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Shige's dialy 「食寝遊」

第4部

オーバーナイト・サクセス

昨日まで本気モードはどこへやらの哲哉が、タコの取材で気を良くしたか、

それまで横浜組に気を使っておとなしくしていたのかわからないが、

今夜はやる気満々状態で黒い船に乗り込んだのだ。

湖面は次第に静かに、そしてやさしく、油を張った様におとなしくなってきた。

対岸の景色がはっきり映り、まさに鏡だ。どこからとも無く、

ムーンライトセレナーデが流れてくるような気がする。

夜のべた凪の海はロマンティックな雰囲気をかもし出す。

アングラー・イン・ザ・ムーンライト・・・3人を乗せた黒船はすべるように湖上を走った。

今夜が最後だ。釣れても釣れなくても最後の滑走。

この景色は今日のこのひと時のみの現実だ。写真や小説には表現されることは無いのだ。

僕は心の中ですでに今回の旅のフィナーレを感じていた。

走る船の前だけしか見ることが出来ない自分がいた。

「良太、もっと早く走れ!もっと早く風を受けていたいから・・・・・・」

湖上にライズする魚の気配は無く、昨日ほど全体にいないようだ・・・・

哲哉が聞く。

「どっち側に投げればいい?良太?」

「こっち側がいいねえ、あの &%$#”’()=’$!% のところなんかに投げてみて・・・」

言うことを聞かずに反対側の %$#”#$%(=)’&%$# に投げる僕。

今日は昨日とは違う戦法を取っていた。

はなからねばるつもりだ。

宙を舞う漁多ONE。

ラインの着水がはっきり見えてくる。

真っ白なキャンバスに筆を走らせるように・・・・

水面に浮く埃の一つ一つが見えるようなコンディションだ。

黙々と同じラインをトレースする哲哉。

もともとファイトが派手じゃない哲哉はリトリーブも加賀式だ。

「加賀まき・・・ナーンチャッテ。へへ。」

などといっている哲哉は今日、良太の言うことを聞いてスピニングタックルだ。

加賀式の哲哉は魚をかけてもバサーのそれのようにのけぞり合わせをしない。

世界一静かな浜名湖上のゆっくりとした時間を切り裂いたのは哲哉だった。

僕のところからは最初の魚はかけたのかどうか分からなかった。静かなフッキング。

「ん?釣った?・・・・」などと余裕を出していると、でっぷりとした魚がゲットされた・・・

50オーバーといったところか。昨日の群とはまた違う魚のようだ。

「さ、先を越されたか!」

しばらくして良太がかける。

良太はダイナミックなあわせとファイトだ。

やはりロッドが大きくしなる。

駆け寄ってアシストを買って出た。

昨日のようにでっぷりとした魚体が見えてくる。

「でかい」

流れを考えてネットを構えたが、今日の流れは格別に効いていて魚を追いかけるのがやっとだ。

右舷に回り込み、ボートエッジへ・・・・

魚が腹を見せた瞬間、ネットイン。・・・・と思いきや入っていたのはルアーだけだった。

なんとアシスト失敗。

昨日のサイズをエッジまで寄せてばらしてしまった・・・・

アシスト失敗の責任を感じて凹む僕を良太が慰めている状態が5分くらい続き、

2人とも釣れているのに僕だけ釣れない状況を悲観するようになってしまった。

僕の心の声


「クソー、なんだよ、俺だけ釣れねージャン・・・・さっきからラインはトラブるし、バウは占領してるのに何で俺だけ・・・・?」

「哲哉の投げているポイントに魚固まってんじゃねーか・・・?俺にも釣らせろよな~」

「待てよ、俺のルアー、届いてない?・・・いやそんなことねーよな・・・」

「レンジか?リトリーブスピード?・・・あ~、もう。なんだよネットははいらねーし」

「いかんいかん。こんなときは釣れないとどんどん凹んじまう・・・・僻みだよなあ・・・」


あせりと苛立ちがいっぺんに僕を包み、鏡の湖面はその僕を映し出すように釣らせてくれなかった。

さらに哲哉がまた同サイズを追加した。(またかよ~!!何、爆ってんだよ~!!)

ここまで来ると精神力も限界か・・・・と思っているとまたトラブル。

こういうときは自分のタックルも安物だから伝わるフィーリングにもいちいち頭に来たりする。

最低限のタックルは準備しなくてはならないのはこういうシチュエーションのためだといつも思う。

あせりは集中力の低下を生み、釣が乱雑になる。当然トラブルは増え、泥沼に・・・・

程なくして作戦を変更した黒船は僕に最後の魚を釣らせてくれることになった。

精神力はほぼ限界だったに違いない。伝わる魚信、走り寄る良太、ニヤリ、笑顔の哲哉。

僕のラスト・フィッシュは哲哉の群と同じ仲間だった。

結局哲哉は調子にのりまくり、連続的に3本釣って文字通り入れ食い状態を味わい、

長い間苦しんだ“浜名湖ボウズ”からの脱出を遂げた。

僕は何とか釣らせてもらった感じになったが、そこは単細胞な僕のことだ。

今までのことが全部吹っ飛び、にわかに胸を張って喜びを隠せない。

飴玉で泣き止む子供のようにはしゃぎながら帰着した。僕が僕でよかったと心底思った。

昨日ほど盛り上がることは無い帰着だったけど、大きな達成感と一味違った浜名湖の苦戦を味わった夜となった。
(釣りに出なけりゃわからんのぉ・・・・)


sunday
チョッと引きつっているところがこの日の釣果を物語っている



風の谷のナウシカ


一夜明けて。

すでに良太はチャーマスを連れて湖上に出ている。

今日は雑誌“ソルトワールド”の取材が来ているのだ。

“アナログ編集長”で有名な高橋さんとチャーマスこと北村さんを乗せた黒船はすでに桟橋にいなかった。

駐車場には東京からはるばる来たチャーマスのタックルたちを積んだ車が強い日差しにさらされていた。

キスとアサリを獲ってきてBBQにしよう。というのが今日の計画だ。

早速みんなで出撃。

僕はたまちゃん艇に、哲哉は幸二艇に、それぞれ分乗してポイントに向かった。

また幸二艇は一流しごとにランカーキス(25センチ級)をゲットしている様子だ。

幸二艇が移動すればそこへ行って流れの下に入り、わざとらしく「この辺釣れますか」などとふざけあう。

こちらの船が移動すれば、やはり近寄ってきて「イタダキマース!!」と下に周る幸二君。

捕獲は幸二艇に任せて実はのんびりする。

そんなのどかな時を過ごした記憶が浜名湖の景色とたまちゃんが正面に座る画像となって僕の頭の中にインストールされてゆく。

暖かく、すがすがしく、透き通った感覚。

「それなりに大漁になったし、アサリに行こう。」となり、幸二君の嗅覚を頼りにポイントへ移動した。

潮干狩りというのは潮が引き、瀬が浮き出して水がなくなった状態で砂を掘ってアサリやハマグリを捕獲するレジャーだ。

浜名湖ではあちこちに瀬があって潮干狩りが盛んだが、木更津や富津ほど全部海岸が砂浜になってしまうようなことがない。

また、瀬の水もそこまで干上がることもあまりなく、完全に干上がってしまう干潟にはならない。恐ろしく浅い瀬に、アマモが生い茂り干潮時にはアマモは横たわり、満潮には潮に揺らぐ。

浜名湖の潮干狩りはそんな中で行われるから、絶対干潟という方にはお勧めできないし、濡れずに帰ろうと思ったら出来ない。

説明が長くなったが、このときみんなのスタイルはシャツなしのウェーダー姿だった。暑くてやってられないほど、夏は勢いを増していた。

例によって幸二の嗅覚は鋭くアサリの住処を嗅ぎ分けた。

いい風がふいている・・・・

金色の瀬に降り立ち、妙な恰好をしてアサリのいるほうを指差す者・・・・・

映画「風の谷のナウシカ」を思い出すシーンだ。

なかなかロマンチックな僕たちであったが、インストラクターがその瞬間

「ブ、ブブ~~」っと腐海ガスをウェーダーの中で放出した。

風下に居たみんなは胞子を吸い込んでしまい

「し、しまった。少し肺に入った・・・・」

タマちゃんの腹筋をキョシン兵が襲ったことは言うまでもない。

本人は「ウェーダーの中の事件」だということを後悔してもすでに遅く、顎を空に向けて苦しんでいる。

腐海の胞子に全員やられて顔の筋肉に影響が出始めて治らなくなってきた頃、アサリも所定の量を超えていた。

本当はいつまでも獲り続けていたかった。

とってもとってもあさりは出てきて、手を止めることが出来ないほどだったし、この時間が永遠だと信じたかった。

かっこつけて釣自慢をしたい。でもこんなときこそ、釣をしていてよかったと素直に思うのだ。

釣っているわけではないのに浜名湖の上で仲間との時を楽しめる、

最高に楽しいひと時だ。本当はただここにいたいだけなのかも知れない・・・・・

死の悶絶に苦しむ幸二の姿が、腹筋を痙攣させて苦しむタマちゃんが、

そっと風上に逃げる哲哉の姿が、僕のCドライブに記録されていく。

時間はスローモーションとなってこの夏が永遠より長いことを感じさせる・・・・・・

ちなみに僕は風上にいて、幸二君の昨日の食卓を予想する権利を得なかった。

風の湖の神は僕を最後まで守り通したと言わざるを得ない。

そして僕の背中にはこの夏消えることのないウェーダーのカタヒモの日焼けあとがくっきり残った。




俺たちの旅


BB&Qバンドというバンドがいて、「リライト・マイ・ファイヤー」という曲が大ヒットした。

僕が高校生のときに新宿のディスコに行けば必ずといっていいほど「盛り上がるとき」にDJがチョイスしていた。

関係ないが今回最後のBBQはチャーマスと高橋さんを入れて楽しく始まった。

というか、誰かがいればいつもこんな風に始まるのがOOP・Sだ。

釣ってきたキスの天ぷらはタマちゃんが、キビレの塩焼きは炭火で。

昨日のようにクロ焦げにならないよう、火を遠くしてチャレンジした。

ランカー級のシロギスは天ぷらにしてもランカーで、とてもシロギスとは思えないサイズで皿に盛られた。

25センチをゆうに超えるキスをこれだけ揃えてくると、サイズに麻痺してしまう。

みんなそれぞれに浜名湖の幸を楽しんで青空の「沖裏」は盛り上がっていった。

中でも僕の一番の印象は、いやなやつは誰の目にもいやなやつに映っていることを確認できたこと。

初対面の北村さんと、共通の知人がいたのだが、その男のだらしなさの天下一品ぶりに話が盛り上がってしまった。

いないやつの悪口は本当に蜜の味か・・・・?

海の釣りで無理をして事故を起こすバカどもの話もした。

無理なウェーディング、悪天候の波止、マナーの問題・・・・・

最近流行の(古いか?)グラスのワンピースで青物を狙うスタイルの話と、八丈島のカゴ師の話が混同して・・・・・

「あの竿でヒラマサをやるんだよね~」

「そうですね、3号の63くらいでしょうか・・・」

「あのべなべなのヤツね」

「・・・・・・」

あとから思い出すと、北村さんはグラスロッドを、僕は磯竿を、それぞれ想像して話していたに違いない。

もっとゆっくり話をしたいと思いながら時間はどんどん過ぎていった。

楽しいときはすぐに終わってしまう。

「後から追いかけます」と、東京での再開を約束して北村さんを見送った。

北村さんとは意外にヤサが近いということはわかったし、お互いの会社がめちゃくちゃ近所だった。

こんど会社にお邪魔しよう。

後日、この日の記事がソルトワールドの誌面にほんの少し掲載されたことが僕の笑顔を呼ぶことになる。
(僕の姿はページの端で切れかかっている。高橋さん、今度は真ん中に入れてくださいね、僕のほうが先に黒鯛も釣ったことだし!(笑))

北村さんたちが帰ってしまうと、普段の僕たちがそこに残っていた。



こんなひと時が一番かもしれない



いつも僕が帰るとこんな雰囲気になってしまうのか?

いや、僕は別れが辛いから帰りはいつもそそくさと帰ってしまうし、あとに残すものにこんなに悲しい別れを残していかない。

僕自身が本当にもろいから、早くアクセルを踏みたいのだ。

旅の終わりはいつもそうだ。


aozora
あとは帰るだけ・・・・・




夏の日差しが勢いを増して行く

ちよがくるくる回っている。僕にお別れを言っているのか・・・・・

それぞれのお土産にいただいたアサリに養生をして帰り支度を始める。

哲哉が持ってきたガムテープがなぜかすごく役立った。

フィッシング沖の店先がバックミラーに写って、帰路の緊張を呼び起こした。

別れの挨拶のクラクションは花博でにぎわう浜名湖の空に響いた・・・・








あとがき

完結編を書き下ろしているいま、すでにもう一度浜名湖に行ってしまって、そのレポートの構想を作り始めているが、なんとしたものか。
仕事は繁忙期を迎え、東京湾奥の水は悪く、仲間とのミーティングもなかなか出来ないでいるが、しっかり秋の浜名湖計画を始めているから小生、悪人極まりない。

この号で触れたBBQだが、浜名湖の幸をこのスタイルで食し、泳ぎ、飲み、釣り、青空の下で昼寝でもしたらもう中毒になること請合う。

今年の夏は異常に暑く、7月の平均気温の昨年より7度以上高いとか何とか。道理で帰って来てから日焼けで腕が象のように腫れてしまったわけだ。何しろ暑かった。

今回の企画は、東京で仲間になった友人と浜名湖に挑戦することが本題だった。
本題は大成功したし、満足な結果だ。

さらに、良太の取材が重なり、地元紙ハロ・フィやソルトワールドとの出会いという大きなおまけつきだった。

横浜の仲間は、記事が掲載された号はすぐに購入したらしいし、ハローさんは後に行ったときに店までたくさん持ってきてくれた。なんと太っ腹な出版社だろう。
どっちにしてもいい人たちばかりだった。

アナログ高橋さんもはまった黒鯛は、このときチェイスを見せるだけにとどまったが、次号「自分の釣りを突き通せ!!」では一応釣ったから期待して欲しい。

毎回、このたびをサポートしてくれる浜名湖の仲間達に感謝したい。この場を借りて敬意を表します。本当に有難う。

Special thanks, 柴田夫妻、フィッシング沖のゲストの皆さん、メンバーの家族の皆さん、そして未来に生まれてくる子供たち・・・・・・・・・・・浜名湖は素晴らしい。





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