カテゴリ:研究室風景
さえ:
いまは卒業の時期で、修士の学生、卒研生は論文書きに追われています。さらに彼らのメインイベントは論文の発表会です。修士は発表15分、質疑応答5分が与えられていますが、卒研生は発表5分、質疑応答3分という忙しさです。彼らは、そのリハーサルを始めました。 修士の発表では審査員の全員が講師、助教授でできていて、まとめ役の一人が教授です。卒研生の発表では教師の一番下のランクである助手と講師が審査員を務め、ヘッドは助教授が担当します。審査員というのは発表後に質問をする人たちです。面白いことにここでは、質問をするにも教師の間のランクがその順番に反映されています。事大主義ですね。 東工大ではこれらの行事のすべては教授の責任でしたね。 学生の作るPPTはそれまでの先輩たちの発表を見習って、彼らの研究の背景、実験内容、結論が述べられています。それぞれ彼らの研究を映した力作です。でも、話を聞く人たちへの配慮は皆無です。実験内宇土のその結果を、ペラペラと話すだけです。 でも、報告をする人たちはその研究を修士の学生なら3年近く、卒研生でも6ヶ月やってきています。報告を聞く人たちは、それを採点する先生たちも含めて、言って見ればほとんど素人同然です。何年か前のことですが、うちの学生がsiRNAを遺伝子発現阻害の方法として使った研究を話したら、siRNAについてもっと話して下さいと言われました。2年前にぼくたちがやっとReal time PCRを使い始めたときその理論的検考察をしたら、質問が殺到してそれだけで20分を超えました。 ですから素人相手には、言葉で話すだけではなくビジュアルにして、話している意味が一瞬で明確につかめるような図を書くように、いつも指導しています。 でも今年の修士の一人は、PPTには修士論文に載せた図を並べるているだけで、それをわかりやすくすることに抵抗するのですよ。 例えばRT-PCRで得られたCT値の書かれた数字の並んだ表を眺めて、その数値を見比べて、なるほど演者の言う通りこの値が20だから、ほかの30という値に比べて沢山発現されているのだなとわかるのは専門家だけです(CT値は2のN乗の値で表されていて、検出するレベルになるまでにそれだけ増幅したという数値です、数字が大きい程、もとが少なかったことを意味します)。 このRT-PCRの結果は、最初に存在したDNA分子の数でも表すことができます(InitialTemplate Number)。これで表すと、どの分子の発現が元々多いのかが、数値で直ぐにわかります。ぼくはさらにそれを楕円の大きさにして描いて、直感的に最初の量を比べられるようにすることを提案しました。 でもこの学生の言うのは、「だって発表は15分なんですよ」 つまり、たった15分の発表なのに、どうしてそんな手間をかけるのかと、大いに不服です。 発表時間はたった15分しかなく、一つの図は10秒から20秒くらいしか人目にさらされない訳ですね。それだけの時間で話していることを理解してもらうために見せているスライドですから、それを有効に利用しない手はありません。当然、一目で要点が分かるようにする必要があるでしょう? でも学生はいくら言って聞かせても不得要領です。再計算する手間が面倒なのですね。 それで、学生には、発表する本人だけが内容を良く熟知しているけれど、聞いている人は、そのとき初めて聞く訳だから、素人だったらよほどわかりやすくスライドを作らないと、誰も話を理解できないのだよ。聴衆は、その時間は仕方なくあなたの話を聞いているけれど、鳩の群れと同じことで、つまり馬鹿同然なのだよ。その人たちにわかってもらうためのプレゼンターションなのさ。この先も、人前でプレゼンテーションをする機会は何度もあるでしょうけれど、目的は自分の言いたいことを人に伝えることにある訳ですよね。独りよがりの内容では、職を失うだけです。 ここまで言ってやっと、RT-PCRの結果は、ある遺伝子の発現量は数字の大小で表されるようになりましたが、さらにこの数値を可視化したいですよね。でも、ぼくはもうここで疲れ果てて、もっと内容を良くするよう指導する意欲を失いました。 ここで11年間学生の教育と研究に専念してきましたが、すべて学生を思い通りに染め上げる訳にはいきませんし、もしそんなことをしたら、教育者として増上慢なことこの上ないことです。ぼくたちのできることは、学生が判断できる材料を増やして、彼らが自分で理解して、自分で判断して、選ぶようにすることですものね。思うように行かないのも当然です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.06.16 20:44:35
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