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山形達也85歳の心理学

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2020.05.11
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カテゴリ:生命科学
自宅でひっそりしている友だちにメイルを書きました。


良い季節になりましたが、外出自粛で退屈しておいでのことと思います。

それで、話題提供。

新型コロナウィルス の蔓延でPCRが話題になり、この専門用語を多くの人たちが知るようになりました。

世界ではウィルスの検出にPCR検査を導入しているのに日本では検査の制限をしていることに多くの人たちが憤慨してきました。PCRを定量的に行うためにはリアルタイムPCRの装置が必要ですが、日本の大学や研究所には多数備えられています。そして多くの研究者が日常的にこれを使っています。

実は、私も(というか私たちの研究室の学生たちは)研究手段としてPCRを日常的に使いまくっていたのすよ。

どんな具合に使ってきたかを、例をあげて簡単に書いて見ましょう。

「がんの怖いところは転移することですが(転移がなければ、外科手術で完治します)、がんの転移のメカニズムを知って転移を抑制しよう」というプロジェクト」があるとします。

がん患者の腫瘍部分から手術で、非常に悪性の転移性の高い細胞を取ることができます。これを人工的な培地で培養します。腫瘍は大抵均一ではなく悪性度がさまざまな細胞の集まりです(それぞれの細胞の遺伝子の発現が違う)から選別をすると、転移性の高い細胞と転移性の低い細胞の二つの種類の細胞群が取れます。

細胞は培養して使います。何かの操作を加えて、転移性の高い細胞が転移性の低い細胞の性質を示すようになれば、この処理はがんの治療薬の候補になりますね(簡単のためにすごく乱暴な話にしています)。

そしてこの時、この細胞の中でどういう変化が起きているかを調べるのにPCRが登場するのです。細胞の中には10万種類を越すタンパク質が作られて、これらのタンパク質が互いに連絡しあって、細胞の機能を生み出しています。例えば、いろいろなタンパク質が一列に並んで情報のリレーをして情報を末端のタンパク質に伝える、或いは転移に直接関係するあるタンパク質の合成を高めたり抑えたりすると、理解してくださいな。このそれぞれのタンパク質を作るのにそれぞれの遺伝子があって、遺伝子からは転写によってメッセンジャーRNAが作られてそれが鋳型になってタンパク質を作っています。

遺伝子であるDNA → メッセンジャーRNA → タンパク質 という流れです。

細胞の中で作られているそれぞれのタンパク質の量には、このそれぞれのメッセンジャーRNAの量が、大体比例しているのですよ。タンパク質の量を測るよりも、PCRでその時々のメッセンジャーRNAの量を調べる方が簡単なのです。

実験ではメッセンジャーRNAを含むすべてのRNAを抽出し(DNAは入ってはいけません)、それを逆転写酵素でDNAに変え、目的とする遺伝子のDNAに反応するプライマーを加えてPCRを行います。

というわけで、私達の研究室は、解析手段として日常的にPCRを盛んに使っていました。昔は半定量的で正確ではありませんでしたが、今ではリアルタイムでPCRという方法で測るので、定量性があります。

実験室で細胞から抽出するのはほぼ定量的にできますが、今の新型コロナウィルス のPCR検出では、検体を採取するところからRNAの抽出までが、検体採取だってうまくいくとは限らないし、取ってから分析まで一様な方法ではないし、ブレが入るし、それで正確度に信頼性が低いのです。

PCRそのものの信頼性はとても高いのですよ。いまは30%なんて言われていてPCRが可哀想です。

PCRではそのRNA分子(実際にはDNA分子にして測定する)がいくつあったか(いくつコピーがあったか)の絶対値を出すことができます。でも、試料の中のRNAの量は一定ではないので、どんな時でも変わることなく発現する(ハウスキーピング)遺伝子との比較をします。たとえばアクチンとかリボソームRNAです。さらに実際の実験では、転移性の高い細胞が何らかの処理でどう変わるかを調べるものですから、元の細胞と、処理した細胞と、両者で調べたい遺伝子の発現をPCRで測定して、その数値の差を比にして問題にします。測定は2回繰り返しますし、実験そのもの(つまりある細胞に何かの処理をするという実験)を独立に3回以上繰り返します。論文を書くときにはデータを統計処理して、信頼性を算出します。

その処理でそのメッセンジャーRNA(ほぼ、それが発現するタンパク質の量に比例すると考えている)が、いつもの値と2倍、3倍、或いは10倍違ったらすごいでしょ?ワーオです。

いつもの値よりも下がる時は、比が1よりは小さくなるので信じ難い感じですよね。1/2、1/3、1/10、、、

問題のタンパク質に余力があると(つまりそのタンパク質の代謝速度が遅いと)、処理によって(つまり細胞の環境条件が変わっても)簡単には増減しませんが、それでも私達の体(細胞)はうまくできていて、無駄なことはしないのです。一般的にはすぐに適応します。

細胞の外から何かが伝わると、細胞の中でそれに応じてタンパク質の合成が増えたり減ったり、或いは全く新しく合成し始めたりします。外から入った信号が、最終的な指令に届くまでの過程はシグナル伝達と言って、細胞の中には様々な経路が知られています。このシグナル伝達は、前に書いたように、(タンパク質が一列に並んだイメージをしてください)あるタンパク質から別のタンパク質へと信号が伝えられるのですよ。つまりこれらのメッセンジャーRNAが増減するのです。

この信号が伝わると書くと、どうやって、と思うでしょ?

これは信号を受け取ると、その最初のタンパク質の形(コンフォメーションと呼んでいます)が変わって、自分の構造の一部をリン酸化します(ことが多い)。すると、このリン酸化した形に結合できるタンパク質がくっついて、くっつくことで今後度は自分をリン酸化する、或いはコンフォメーションを変える。すると、、、という具合に次々とタンパク質が変化していって、シグナルが伝わります。

すごいでしょ?

精巧な細胞の世界は神秘に満ちています。生命を作ったのは神様だと思わずにはいられません。欧米では神の存在を信じない人たちが徐々に増えていますが、生命科学の研究者には神を信じるものが多いというのもうなずけます。

どうかお大事に。コロナ禍を生き抜いてください。

なお、PCRをリアルタイムで、自動的に、しかも定量的に行うリアルタイムPCRについては、この後の5月23日の『PCRへの道 その五 リアルタイム PCR』に書いています。








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最終更新日  2020.05.27 07:08:38
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