水素社会で日本は没落する
地球温暖化の議論が喧しい。地球が温暖化するのは人類の活動のためだ。特にエネルギー源として石炭、石油を燃やしてCO2が大気中に増え続けるのが元凶だ、これを停めなくてはいけないという。一方で、CO2は人類の活動で増えているが、それだけでなく自然に増えているという意見もある。しかしCO2の増加が気温上昇に効いているという研究が2021年のノーベル物理学賞をもらったこともあって、地球温暖化の最大原因としてCO2を攻撃することに世界中が熱狂している感じである。日本でも前首相の菅は2050年までにCO2排出をゼロにすると宣言した。もう今では議論どころか、2021年イギリスで開かれたCOP26では「ガソリン車とハイブリッド車の販売をやめる」ことを決めて、日本に圧力をかけている。しかし、CO2排出ゼロ運動の結果は、必要なエネルギーのすべてを石炭・石油以外のエネルギーで賄うことができたとしてもエネルギーの無駄遣いとなる。究極のCO2排出ゼロは、植物の光合成の仕組みを人工的に完全に真似るしかないと思う。第一次エネルギー源として認識されている石炭や石油を燃やしてエネルギーを得る代償として、CO2が大気中に放出される。これを停めるということは、石炭や石油に代わる第一次エネルギー源が必要である。石炭や石油以外の第一次エネルギー源として考えられるのは、原子力、あるいは太陽光、地熱、潮位差、さらには太陽光エネルギーのおかげである水力、風力、潮流などで、これらをを利用することで人類の生存に必要なエネルギーを生み出さなくてはならない。最有力のエネルギー源である原子力の利用は、すべてが上手く行けばこれに勝るものはないと思われたが、人のやることに完全なものはないみたいである。1979年アメリカのスリーマイル島の原発がメルトダウンを起こした。1986年のチェルノブイリでは制御が効かなくなって原発がメルトダウンを起こしてしまい、9000人が死亡したという。これらの教訓があったにもかかわらず、2011年には地震に伴う津波で冷却装置が効かなくなって福島では原発がメルトダウンを起こすという惨事となった。福島原発事故は、明らかに人災であり、人智を十分張り巡らせることで未然に防げたはずだが、これは後の祭りである。人とはそんな程度の情けない知性の持ち主だと知る必要が有ることを私達に教えたと思う。第一次エネルギーは自動車など直接燃焼をする以外は、電気として利用されている。保存が利かないという不利な点を抱えていても、電気は利用し易さが随一のエネルギー源なのだ。石炭・石油に代わる代替エネルギー源として一躍おどり出たのが、水素である。その先にあるアンモニアもエネルギーとして注目したいという意見もあるが、アンモニアを生み出すには水素以上にエネルギーを浪費しないといけない。ナンセンスである。水素は石油に代えて燃焼することで(発電にだって使える!)役立つし、高圧にすることで液体となるので保存・輸送ができるし、水素は直ちに燃料電池として電気に変えられる。水素はいい事ずくめだが、水素をエネルギーとして用いるためには、まずは水素を作らなくてはならない。これには、かなりのエネルギーを消費することになる(コストがかかる)。石炭・石油は水素と炭素の化合物だからこれを還元することで水素が得られる。水素を得るにはこれらを触媒と一緒に高温で処理すれば良い。しかし、この高温処理にはコストがかかるだけでなく、邪魔ものであるC02が必ずできるし、できた気体の水素を運べるように圧縮する必要がある。いずれもコストがかかる。つまり石炭・石油から水素を作ってエネルギー元として利用するのは、エネルギーを大きく損じている。石炭・石油を直接燃焼してエネルギー源として用いれば厄介なCO2が同じ量だけできてくるが、更に水素として利用するためにはコストを掛けることになる。水素は単体では自然にほとんど存在しないが、水の成分なので地球には膨大な量がある。その水を電気分解すれば水素を生産できるが、生み出す水素の見合うだけの電気エネルギーを消費することになる。電気を太陽光などの自然エネルギーで全て生み出していれば最高だろうけれど、例えば、ソーラーパネルの生産、風力発電の風車の生産などにエネルギーを使っているわけだ。どのくらいエネルギーが必要なのか、私には計算できないが、それを述べた文書をまだ見たことがない。ともかく、水素社会は今よりもエネルギーの多消費社会になるのだが、日本人はそれを知って賛成しているのだろうか?1980年代には日本はアメリカについで豊かな社会だったが、今すでに日本はいわゆる先進国の中では下から数えられるほど貧しくなっている。日本が落ちぶれてきたのには様々な理由があるが、資源がないのが最大の理由である。CO2ゼロ社会を目指すということは、今の技術のままでは、日本の国力はジリ貧となるしかない。CO2を出すのが反地球的な犯罪だから、日本も水素社会にならざるを得ないとしても、水素を今よりも効率的に、しかもCO2を排出せずに生産する方法を生み出す必要がある。一つは太陽エネルギーによって直接水素を水から生産する方法だ。英ハイドロジェン・ソーラー社の『タンデム・セル』技術は、すでに8%を達成しているという(https://wired.jp/2004/12/09/太陽エネルギーで水から直接水素を作る新技術、/)。もう一つは植物の光合成に習って、水とCO2 から太陽光エネルギーで糖や炭化水素などの有機物を合成する方法だ(人工合成は触媒により水を分解してまず酸素と水素を生み出すので、第一の方法の先に来る技術である)。どちらもまだ実用化には至っていないので、研究を加速するための強力な政策が必要である。政府はそのためにあるのだ。これに成功しない限り、再度断言するが、日本の没落はますます加速されて貧しい国となり、わたしたちは日本の最高の時代に生きた最後の日本人になってしまう。