うちのゾフィはどうしてぼくに飛びつかないのか
ぼくは犬のゾフィと一緒に暮らしている。通常はこの歳になると犬や猫を飼うことはないけれど、幸い、息子が「何かのときには面倒を引き受けるから」と言ってくれたので、2年前から飼い始めることが出来た。ただし、息子は「でも旅行に行くとかいう理由では犬を預からないからね」と付け加えることを忘れなかった。だから、ぼくは旅に出掛けられない。以前名古屋でジロと名付けた犬を飼っていた。学会に出かけるためぼくも妻も家を空けなくてはいけないとき、ペットを預かってくれる獣医さんのところに預けたが、結果は本当に気の毒だった。たった一泊二日なのに、ジロは食事を食べず、排泄もせずただじっと耐え忍んでいたのだ。学会に一晩泊りで出掛けて、帰りのその足でジロを受け取って獣医さんの門を出ると、ジロは歩きながら延々とPeeを垂れ流したのだった。いま一緒に暮らしているうちのゾフィは、人が大好きで家を訪ねてくれる人を大歓迎する。よく来てくれる人たちや、卒業生は大歓迎ではげしく尻尾を振りながら何度も飛びつく。飛びついたあとは部屋をかけ回って、また飛びつく。そしてたまにしか来ない息子も大歓迎で、床に這いつくばりお腹を上にして寝転がり、尻尾を激しく振る。上を向いたままPeeをして尻尾でそれを跳ね飛ばすことも多い。こういうときは後始末が大変だ。ゾフィが子供の頃叱ったので、ぼくたちの顔や口を舐めることはない。でも、嬉しさを表す飛びつきは禁止していないので、彼女はこうやって嬉しいときは何度も飛びつく。でも、毎日食事を与え、PeeとPooの後始末をし、散歩に行き、遊ぶ相手をしているぼくには飛びつかない。ぼくにはこれが不満だった。どうしてだろう?放送大学では面接授業があるので、これに出かけると、短いときで7時間、長いときで11時間くらいうちを空けることになる。その間ゾフィは一人で留守番だ。うちに帰ると、ゾフィが勢い良く飛びついて来た。これでわかった。ゾフィの飛びつく勢いと頻度は、ぼくが出掛けている時間に比例するのだ。ぼくのことを無視しているのではなかった。うちに訪ねて来る人には長く会っていない。だから狂喜して飛びついて迎えるのである。うちの息子なんか年に一度くらいしか来ないから、最大限の敬意を表して歓迎するのだろう。ぼくがゾフィに愛されていないわけではないことが、放送大学のおかげでわかったのだった。