『仮面ライダークウガ』の欠点とは
仮面ライダークウガはいつ観ようが夢中にさせてくれる。2000年に仮面ライダーが復活するという触れ込みでテレビの前の子供たちの期待感を煽り(その背後で大人たちの期待感も煽っていた)、2000年1月30日より放送が開始された。当時テレビの前の少年だった自分は多大なインパクトを受けた。シーンが変わるごとに画面下部に地域名と劇中時刻のスーパーが表示される。ミステリードラマっぽくて大人な雰囲気が漂っている。ショッカーやゴルゴムのような悪の組織なんか登場せず、画面に出てくるのは刑事や大学の研究員、ゆるい雰囲気の兄ちゃん。怪人は日本語を話さず、訳の分からない言語で喋る。しかも視聴者にさえその言語の意味が明かされない。これだけで、「仮面ライダークウガ」という作品がこれまでにない程拘りぬいて作られた作品であることが理解できた。当時、1998年のウルトラマンガイア~1999年のガメラ3という流れで、特撮界には「こだわって作る」風潮がひとつのトレンドになっていた(ようにリアルタイムで観ていた我々少年には感じられていた)。クウガはその流れのピークとして出現した番組であると、自分たちの目には映っていた。自分たち、という表現をするのは、当時クラスの男子の大半はクウガを見て、そのリアルさやこだわりに魅了されていたからだ。クウガはすごい。前述のように怪人が喋っている言葉は分からない(唯一「クウガ!」と言った瞬間だけ分かるのもシブい)、警察の組織がリアルに描かれる、古代語を専門家が解析して謎が解けていく、新しいフォームやバイクの登場に2話分丁寧に使う、1クール目ラストになってようやくライダーキックがお披露目になる(しかも主人公が試行錯誤して完成させる)。。。とにかく凝っているのだ!登場人物たちも魅力的で、会話も退屈じゃない。終盤に向けての緊張感と、ラストバトルの徹底ぶり(これも拘り)なんか挙げても、完璧に近い作品に思える。そう、クウガに欠点はない。そんなふうに思える。しかし、現在YouTubeで配信されているものを観ていると、数少ない欠点が見えてきた。それはまさかの”ベタ”だ。仮面ライダーに新しい風を吹き込み、新しい歴史を作るために生み出された作品である「クウガ」。しかしその設定はよく言われるように、昭和ライダーを平成にトレースしたに過ぎない。ショッカーはグロンギとなり、大幹部が命令を下して怪人が活動する様は、バラのお姉さんがゲゲルを管理し、順番に沿ってグロンギ怪人がゲームを実行する描写と大した差はない。大幹部の立ち位置はン・ダグバ・ゼバに。FBI捜査官、滝和也は警視庁に移動となった一条薫に。五代雄介は現代っぽくさわやかで柔軟性があってゆるいけれど、誰かの笑顔のために戦う芯の強さは、世界平和のために己の犠牲を顧みず戦った本郷猛を平成の人物像にリメイクしただけだ。こう書くと仮面ライダーというシリーズの”ベタ”をいったというのがよく分かると思う。がしかし、実は今回欠点として挙げている”ベタ”とは、そういうことを言っているのではない。じゃあなにが”ベタ”なのかというと、人間ドラマの描写である。クウガは、グロンギ関連の描写は抜群だが、グロンギと直接関係がないサブキャラたちのドラマがベタ過ぎて観ているとちょっと恥ずかしくなる。シリーズ序盤、五代を心配した桜子さんが雄介の妹を訊ねようとするも、アパート前で躊躇していて、たまたまゴミ捨てに出た五代妹が桜子さんに気付いて声を掛けるシーンがある。そこで桜子さんはきまりが悪そうに片手をほっぺたの近くで小さく挙げて挨拶する。これは2時間ドラマでありそうな、めちゃくちゃベタな描写だ。他にもグロンギに父親を殺された中学生の少女が行方をくらまし、110番に電話して「このままじゃ私死ぬかも」と伝言を残す一連の流れ、これなんかもまったくもってベタだ。教育テレビなんかで流れそうなほど、ベタだ。クウガは清廉潔白な物語だからこそ、こういうベタが連続する。ベタベタだ。続く平成2作目のアギトやそれに続く龍騎は逆にひねくれていったが、クウガのベタはベタ過ぎて、放送から年月が経過すると、古くささが加速度的に目立っていく。もしグロンギVSクウガ関連の描写のリアルさや秀逸さがあそこまで飛びぬけていなかったら、とてもじゃないが恥ずかしくて観てらんなかっただろう。この人間ドラマのベタさも、ある意味では昭和ライダーの系譜と言える。ヒーロー番組としてはもしかしたら正解なのかもしれないけれど、当時「大人でも楽しめる特撮ヒーロー」というブームの爆発が、翌年のアギトからであったのはこういう点から考えると非常に納得できる。だって、ベタって大人が観るとちょっと笑ってしまうもの。じゃあクウガがアギト、龍騎、555みたいにひねくれていれば正解だったのかというと、それはクウガが持つ「王道なのにかつてない」という魅力を損なっただろう。クウガはやっぱり、平成・令和ライダーで一番ヒーローヒーローしている番組だ。だからこそ多くの子供たちを驚かせながらもすんなりと受けれてもらうことに成功し、むしろ「かっこいい」「強い」と熱中させた。ベタをやってるのに革新させる、ストレートな作品。あれ、これってやっぱりめちゃくちゃすごくない?ていうか他にこれが出来てる作品って存在しなくない?となるとやっぱりクウガはすごい。欠点があるからこそ完璧であり得た、という、自己矛盾を抱えた欠点のない作品である。下記Blu-rayボックスでは、超古代語対訳版が収録されていて、グロンギの話す言葉に日本語字幕が付いている。通常版と両方を見比べるのも贅沢な楽しみ方。