、戯れとしての悪罵であったのだろう。輝夜は妹紅から罵られるという事にさえ、幸福を感じずにはおれなかった。誤解の無いように一言しておけば、決して被虐的な快楽が彼女の胸に兆していたという訳ではない。こうして純粋な好意のみによってに成り立つ冗談や皮肉を、何気なく遣り取りできる関係に自分たちがなっているという喜びこそ、彼女の感じていたものだった。

「酷いわね。私はこんなにも綺麗なのに。身も心も」

「身の方はともかく、心の方には全くもって同意できかねるなあ私は。輝夜のは真っ黒だろうが」

「あらあら。千年も前の恨みを今に至るも引きずっている誰かさんよりは、純粋という自身があるわ」

「よく言うね……」

 呟くと、返す言葉がうまく見つからなかったのか、妹紅は黙り込んだ。
 その間隙を埋める様にして、輝夜がさらに妹紅への密着の度合いを高めてしまった。今度は妹紅の身体の方がぴしりと強張る。それというのが輝夜の方にさえよく伝わって来るくらいに。
 ――何て、華奢な身体なのだろう!
 輝夜は改めて、藤原妹紅の肉体の、少女らしい部分に驚嘆せざるを得ないのだ。
 抱きしめられた事ももう幾度あったかは知れないが、その度に思う事を、今回もまた考える。
 幾度もの戦いを経験してきた人物なのだから、当然、分厚い筋肉が骨を取り巻いているものだとばかり思っていた。そうでなければ戦いの際に、こちらの弾幕を敏捷な動きで掻い潜るなどできるはずも無いと思えたからだ。

 けれど妹紅の少年にも似た痩身は、とてもではないが筋肉の存在を感じさせるほど鍛えられているようには到底思えない。布越しに掌に触れる柔らかな皮膚は、呼吸とともに小さく蠢きながら輝夜の愛撫に微小な反応を返してくる。指で押せば、まるで小動物の腹を思わすようなとろりとした柔らかみがよくよく伝わってくるのだ。
 冷静に考えてみれば、不老不死なのだから、蓬莱の禁薬を飲んだ時点で成長も老化も、それどころか太るのも痩せるのも、あらゆる肉体の変化は完全に停止するのだ。つまり、千年前と妹紅の身体は寸分も違う所が無い。
 それが解っていながら、輝夜は妹紅の肉体に嫉妬さえ覚える。
 恋情ゆえの嫉妬である。
 ただ、今この時に、その肉体の全てを自らが所有できていないという事実への嫉妬なのである。

 もう何度、自分はこの少女を蹂躙し、また蹂躙された事だろう……不可能な回想を試みる度に、輝夜の手は、妹紅の身体に触れる度合いを高めていく。





……続く。 


 





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Last updated  2009.10.24 00:49:15
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