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2009.11.09
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カテゴリ:小説紛い
 前回の。


 ――――――

 それは、本当の意味で『容喙』であった。
 まるで突き刺すような接吻だった。
 輝夜の四肢に力がみなぎる。対して妹紅の手足は腑抜けてでもいたのか。前者が仕掛けた突然の行為に後者が驚いたという事でもあったが、幾夜も行われ、また求めてきた、ありふれた営みでもあったからだ。輝夜は妹紅へ自らの全体重をかけて倒れこむ。妹紅もまた、さして拒む気配も無く受け入れる。二人の少女は音も無く倒れこみ、妹紅のすぐ上に厚い単衣越しの輝夜の小さな肉体が重なり合った。輝夜は妹紅の唇に自身の唇を浸し続け、妹紅は自分の顔に真っ直ぐ落ちかかって来る輝夜の髪を、自身の手を櫛に代えて梳くようにした。その手が、やがて髪を通り抜けて輝夜の額や頭頂を撫で回す。犬の頭をぐしゃぐしゃとするような力の籠ったもので、輝夜は肌を越えて奥の奥まで達しそうな妹紅の身体が放つ体温を、快楽の黒い先触れと解釈した。
 互いの衣服がするすると擦れ合う音に対して、輝夜は期待というより不安を覚えた。この先に何が待っているのか。また自分がいったい何をしようとして、妹紅もそれを承知しているのか。むろん解りきった予測だ。けれども二人の結びつきを奥底まで導こうとするこの熱情の試みを、冷静に眺めているもう一人の蓬莱山輝夜が居た。次第に互いの着衣が乱され始め、夜気に冷え冷えと露出の度を深めていく少女たちの様子を、遠くから『蓬莱山輝夜』が、その両の眼を光らせながら見ているのである。その瞳の色が何であるのか、妹紅に抱き締められている輝夜には解らない。普通であって良いはずがない。あるいは、あの天にかかる瞳が化身して地上に顕れたのかもしれない。
 終局に向かうほどに昂ぶっていく肉体とはまるで裏腹の冴えた心を輝夜は自覚した。しかし、飽いているのとは違う。確実な酩酊の中に自分を落とし込んでいたはずだ。彼女は、妄想に向かって醒めようとしていた。現実と空想とを、繋がろうとする肉体に一体化させようと目論んだのだ。
 既に互いの半身は丸裸に近い。布切れが身体に引っ掛かっているような状況だ。輝夜は妹紅の唇から頬、首、乳房へと唇を滑らせる。その度、妹紅は何かを言った。呻いていたのか。泣いていたのか。
 胸に隆起する二つの山の稜線をふと指でなぞり、天辺を指で強く押すと、妹紅の口から吐息混じりの何かが漏れた。輝夜、と、言っているのが解った。衣服と同じくらいに乱れた白い髪の向こう側に、月光に照らされた額が見える。光っているように見えるそれは、恋人が今まさに輝夜を受け入れているという、電流じみた快楽の何よりの証拠だ。薄く閉じられかけた瞼から、濡れそぼった両眼が輝夜の顔をじッと見詰めている。艶めかしさへの感慨を、輝夜は新たに思った。きっと、自分も同じような顔になっているに違いない。
「ねえ……妹紅」
「ん……なに」
「私、あなたが好きなのよ」
「私も――だよ」
 わざわざ言葉を弄しなければ、相手が自分から離れてしまうのではないかと、輝夜は不安になる。結び付くという事は、全てを共有できるということ。しかし共有するという事は、自分の分を譲って相手と共存しなければならないという現象でもあるのだった。
 妹紅の熱い手がゆっくりと、残った輝夜の衣服を取り払い、彼女の裸身が蒼々と月に照らされた。何の瑕疵も存在し得ない完璧な美しさ。否、あまりに完璧すぎる。瑕疵の存在が認められた瞬間にこれまでの世界は絶対に回復できない過去のものとなってしまうくらい、輝夜の全ては美しい。妹紅の手が、今度は輝夜の乳房を不器用に弄び始めるに至って、ようやく輝夜の心は妹紅との本当の共有を手にする事ができるような気がして――外貌にはまるで反する醜い満足が、彼女の精神を満たすのである。
 輝夜は妹紅が欲しかった。愛玩ではない。恋情という言葉には、最も近い感情である。『好き』の一言は方便か? それは、違うと断言できる。たとえ、醜さの一念が偶然にも恋情とよく似ていたとはいえ、蓬莱山輝夜は藤原妹紅を愛していた。だからこそ欲しかったのである。蓬莱人である故に彼女らは永遠に一つに成れない。世界が滅びてしまうまで、あるいは世界が滅びても、互いに独りであり続けなければならないのが宿命なら、肉体という外殻を捨て去る事での融合など夢物語という言葉ではまだ足らぬ。永遠に生きていては死にきる事ができない。しかし死という地平に等しく歩けば、少なくともその間だけは破滅的な悦びを共有し続ける事が出来るのだ。そして、輝夜には破滅する事しかできないのだろう。それを知る限り、輝夜は進んで死に続ける。二つのものが一つになる可能性――常人であればまだ模索ができたはずの可能性を放棄した彼女にとって、破滅とは明確な願望だった。何故ならそれは、絶対に手に入らない藤原妹紅という少女を求め続けた蓬莱山輝夜の、『たった一つのもの』への憧れを、束の間、叶えてくれるかもしれぬ望みであったから。
 ――そして、『たった一つのもの』に成れない二人が、唯一共有できるものこそが、何より死ぬ事であったから。
 輝夜は、妹紅の腹を撫でた。
 言われなければ気付かないほどにひっそりとした撫で方ではあったが、しかし半身に対して再三の刺激を受けた妹紅の感覚は十二分に発達している。それだけでも大きな快楽へと連結されてしまう様子で、彼女は顔をかッかと赤くしたまま口を二、三度ぱくぱくとやった。ああ、何だか魚みたいね、と、輝夜は可笑しみを禁じ得ない。臍の周辺を少しだけ強く押すと、細かな産毛が指に触れた。月の光は小さな変化すらも明瞭に描き出してしまう。暑熱から逃れて冷たい川の中に手を浸しているような心地よさの中から、輝夜はさらに明瞭さが欲しくなった。
 急に、片手に握られた抜き身の短刀が思い出された。短刀を握る腕は、肘から先が造り物であるかのように神経に直結しない不出来な錯覚に支配されていた。何ものにも左右されず、ただ情念と眼前の光景にのみ突き動かされる挿入のための器官。女である自分には解らないが、いわゆる男根とは、こんな感じなのだろうか……と、彼女は考える。
 柄を握る掌に、じとりとしたものが走った。
 汗のように水に近くも、同時に血のように生臭くこびり付く不快感のために、輝夜はひどくクラクラとした。そして、確信した。自分たちが束の間の破滅を共有するために、これを使わねばならない。出来損ないの男根を真似た欲動で、妹紅を貫かねばならない。これを行っていいのは蓬莱山輝夜ただ一人。何ぴとも、いかなる王や皇帝も、神ですらも自分たちの儀式への介入が許されて良いはずがない。
 輝夜は空想の中で立ち上がる。遠くに見えるもう一人の自分の素っ首を短刀でスパリと断ち落とすと、奇妙にも流血は起こらない。血糊が刃を濡らす気配もない。妹紅と交わる本物の輝夜は僅か横たえた我が身を落とした。屹立する裸身の像を、感情の無い、快楽だけに支配されかけた妹紅の目がじいと見入る。
 また、不安になった。
 妹紅は、もう自分一人だけの存在ではないように思われてならない。どこかに行ってしまったのではなく、これから離れて消えてしまうというのでもなく、ただ漠然とした寂寥が、彼女の頭に蜘蛛が巣を張るようにして陰影を刻もうとしていた。早くしなければ、何もかもが間に合わなくなってしまうのだと。
 妹紅の両眼が、閉じられているのを見、輝夜は「ああ、良かった」と心底から安堵する。これから冷たい刃を相手の心臓に突き入れる自分の顔は、まるで肉の交わりとは違う惨憺たるものへと変ずるに違いなかったから。
 塔のように真っ直ぐ、切っ先が少女の胸へと触れようとした。心臓を一突きにしなかったのは、あるいは慈悲でなかったのだろう。ただ殺すのでなく、融けるように自分と一つになる様が見たかったのである。妹紅が輝夜の頭を撫でてくれるように、輝夜もまた妹紅の魂魄(たましい)まで、撫でつくしたいという願いがあった。
 噴き出した血は案外と勢いを持たなかった。輝夜は少々、拍子抜けの体(てい)である。黒々と妹紅の肌を濡らす血の溜まりは、これから崩壊する世界――擬似的で悪質な諧謔の扉だった。妹紅の両眼が飛び出さないばかりに見開かれ、痛みを感じたであろう刺突の跡へと、芋虫が這うように視線が動いた。
 これで目的を果たした……そう思うと、無情の悦びが沸々と湧き上がって来る。輝夜の手から既に放られた短刀は、刀身を月光に嬲られながら自分の役目を果たした事への誇りを抱いているようですらあった。
 ごぼ……と、血の泡立つ音が聞こえる。
 妹紅の喉を遡った血が、気道を塞ごうとしているのである。
「やっぱり――嫌な奴だよ、輝夜(おまえ)」
 妹紅は笑った。胸だけでなく頬まで切り裂かれたような顔を無理矢理動かすようなぎこちないものではあったけれど、鋭い苦痛に圧されて、それでも喘ぎ喘ぎ、精一杯の笑顔を作って見せていた。憎む相手に、まして千年余りの仇敵に見せる笑顔にしては、あまりに正と陽の濃密さに満ちた笑みだ。
「これが、始めっから目的だったのか……私を殺す事が」
「違う」
「違うモンかよ。ずいぶん、何の躊躇いもなしにぶッ刺してくれたじゃない」
「違うのよ……私は――」
 失敗。不能の男が自身から欲動を放ち得ないように、妬(うまずめ)の胎より何も見出されはしないように、目的は失敗したのだった。
 嗚咽が始まり、輝夜の頬を一つ、二つ、蒼い光を吸い取った涙が伝っている。
 寂しかった、と、言い差して、輝夜はようやく自身の心情を見詰めている事に気がついた。それは、理性や激情といった類のものではなかった。一片も言語化され得ない、ただそれのみで構成される不可視の世界が築き上げられていたのである。空想の中で確かに首を刎ねたはずのもう一人の『蓬莱山輝夜』が、遠くに立っているのが見えるような気がする。“彼女”は無表情のまま、静かに、怜悧に、現実を観察している。――否、全ては胡蝶の夢なのだろうか。月に狂わされた残忍な試みをもたらす女が幻想で、軽蔑を覚えながらひたすらの嫌悪を抱き続ける女が現実なのか。何一つも、解らない。
「――なあ、輝夜。私は、お前が好きだよ」
「……うん」
「なら、殺してくれ。完全にさ。極楽よりも極楽的な死に落ちるんだ。そうして、地獄よりも地獄的な生のど真ん中に、また二人で叩き落とされようじゃないか」
「……………うん」
 だって、互いを殺し尽くす馬鹿みたいな恋を、私たちは幾百年も続けてきた…………。
 血混じりの苦しい告白が、夜気に吐き出された。
 それをまじまじと見つめる間もろくに与えられぬまま、喉を圧される熱の塊を輝夜は知った。妹紅は哭いていた。おそらく、輝夜も哭いていたに違いない。先刻、輝夜の頭を撫でた両手が、今度は頸を圧迫している。永遠の生と須臾なる死の合一に向かって、ゆっくりゆっくりと歩み始めているのである。それは、冷たくざらついた快楽ではなかった。優しさに満ちた苦痛だった。
 身体の奥底に響く、何かが崩れる音を意識して、輝夜の精神は完全に閉じられた。これが束の間の融合でしかなかったとしても、彼女は幸福――だと、信じたかった。
 ゆっくりと閉じられる両の瞼の向こう側に、やはり『蓬莱山輝夜』は立っている。
 何も語らず、笑みすら浮かべず、彼女は、赤々と血の涙を流していたような気がする。
 眼下に満ちた赤い情景の感覚から遊離した何かが、ごく短い間だけ眼の珠になった月を介して、芳しい匂いが立上り始めた地上を見下ろしている。
 数刻ののちにそれが離別の宿命に気がついたとき、東の空は全ての寂寥から解放され、白々と再生を始めていた。
 


<了>






Last updated  2009.11.09 22:13:01
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