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2007.08.30
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カテゴリ:本@浅田次郎
浅田次郎の本。




それぞれに功なり財なり名なりを成した人たちが集まり、誰にも話せぬ経験談を語る。

偶然の成り行きでその席に居合わせた主人公は、傍観者としてそれを聞いている。

一人が一話を語り、一話が一章を成し、5章が収録されている。

怪談ではないという点を除き、イメージは百物語に近い。



ここ最近、浅田次郎ばかり読んでいるが、この本ほどまとまりの無い本は無いと思う。

でも、そもそも「百物語」とはそういうものだ。

百物語には「怪談」という共通項があるが、ここで語られるものには無い。

代わりに「他では語ることが出来ない経験談」という共通項が与えられる。

しかしそれは、小説という虚構を求める読者には大して意味を成さない。

つまり、共通項というものが全く無いのだ。



「他では語ることが出来ない経験談」という以上、

恐ろしい話には違いないのだが、何よりも怖いのは、

これが「浅田次郎」というたった一人の作家によるものだということだ。



元々、浅田次郎はとても幅の広い作家だ。

『プリズン・ホテル』のような任侠物。

『蒼穹の昴』や『壬生義士伝』のような歴史物。

その両方を組み合わせた『シェエラザード』。

『天国まで百マイル』のように現代物もある。

長編を得意とする作家かと思えば、短編も多い。

とても幅が広くて、任侠物の後で純文学系を読むとひっくり返る。

逆もまた。


が、この『沙高楼奇譚』では1冊の中で何度もひっくり返らされる。



モノカキ、ということをしたことが無ければ分かりづらいかも知れないが、

物を書く、ということの前提には、想像力や文章力のほかに、膨大な知識と経験が必要だ。

だから、ファンタジーが得意な人はファンタジーに

歴史物が得意な人は歴史物に、恋愛が得意な人は恋愛に、

といったように、ある程度作者の得意分野や偏りというのがあるものだと思う。

それが、浅田次郎には無い。



この本ほど、浅田次郎の幅広さを感じさせられる本は無かった。

初めて、浅田次郎を「怖い」と思った。






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Last updated  2008.03.14 15:43:31
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